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第1回「島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作。 著者松本寛大のデビュー作でもある。 この賞は推理小説界の鬼才島田荘司が唯一の選考人となっているのが特徴。受賞作はそのまま出版されたのではなく、島田荘司の指導により大幅に手直しされた、とのこと。 粗筋: アメリカ・マサチューセッツ州の小都市コーバン。 そこにはかつてガラス製造業で財を成した富豪クロフォード・リリブリッジが、謎の死を遂げた廃屋敷があった。 11歳の少年コーディ・シェイファーは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。不審人物との視線が合ったコーディは、直ちにその場から逃げ出した。 コーディの知らせを受けた知人サリー・リアリーの通報で、コーバン警察は直ちに現場に駆け付け、焼け焦げた遺体を確認。殺人事件だと断定した。 コーバン警察のバロット刑事はコーディに犯人について証言するよう、頼む。 が、問題が。 コーディは少し前に交通事故に遭っていた。それ以降、「相貌失認」の症状を抱えていた。視覚自体に問題はなく、対象の顔形が見えてはいるものの、その識別ができないのである。ある人物の顔写真を手渡し、その顔写真の人物が目の前に立ったとしても、目の前の人物と顔写真が同一だと認識できないという。 コーディは、犯人の顔をしっかりと見ているにも拘わらず、「男性らしい」「怖い顔をしていたようだった」くらいの証言しかできない。仮に犯人を再び目の当りにしたところで、そうと認識できる可能性は低かった。 バロット刑事は、直ぐ解決すると思っていた事件は難航すると悟った。目撃者から何とか証言を聞き出さないと、事件解決の可能性は低い。バロットは近くの大学の心理学部の教授に相談する。 そこで紹介されたのが日本人留学生で、心理学を選考しているトーマだった。教授は、トーマならコーディの疾患にもどうにか対応できる、と太鼓判を押した。 トーマは、自分が役に立てるとは思えないと感じつつも、調査を開始。 一方、コーバン警察も捜査を別方面から進める。 遺体は、事件現場となったリリブリッジ宅の出身者であることが判明。 事件は、単なる殺人・遺体遺棄事件ではなく、60年前のリリブリッジ家の謎にも迫る様相を見せてきた。 60年ほど前、富豪クロフォード・リリブリッジは後に事件現場となった屋敷で隠居生活を送っていたが、自殺する。彼が屋敷に閉じこもるようになったのは、一族を巻き込んだ列車事故がきっかけだった。この事故で、双子の弟ジェニングスの妻クララとその幼い子エドナは死亡し、クロフォードの妻マリオンは失明してしまっていた。マリオンはその後まもなく死去。妻の死をきっかけに、クロフォードは精神的に蝕まれたのだ、とされた。 それから30年後、既に廃墟となっていたクロフォード宅にヒッピーらが勝手に住み着き、その内二人が死亡するという事件も起こった。 そんなことから、クロフォード宅は幽霊屋敷扱いされていたのである。 バロットの捜査により、重大な事実が判明。コーディの知人で、通報者でもあるサリー・リアリーの母イルマの夫ハーバートは、クロフォード・リリブリッジの元使用人で、クロフォードが亡くなった後その双子の子供を引き取っていた時期があったのだ。 バロットは、サリーやイルマに嫌疑の目を向けるが、物的証拠に乏しい。目撃証言も、相貌失認の者が目撃者では決め手に成り得ない……。 解説はこちら: 関連商品: お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.08.12 22:41:56
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