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非常に適当な本と映画のページ

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2015.08.06
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カテゴリ:邦書

 倒叙形式と本格物を掛け合わせた実験的な推理小説。
 殺人犯と、殺人事件を解明しようとする探偵役との攻防を描く。


粗筋

 大学時代に同じサークルにいた7人が、同窓会の為に、高級ペンションに集まる。
 その中の一人の伏見が、サークル仲間の新山を殺す事に。
 ペンションで行われる同窓会は、殺害するのに打って付けのチャンスだったのだ。
 伏見は、新山が宿泊する部屋に忍び込み、殺害。ある理由から(というか、殺害に至った理由から)、部屋を密室状態にした上で、部屋から出る。
 ペンションに集まっていたサークル仲間は、食事会を開始。
 が、いつまで経っても新山が姿を現さないので、不思議に思う。
 同窓会は、ペンションの大掃除も兼ねていた。その作業に疲れてしまって眠りこけているんだろう、と最初は気楽に考えていたが、流石に何時間も目を覚まさないのはおかしい、と思うようになる。
 新山は寝ているのではなく、事故死しているのでは、確認の為にドアを破ろう、という提案が出されるが、却下される。ペンションは一時的に借りているだけで、オーナーは別にいる。ドアは高価な年代物で、破壊した後に「実は眠っていただけで、ドアの破壊は早とちりでした」では取り返しがつかない、というのだ。
 ただ時間が過ぎていく中、サークル仲間の一人の優佳が、新山は殺されているのでは、と疑い始める。
 優佳は、容疑者でもある同窓会参加者らの言動を見て一人一人除外していき、最終的には伏見に行き着く。
 しかし優佳は、新山を殺したのは伏見だと知りながらも、追及するどころか、伏見に犯行のミスを伝え、その証拠を消す機会を与える。
 殺害した張本人である伏見(優佳以外の同窓会参加者は、まだ殺人に気付いておらず、伏見が犯人だとも気付いていない)により、閉ざされた扉が開けられ、漸く新山の死体が発見されるに至る。


楽天ブックス(large)

解説

 本格推理とは、基本的に読者にも探偵役にも真犯人が冒頭では明らかにされておらず、探偵役が事件を捜査する事で意外な犯人が明らかにされる、というミステリー。
 倒叙物とは、冒頭で真犯人が犯行(大抵は殺人)を実行する場面が描かれ、読者は勿論、探偵役も犯人が分かっているが、決定的な証拠は無いので、探偵役がいかに真犯人の完全犯罪を崩すのかに焦点が当てられるミステリー。
 この2タイプのミステリーは、相反するものなので、組み合わせる事は出来ない筈。
 本作は、それにあえて挑戦している。
 犯人が人を殺し、その死体が発見される前に、探偵役が犯人を断定する、という展開も斬新である。
 残念ながら、成功しているとは言い難い。

 本格推理物として読んだ場合、犯人が冒頭で明らかにされるので、いわゆるネタばれ状態になっていて、探偵役がラストで「犯人は貴方ですね」と指摘する場面に至っても、意外性も何も感じない。
 倒叙物として読んだ場合、本来なら犯人対探偵役の一騎ちとなるべき展開が、探偵役が犯人探しの為にまごまごするという場面が延々と描かれ(くどいが、読者は既に犯人が誰か分かっている)、歯痒さしか感じない。

 小説の設定も、「死体が発見され、正式に殺人事件と認定される前に探偵役が犯人を特定する」という展開の為だけのもので、舞台も、登場人物の言動も、常識離れしていて、リアリティを感じない。
 元サークル仲間が集まり、一人が部屋に閉じ篭もっていつまでも姿を現さないのに、他の参加者があれこれ理由を付けて部屋に突入して確認しない、というのは異常。
 ドアを破って開けない理由が、「ドアは年代物で、無闇に破壊出来ない」となれば尚更。そこまで高価で、代替不可能なドアがあるとは思えないし、全損させずに開ける方法だってあった筈(作中では、ドアを破るとなったら斧で破壊するしかない、としか述べられない)。
 窓を破壊し、鍵を開けて侵入する方法も提案されるが(最終的にはこの方法で進入する)、当初は警報ベルが鳴り響いて近所迷惑になるから駄目だ、という訳の分からない理由で却下される。
 本作の為だけの、現実性に乏しい設定としか言いようが無い。

 犯人が冒頭でネタばれされてしまう「本格推理」なので、最大の謎は、犯人が殺人に手を染めざるを得なかった動機となるのだが……。
 これもまた現実性に乏しい。
 サークルのメンバーは、全員が臓器移植のドナー登録をしていた。しかし、新山は、海外を訪れては性風俗で遊んでいた。
 性感染症を患っている可能性のある者がドナー登録し、万が一臓器を提供する羽目になったら、移植を受けた患者が性感染症を患ってしまう可能性がある。ドナー登録の精神に反すると感じていた伏見は、新山に対し性風俗通いを止めろと忠告したが、拒否されたので、殺す事にしたのだった。
 伏見が部屋を密室にしたのは、死体の発見を遅らせ、腐敗を進ませ、臓器が移植される可能性を無くす為だった。
 ……いくら何でも独りよがりな、身勝手過ぎる動機。
 性風俗通いするからといって性感染症を必ず患うとは限らない。患ったとしても、不慮の事故で死ぬとは限らない。死んだとしても、臓器を提供出来る状況で死ねるとは限らない。臓器を提供出来る状況で死んだとしても、臓器が性感染症に犯されているとは限らないし。そもそも臓器提供がすんなりと進むとは限らない。
 不確定要素がとにかく多いのに、伏見はまるで新山が確実に性感染症を患っていて、今後臓器を提供出来る状況下で確実に死ぬと信じて疑っていない。
 仮にそうだったとしても、何故伏見が「俺が新山の『悪行』を阻止しなければ!」という身勝手な「正義」を実行するに至ったのかが説明されていない。

 犯人の伏見と、探偵役の優佳の頭脳戦、という構図も、成立しているとは言い難い。
 伏見はただの素人だし、優佳もごく普通の女性(作中では、優佳が物凄い観察力を持つ女性だ、伏見が感心する場面があるが、読んでいる側にはそれが伝わらない)。
 凡人同士の腹の探り合いに終始していて、それが200ページも続くのだから、中ダレする。

 ……探偵役の優佳が伏見を犯人だと断定した上で(他の参加者には伝えない)、「トリック」の欠陥を指摘。伏見は窓を破って部屋に進入する際、その欠陥を「正した」上でドアを開け、死体を「発見」。漸く参加者全員が新山が死んだ事を確認し、警察に通報する段階になった……。
 この時点で、200ページにも及ぶ本作は終了。
 要するに、警察による捜査はまだこれからなのである。
 伏見は、優佳の助けもあり、完全犯罪を成し遂げた、と満足している様だが、警察を欺けるとは到底思えない。
 ……ある者が部屋を偶々密室状態にして閉じ篭もっていたら、事故死してしまい、それを同じ建物にいた旧友らが、数時間にも亘って何の手も打ちませんでした……。、
 ……と、警察に説明した所で、「はい、そうですか。これは事故死でしょうな」と納得するか。
 何故被害者は部屋を必要も無いのに密室にしたのか、何故旧友らはドアを破壊して中に入らなかったのか(ドアが年代物だった、なんて言い訳を警察が易々と受け入れるとは思えない)、等々、警察は色々追及するだろう。
 伏見が思いもしなかった側面から、新山の死は殺人だ、と断定される可能性が高い。状況からして部外者による犯行とは考え難いので、当然ながらペンションに集まった者らに容疑が向く。
 警察が総力を挙げて捜査すれば、素人の工作くらい難無く見破られる。
 伏見はそこまで見越して犯罪に手を染める事を決めたのか。

 倒叙形式と本格物の融合、という事で、こちらとしては、伏見が殺人を実行に移す様子が冒頭で描かれるものの、「実は新山はその時点では死んでおらず、別の同窓会参加者によって殺された」「新山だと思って殺した人物は、実は新山ではなかった」といったどんでん返しを期待していた。
 が、冒頭通り伏見が犯人で、新山が被害者、という、「本格物」の割には捻りの無い結末に、驚いた。

 要素を個別に見れば、面白くなりそうだな、と思わせる小説だが、全要素をまとめた上で見ると、無駄や矛盾が多い。
 倒叙の要素を排除し、探偵役の優佳が、久し振りに集まった旧友の内誰が閉ざされた扉の向こうの新山を殺害したのか、扉が開かれる前に密かに追及する、という本格推理にしていたら良かったのに、と思う。
 殺人の動機はもう少し練らなければならないが。







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Last updated  2015.08.15 16:26:06
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