バフェットのゲーム
バフェットの事業買収のやり方は、極めて合理的であるということが、以下のようなゲーム構造を考えると説明できます。50億円の現在価値をもつ事業の100%所有権を起業家が売りに出した場合を考えます。バフェットの事業買収は、第一段階と第二段階の2つのゲームにより構成され、それぞれの利得行列が下記のようになります。第1段階:企業を買うバフェットの打ち手 起業家の打ち手 事業を売る 事業を売らない事業を40億円で買う (10,40) (0、0) 事業を20億円で買う (30,20) (0,0)第2段階:企業を統治するバフェットの打ち手 起業家の打ち手 経営を続ける リタイアする経営に口を出す (10,0) (-10、5) 経営に口出ししない (5,30) (-10,5)結論だけ言ってしまうと、第一段階:(30,20)第二段階:(5,30)という過程を経るのがバフェットの事業買収の道筋となります。まず、第二段階から説明すると、バフェットは経営に口出ししないとの評判を得ています。事業を100%売却してしまった起業家が、売却前と変わらず経営者として奮闘するのは、バフェットが口出しせず、自分の思うようにやれるから。第二段階の利得行列の左下(5,30)の"30"が起業家の利得になります。これはお金というより、事業を自分の思うように経営するというやりがいをお金に換算したもの、と考えてもらうとよいと思います。バフェットとしては、口出しした方が、5→10と利得が増えますが、起業家の”やりがい”を破壊してしまうため、起業家の利得は、30→0、になり、企業家はリタイヤして、のんびり暮らして5の利得を得るを選んでしまいます。このとき、バフェットに代わりの経営者はいないので、-10という損害を喰らってしまいます。バフェットの凄いところは、手持ちで経営者を揃えておけば、-10は喰らわずに、プラスの5とか10とかの利得を得られるかも、しれないのにそういうリスク回避をしていないこと。つまり第二段階で下記のようなゲームを構築できるのに、構築していないことです。バフェットの打ち手 起業家の打ち手 経営を続ける リタイアする経営に口を出す (10,0) (10、5) 経営に口出ししない (5,30) (10,5)つまり、バフェットの何が凄いかと言うと、起業家に対し、事業は100%買収しますが、経営はあなたにまかせます、ということを、第二段階のゲームの構造を見せることで、(手持ちの経営者はいないことを見せることで)信用させてしまうところです。通常、ゲームにおいて手の内を見せるのは、不利になるのですが、バフェットのゲームにおいては、見せることが交渉を有利に導くのです。第二段階のゲームが見えているため、第一段階のゲームでは、多少安くとも、経営権が我が手に残るなら、と起業家は考え、事業を売却するわけです。事業の経営権(起業家にとって30の利得)が保証されているわけですから。そして、この2段階からなるバフェットのゲームを繰り返すことで、バフェットは買収しても経営はそのまま任せるという、評判が高まり、益々案件がやってるようになり、さらに、通常の経済合理性からは考えられないような指値で、優良事業を次々と買収できるようになったわけです。バフェットが投資を始めた頃には、まだ、繰り返しゲームという概念は無かったと思います。ですから、バフェットは直感的に上記のゲーム構造を把握し、将来のため、地道に信用を積んだのでしょう。バフェットのゲームの、ゲーム構造を考察してみて、数兆円の資産を創り出した秘密をチラとではありますが、垣間見た気がします。