「ちいさこべ」 【山本周五郎】
山本周五郎はずいぶん読んだし、NHKでドラマ化されたものも見た。ところがなぜか原作を読んだことはなかった。 中編が四編収められている。 「花接」(昭和23年)、「ちいさこべ」(昭和32年)、「ちくしょう谷」(昭和34年)、「へちまの木」(昭和41年)。 意外に「ちいさこべ」はあっけない話だった。 「花鎗」はかなり初期のものらしく、凝った心理描写にしようという気負いが感じられる。 いずれも本音ではなく建前を貫き通す話だ。自分という小さな存在の望みよりも、自分はどうすべきかということを考え、その通りにする。 「ちくしょう谷」とさだまさしのことは全く知らなかった。今回検索して初めて知った。 このなかで「へちまの木」は異彩を放っている。 自立を求める青年の話のようでもあるし、武士は武士であり町人にはなれないという話のようでもある。 「人間というのはこういうものだ」という妙な悟りが随所に出てきて鼻につくのだが、今でも「人生は~」なんて歌う人が大勢いるのだからこういう話があるのは当たり前なのだろう。