2018/03/14(水)00:00
「漱石の長襦袢」 【半藤末利子】
著者は漱石の娘の筆子の娘で、半藤一利の妻。漱石や、父の松岡にまつわるあれこれを書いている。全体に目を通そうとは思わない人は、「まぼろしの漱石文学館」だけでも読むといい。
いわゆる木曜会の常連だった著名人が、ほとんど、漱石と鏡子にたかるばかりで、恩を返そうともせず、借金も踏み倒していることが書かれている。
鈴木三重吉がなんとかして文学館を作ろうと尽力していたのは意外だった。「文鳥」では何だか調子のいい男に書かれているのに。
著者は、文章教室に通った時に、「文章と人柄は別」と言われて、寺田寅彦の顔を思い浮かべたという。(p69)
悪妻とも言われる鏡子については、美化することなく、ありのままに書いている。こういう人でなければ漱石の妻ではいられなかったろう。
巻末に、筆子による『夏目漱石の「猫」の娘』が収められている。これも一読の価値がある。愛憎相半ばするではない。「憎」ではなく恐怖が心の中に残っていることが語られている。