非常に適当な本と映画のページ

2006/11/17(金)14:59

The Year of the Scorpion/Michael Hartland著

洋書(57)

 元イギリス外交官マイケル・ハートランドによる諜報小説。 粗筋:  天安門事件から間もない時期。中国は各地の反政府運動で頭を痛めていた。政府首脳は、反政府組織が外国政府の支援を受けて政府を転覆するのでは、と恐れていたのである。  また、イギリスも、1997年の香港返還を前に様々な諜報活動を繰り広げていた。  中国諜報局に属するTangは、実はイギリスに通じている二重スパイである。彼は、アメリカ海軍諜報部のRoperを通じて、西側のある国の海軍に潜入している中国側スパイ・スコーピオンの管理役になったことを知らせる。  イギリスとアメリカは、スコーピオンの正体を何が何でも知りたかった。Tangに対し、スコーピオンの正体が知りたいと言う。  しかし、中国はTangが二重スパイであることに気付いていた。Tangをスコーピオンの管理役にしたのは、彼が二重スパイであることの証拠を掴む為だった。Tangは、Roperと会っていたところを写真に撮られ、それをきっかけに中国政府に逮捕された。  Tangは知っている事実を全て喋ることを強制された後、処刑された。  一方、イギリスが所轄する香港では、スコーピオンを暴く為、米英共同で捜査が進められていた。イギリス女性諜報局員のSarahと、アメリカ諜報局員のGattiは、元イギリス情報局長で、現在はマカオに住んでいる中国人Fooの力を借りようとする。  それに気付いた中国政府は、脅迫の一環として、工作員のLutherとJosieを送り込む。Sarahの住まいは爆破され、Gattiの家族は殺された。  イギリス諜報部は、中国国内の反政府組織を支援する為、諜報員を一人中国に送り込むことにした。Sarahがその役を買って出る。  Sarahの恋人でもあるRoperは、その計画に反対する。上層部と掛け合って計画中止命令を得る。しかし、一歩手遅れで、Sarahは既に中国に入国していた。  Sarahは中国国内の反政府組織のリーダーと会おうとするが、中国軍に襲撃された。会合は失敗に終わり、Sarahは中国を逃げ回る羽目になる。  LutherとJosieは、Fooの拉致に成功した。  Fooは中国に連れ去られた。中国諜報部に尋問される。別の場所へ輸送される途中で、反政府組織に救出される。Sarahと再会できた。  香港では、スコーピオンの正体を暴こうと、イギリス諜報部は怪しいと睨んだ人物を次々逮捕した。しかし、どれも性格的問題を持ちながらもスコーピオンとは無関係だった。  SarahとFooは、一人の反政府組織メンバーの助けを借りて、香港に自分らの位置を伝える。イギリス諜報部は、救出作戦を決行することにした。ヘリコプターを中国内に潜入させ、二人をピックアップする、と。ただし、上層部は追加の命令も与えた。二人の救出がどうしても無理な場合、中国側の手に渡らないよう、二人を始末しろと。Roperはその追加命令に反対するが、上層部は却下する。  ヘリコプターは中国に潜入するが、LutherとJosieが率いる中国軍が待ちかまえていた。ヘリコプターは撃墜される。SarahとFooは中国を逃げ回り続けなければならなかった。  SarahとFooは、中国沿岸にたどり着いた。Roperが送り込んだ海軍特殊部隊によって救出される。  香港のある病院には、中国から越境しようとしたところを撃たれた少女が収容されていた。Tangの娘である。その娘は証言する。中国政府は、Tangが二重スパイであることをかなり以前から気付いていた。Tangの知らぬ間に、家族を監獄に収容していたのだ。娘は運良く監獄から脱出し、香港に渡れた。  イギリス諜報局は、Tangの娘を尋問している内に、重大な事実に気付く。RoperがTangと中国で会っていた筈の日、Tangは家族と一緒にいて、一時も離れていなかったというのだ。  スコーピオンはRoperだった。  Sarahは、恋人でもあるRoperと会う。Roperは自分がスコーピオンであることを認める。自分は大したスパイではなかったが、良家の出身で、退役後政界に転じる予定だった。中国政府はそれを期待してスコーピオンを重宝していたのだ。  Roperは中国へ逃亡しようとするが、途中で射殺される。  一方、Lutherは、自分が中国政府から疎んじられているのを知っていた。諜報の世界から足を洗い、オーストラリアで逃れようと決める。愛人でもあるJosieと一緒に逃亡しようと考えるが、Josieは中国政府に忠実だった。Lutherを殺し、中国へ帰る。 解説:  ……という、月並みの諜報スリラー。  天安門事件直後の1990年代初期、イギリスは香港返還を目前に、かなり懸念を抱いていたらしい。中国政府が転覆され、大混乱に陥ると。  現在となっては笑い話に過ぎない。  中国政府は転覆されなかった。むしろより堅固になっている。中国経済は成長し続け、世界の工場と成りつつある。各国政府や企業も中国の13億人の市場を狙って言いなりになっている。  作中では、香港から人材が大量に流出しているとなっているが、実際には、返還直前から一旦香港から出た人材が香港に戻っていた、という有り様。香港の住民も作中とは異なり、返還に関して冷静だった。  イギリスは中国が混乱に陥ると本気で思っていたのだろうか?  奇妙に思うのは、中国は混乱に陥っていると作中で何度も言われながら、その諜報部はかなり効率的に機能していること。Tangが二重スパイであることを掴むし、SarahとGattiの襲撃に成功するし、Fooの拉致に成功するし、スコーピオンのリクルートに成功するし、ヘリコプター救出を阻止するし……。成功率がかなり高いのである。最終的には勝つのだ。  その反面、「優秀」な民主主義勢力のイギリスやアメリカは失敗ばかり。Tangを暴かれるし、Fooの拉致を許すし、ヘリコプター救出作戦を失敗するし、スコーピオンの捜査過程で無実の者を逮捕して死に追いやってしまうし……。スコーピオンの正体を掴めたのもほんの偶然なのである。  なぜ中国はここまで優秀で、イギリス・アメリカはここまで無能なのか。Roperがスコーピオンであったことに作中の登場人物の大半は驚いていたが、こちらは半分読んだところで予想できたので、判明した頃には何を今更、と思った。  Roper/スコーピオンは大物二重スパイ、とされながら、実際にはそうでなかった。それどころか恋人のSarahが中国政府に渡らないよう、必死に努力する。Sarahの中国潜入作戦を阻止しようとしたし、ヘリコプター救出が失敗したのも、彼が中国側に知らせたからだ(Roperがどうやって西側に気付かれることなく中国側に知らせることができたのかは不明)。Sarahがヘリコプターと合流したら、始末されるだけだと判断したのだ。  それを知ってか、SarahはRoperを逃してしまう。Roperは追手を振り切れず、最終的には死ぬが。  なぜSarahは逃したのか。恋人ではあるが、裏切り者でもあるのだ。彼のお陰で多数の人間が死んでいる。優秀な諜報局員なら、上層部に引き渡していただろう。恋愛物語にしたのは失敗といえる。  結局中国側は優秀な人材が揃っていて、西側はそうでない、てことか。  いや、それも正しくない。中国側の工作員Lutherは大して優秀ではなかった。というか、途中まで優秀なのに、最後になってから突然馬鹿になり、その為殺されるのだ。  Lutherはさっさと逃げればよいものを、愛人のJosieが来るまでジッと待つのである。Josieのことを忘れて逃げていれば、助かっただろう。  愛人の本心を見抜けず、その愛人に殺される低能工作員。  本作では、Gattiの家族を実際に抹殺したJosieが何でもないように中国へ帰る。それだけでも中国が勝ったといえる。  カタルシスも何もない小説。 関連商品: 人気blogランキングへ

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