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非常に適当な本と映画のページ

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2015.06.12
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カテゴリ:邦書

 福井晴敏のデビュー作。
 第44回江戸川乱歩賞受賞作品。


粗筋

 米国海兵隊が突如沖縄から撤退する、と宣言。
 日米共に混乱に陥る。
 ……と思われていたのだが……。
 平は、陸上自衛隊でリクルーターの仕事をしていた。以前はヘリ部隊に所属するパイロットだったが、墜落事故をきっかけに精神上の問題で操縦桿を握れなくなってしまい、リクルーターの仕事へと飛ばされたのだった。
 ある日、平は、元自衛官の東馬と再会。平と東馬は、防衛省が編成を試みていた自衛隊版海兵隊のメンバーだった。が、平がそこでの訓練中に起こった墜落事故で入院している間に自衛隊版海兵隊は解体されてしまい、東馬とも連絡が取れなくなっていたのだ。
 平は、その時点では東馬との再開に特に疑念を持たず、そのまま別れた。
 それから間も無く、平は何者かに拉致される。
 拉致したのは、同業者である筈の自衛隊に属するスパイ機関だった。そこで、機関に属する由梨という女性と会う。
 由梨は、米海兵隊が沖縄から撤退したのは、東馬の仕業だと説明。コンピュータウィルス攻撃で在日米軍施設を無力化し、米軍が撤退せざるを得ない状況を作り出したのだ、と。
 それだったら東馬をさっさと拘束しろと平は疑問に思うが、状況はそう簡単なものではなかった。東馬にコンピュータウィルスを持たせたのは、日本の軍国化を狙う防衛省の一派だという。また、東馬は米国政府そのものを揺るがす情報を握っていた。東馬は、日本側も、米国側も、自分に迂闊に手を出せない状況を作り出した上で、テロリスト「トゥエルブ」として、コンピュータウィルスによるテロを繰り広げていたのだ。
 東馬の行動は防衛省によって監視されていた。これまで誰とも特に接触していなかったが、ふとした所である人物と接触。それが平だった。東馬の手にあるコンピュータウィルスの回収を任務としていた由梨は、平を人質にすれば東馬が何らかの行動を起こすのでは、と期待した。
 東馬は、その期待に応えるかのように、平を奪還する計画を実行。実働部隊の先頭に立っていたのが、東馬の「娘」とされる少女の理沙だった。理沙は、その見掛けからは想像出来ない戦闘能力を発揮し、平を奪還。東馬の元に連れて行く。
 平は、自分の意思に反してあちこちに連れて行かれるのを、許すしかなかった。
 東馬と再会した平は、彼や、日本側や、米国側が何を企んでいるのか、どういった思惑で動いているのか、と問いただすが、明確な返事は得られない。東馬が日本の欠陥だらけの防衛政策や、それを許す日本政府、更にその状況を受け入れている日本国そのものに対し不満を持っていた。その上米国政府にも嫌悪感を抱いており、たった一人で日米双方を相手に戦いを挑んでいたのだ。
 東馬の生い立ちも明らかになっていく。
 東馬は、実は後に米国大統領にまで上り詰めた情報局員と、日本人女性との間に生まれた子だった。大統領に混血の隠し子がいて、しかもその隠し子にスパイ活動させていた、というのは米国にとっては表沙汰に出来ない弱みで、それこそが東馬に迂闊に手を出せない理由だった。
 が、流石の米国も業を煮やし、ついに実力行使に打って出る。東馬の隠れ場所を襲撃したのだ。
 そのゴタゴタで平は再び自衛隊スパイ機関に拘束される。
 一方、東馬は理沙と共に命辛々逃げ出し、最終目的地である沖縄へと向かう。
 沖縄では、唯一残っていた米国の特殊部隊が東馬を迎え撃つが、周到に準備していた東馬の奇策により壊滅状態に陥る。
 東馬は、沖縄の普天間基地の奥底に隠されていた化学兵器「GUSOH」へと向かう。これを使うと、沖縄は全滅する。日米共に混乱に陥る。これは、日本の軍国化を狙う防衛省の一派にとって、願ってもない事だった。だからこそ東馬を「利用」していたのだ。
 そこへ、ヘリを再び操縦出来るようになった平が、ヘリを飛ばして到着。
 東馬を阻止するのと同時に、軍国化を狙う防衛省一派の野望も打ち砕く。


解説

 日本ではなかなか有り得なかったミリタリーアクション。
 血湧き肉躍るサスペンスを期待して本を開いたのだが……。
 不完全燃焼のまま最後のページを迎えてしまった。

 冒頭から小難しい文章が延々と続く。
 それはそれで、ハードなテクノスリラーとしては悪くない。
 が、それから間も無く物凄い戦闘能力を持つ美少女戦士理沙や、美人の女性自衛官由梨が登場する。
 この時点で、シリアスな筈の小説が、ただのミリタリーオタク向け漫画のノベライゼーションに。
 ミリタリーオタク向け漫画のノベライゼーションも、そうと割り切って書かれていれば、読む側としてもそれなりに楽しめる。
 しかし、美少女戦士・美人自衛官登場後も文体はテクノスリラー振っており、小難しい軍事用語、そして著者個人の押し付けがましい国家論と防衛論が延々と続く。
 ストーリーそのものと、文体のバランスが取れていない。
 著者は、自身は物凄くシリアスな内容の小説を書いているのだと信じて疑っていないらしい。が、読む側は「結局ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションでしょ?」と一歩引いた目で見てしまうのである。
 シリアスなアクションが続き、漸くテクノスリラーらしくなってきたかなと思うと、また例の美少女理沙が現れて超人的な戦闘力で敵をバタバタ倒す、美人女性自衛官由梨が登場して男勝りの大活躍をしてみせる、といった場面が挿入され、ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションへと引き戻してしまう。
 それの繰り返し。

 作中の米国の描き方も、あくまでも反米思想を持つ(らしい)著者の視点に立ったものに過ぎず、アメリカの実情を正確に捉えたものとは言い難い。アメリカ人寿司職人がカリフォルニアロールを「正統な日本の寿司」と称して出すのと同じ。当の寿司職人は真剣なのかも知れないが、日本人の感覚からするとずれている。本作の「アメリカ」も、アメリカ人の感覚からすれば物凄くずれたものになっている。
 そもそも米軍が、日本で作り出されたコンピュータウィルスによる攻撃で完全に不能に陥り、沖縄からの撤退を余儀無くされる、という事態は有り得ない。
 サイバー戦争においては、昔も今もアメリカは最先端にあり、日本如きに振り回される程弱くは無い。「技術大国ニッポン」の虚構を未だに信じているのか、と呆れてしまう(本作は発表されてからかなり経っているので、現在だったらこの手のものを書かなかったかも)。

 テロリスト「トゥエルブ」である東馬は、米国大統領にまで上り詰めた人物の隠し子だった、というのが本作の鍵の一つとなっていて、この事実は日米関係は勿論、米国政府をも大きく揺るがず、とされているが……。
 大統領に隠し子がいた、戦後間も無い日本で駐在中に現地の女性との間に生まれた、しかもかなり後にその隠し子と再会した時、スパイとしてリクルートし、利用した、という事実は、あくまでも大統領個人のスキャンダルに過ぎない。国家元首とはいえ、超大国アメリカが、一個人のスキャンダルを隠蔽したいが為に長期的国家戦略を大転換する、というのは有り得ない。下手に隠すより、事実を全てさらけ出してやり過ごす方が得策だ、と考えるだろう。よくよく考えれば、米軍兵が他国に駐在中に現地の女性と深い関係に陥り、子を作ってしまった、というのは珍しい出来事ではなく、それが大統領であったとしても、国家を揺るがすスキャンダルとして騒がれるか、というと疑問である。
 たったこの一つの「事実」により、米国は迂闊に東馬に手を出せない、という設定になっている。が、様々な特殊部隊を有する米国が、サイバーテロ攻撃を慣行した犯人が特定されているにも拘わらず、平が関わりを持つまで何の手も打てなかった、打たなかった、というのは有り得ない。海兵隊を沖縄から撤退させる労力を考えれば、東馬一人をさっさと確保した方が早い、と判断する筈。

 日本側も、東馬を利用する側と阻止する側に分かれて戦う、というグダグダ状態。
 それに「同盟国」である筈のアメリカが「敵」として加わるから、一層グダグダ。敵味方が裏切りや「予想外の展開!」でガンガン入れ替わるので(東馬も極悪人として描かれてはいない)、最終的にはどうでも良くなってしまっている。
 勧善懲悪とまではいかなくても、敵味方はある程度固定し、シンプルに進めてほしい。

 これといったサスペンスが無いのも問題。
 ……米国を沖縄から追い出したテロリスト。
 その正体とは……?
 こうして、謎のテロリストとそれを追う防衛省の攻防を描くのかと思いきや、テロリストの正体は冒頭で明らかにされてしまう。よく分からない「協定」の為、身元が分かっているにも拘わらず当局は手を出せない(出さない)。テロリストは、美少女戦士の手を借りて、最終目的である沖縄攻撃を実行。
 あるテロリストがとんとん拍子で計画を実行する模様(多少の犠牲は払うが)と、それに対しろくな手を打てない政府機関の無能振りが描かれているだけで、「この後どうなるのか?」と期待させる部分が無い。

 主人公・準主人公クラスのキャラが無駄に多いのも問題。
 悪役の東馬、それに従う美少女戦士理沙、二人を阻止しようと動く平、自身の思惑で東馬を追う美人自衛官の由梨。
 美少女戦士と美人自衛官を省いて、東馬と平という男同士の命懸けの戦い、という構図にしていたら、もっと分かり易い、シリアスなものになっていたのに、と思う(ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションにもなっていなかっただろう)。
 何故著者は美少女・美人を挿入する事にこだわったのか(他の著作でも同じ構図になっている)。

 本作のタイトルの「Twelve Y.O.(12歳)」は、戦後日本を統治したGHQ司令官マッカーサーが、日本について述べた言葉を基にしている。
 日本の精神年齢は12歳で、昔も今も大人になり切れていない、日本は国防や主権について真剣に取り組んで、「大人」へと成長すべきだ、が本作のテーマらしい。
 ただ、マッカーサーの「12歳」の発言は、日本における民主主義の成熟度についてそう述べた、というのが一般的な見解で、日本や日本人そのものを「12歳」と貶した訳では無い。戦後のマスコミにより「日本」「12歳」に本来無かった尾頭が付けられて一人歩きし、「日本人の精神年齢は12歳」報道へと繋がったとされる。
 著者は、「大人になり切れていない日本」をテーマに様々な小説を発表している様だが……。
 シリアスな筈の小説に美少女や美人を当たり前の様に登場させる矛盾からすると、本人も完全に大人になり切れていない感じ。
 結局小説家(というか人間全体)なんて皆そうだろうと言ってしまえば、確かにそうななのだが。

 本作は、江戸川乱歩賞受賞作品。
 江戸川乱歩賞は、国内では最も歴史があり、権威のあるミステリー小説文学賞。
 ただ、受賞作そのものは、受賞作であるという事以外はこれといった特色の無いものが殆ど。
 本作も、その例から漏れない。





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Last updated  2015.06.13 18:54:10
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