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非常に適当な本と映画のページ

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2016.05.17
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カテゴリ:邦書

 社会派推理小説の第一人者森村誠一による長編推理小説。
 著者の代表作「棟居刑事シリーズ」第1作。
 1975年に雑誌で連載。後に単行本化され、700万部を超えるベストセラーになっているという。
 度々映画化・ドラマ化されている。


解説

 森村誠一が作家として飛躍するきっかけとなった小説だという。
 幾度か映画化・テレビドラマ化されてもいる。
 当時の時代背景からすると、それも納得出来る読み物になっている。
 しかし、今の時代、事前知識抜きで読むと、単に古臭いだけの小説に感じる。

 本作は「推理小説」となっている。
 ただ、冒頭では興味深い「謎」が提供されるものの、捜査の過程であっさりと解けてしまい、「普通の事件」になってしまう。後は主人公である刑事らが事件をひたすら追って解決するまでの経緯を描いているだけ。
「推理小説」の言葉でイメージする意外な展開や、奇怪なトリックや、ラストで全てを覆す大どんでん返しは無い。大抵の読者なら予想するであろう展開から逸れる事無く、物語は進む。
 要するに、物足りないのである。
 この物足りなさが、最大のトリックとも言える。幾度も映像化されている「大傑作」が、まさかこんな物足りない終わり方になるとは、と。
 当時はこの程度で「推理小説」を名乗れたのか、と驚いてしまう。

 物足りなさの最大の理由が、捜査が全てご都合主義で進み、解決に至る事。

 ジョニーは、瀕死の状態で突然高級ホテルに現れ、息を引き取る。1970年代の日本では非常に目立つ黒人が、どこからやってどうやって来たのか・・・・・・。
 ・・・・・・捜査の過程で、タクシーで近くの公園から移動して来たのが、あっさりと判明。

 ジョニーは、アメリカでは裕福とは言い難い家庭の出身。そんな者がどうやって訪日の為の資金を捻出したのか・・・・・・。
 ・・・・・・ニューヨーク市警の刑事が、ジョニーの父親が当たり屋をやって金をせびり取ったのが、あっさりと判明。

 ・・・・・・・現場の公園で麦藁帽子を発見。これは事件と結び付くのか?
 はい、そう。ジョニーが落としたもの。ジョニーが麦藁帽子に相当の思い入れがあった事も、来日当日に利用したタクシーで紛失した詩集により判明。詩集は、まるでこのタクシーに置き忘れる為だけに長年大切に保管されていたかの様。

 ジョニーは、アメリカから日本へ到着してから間もなく殺されている。国際的な陰謀なのだろうか?
 ・・・・・・ジョニーは単に生みの母親に会いに来ただけ。殺したのはその母親である可能性が高い。国際的な陰謀でも何でもない。

 ジョニー殺害の犯人は、家庭問題評論家として名を馳せている八杉恭子の可能性が高い。しかし、決定的な証拠は無く、彼女の夫は代議士。迂闊に手を出せない・・・・・・。
 ・・・・・・ジョニーの持ち物とされる詩集に収録された詩を刑事が朗読したら恭子は狼狽し、全て自白。

 日米を跨る、国家が絡んだ大事件であるかの様な描き方で始まるのに、蓋を開けてみると近親者による殺人事件。
 大風呂敷を広げながら、著者が自ら小さく小さく畳んだ感じ。

 無駄なストーリー展開も多い。
 本作では、ジョニーの殺人事件だけでなく、失踪した不倫女性を探す夫、そして堕落した生活を送る男性の行動を描く場面に相当のページ数が割かれている。
 この二つのサブプロットは、堕落男性が不倫女性を車で轢き殺してしまい、死体を山中に埋めた、という展開により一つのサブプロットへと集約される。
 集約されたサブプロットは、メインプロットにどう結び付くのかと思っていたら、堕落男性はメインプロットの加害者恭子の息子でした、というだけ。
 堕落男性が恭子の息子である事は、早い段階で明らかにされる。堕落した生活を送っているのは、母親の恭子が息子を踏み台にして「家庭問題評論家」を気取っているからだ、という事で。
 恭子が逮捕される頃には、息子の方も轢き逃げ・死体遺棄で逮捕される、という展開になっている。
 このサブプロットは、メインプロットそのものには特に影響を与えておらず、無くても本作は成り立つ。
 勝手に展開しているだけで、「推理」「謎」の要素は無く、結末も読めてしまうこのサブプロットに、何故ページを長々と割いたのかが分からない。
 
 登場人物も、魅力に乏しいというか、共感に値しないのが多い。

 主人公の棟居は、幼少期のトラウマを今も抱えている、という点は理解出来るものの、刑事になった理由、捜査に没頭する理由が捻じ曲がっていて、共感出来ない。刑事の肩書きを持つサイコパスに過ぎない。
 何故こんな捻くれた人物にしてしまったのか。
 事件は棟居の活躍によって解決に至った、といった描き方になっているが、実は殆どが著者のご都合主義の賜物。
 優秀な刑事とは言い難い。

 相当なページ数が割かれている恭子の息子は、ただの屑。
 こちらも共感出来ないので、興味が沸かず、女と共にニューヨークへ逃亡したものの、日本からやって来た素人探偵に捕まった、という展開を読まされても何の感情も沸き起こらない。

 人間を次々登場させて、深く掘り下げて描けば「人間を描く」事になり、小説に深みが出る、という考えなのかも知れない。が、共感に値しない、その上退屈な登場人物の言動をいくら詳細に描いたところで、小説は面白くならない。

 犯人の八杉恭子は、現在の名声を守る為、若い頃生んだ実の息子であるジョニーを殺害する事を決める。いざ実行に移す時は躊躇いが生じ、致命傷を負わせるには至らなかった。
 刺されたジョニーは、漸く会えた実の母親に「僕は邪魔なんだね」と言い残し、傷を致命的にし、彼女にその場から去るよう促し、現場を離れ、別の場所で絶命。
 実の子を死に追いやったのだから、恭子は懲りて、無謀な犯行を重ねないだろうと思いきや、昔ジョニーとその父親と共に訪れた霧積の宿で働いていた老婆を殺害。
 実の子と、自分にとって不利な証言をする恐れがある老婆を死に至らせた冷酷な女、と言える。
 警察は逮捕に持ち込むまで相当苦労するだろう、警察と恭子はどんな攻防戦を繰り広げるのか、という読者の期待に反し、恭子は刑事が朗読した詩を聞いて狼狽し、全てを自白してしまう。
 この結末もまたご都合主義的。
 最近では下手な刑事物でもやらないであろう展開。
 これだったら、老婆はとうの昔に死んでいて、その方面での捜査は無駄骨に終わり、恭子は実の息子の死が大事件に発展してしまった事を知って、一人で苦悩する、という風にしていたら、整合性が取れただろうに。

 本作で、著者は二つのどんでん返しを用意している。

 一つは、八杉恭子が、棟居の父親が死ぬ原因となった事件に関わっていた事。

 もう一つは、捜査に協力したニューヨークのシュフタン刑事が、棟居の父親を死に至らせた張本人だった事。

 一つの殺人事件の捜査で、ここまで偶然が重なり合うのは有り得ない。
 どちらか一つだけに留めていたら、インパクトが強烈になっていただろうに、両方とも盛り込んでいる為、ストーリー展開そのものが強引に映り、リアリティを失わせてしまっている。
 棟居が刑事となるきっかけとなった事件の顛末を、本作で丸く治めたかった、という事なのかも知れない。
 ただ、それだったら、幼少期の棟居を捨てた実の母親は、恭子に殺された老婆だった、という風に更に強引に持って行けば良かったのに、と思ってしまう。

 本作では、アメリカと日本の社会情勢を描いている。

 ・・・・・・アメリカは退廃した国家。人種のるつぼと化し、拝金主義が蔓延し、貧富の格差が大きく、富豪が暮らす地区から僅か数百メートル離れた所にスラム街があり、窃盗程度の犯行は最早警察も犯罪と見なしていない・・・・・・。

 ・・・・・・日本は優秀な国家。単一民族の為互いに支え合って、敗戦から蘇った。経済を復興に導いた国民の勤勉さは、アメリカも一目を置く・・・・・・。

 現在読むと、笑い話になってしまう。
 アメリカの拝金主義は相変わらずだが、日本もアメリカ同様金満主義に走った結果、30年間に及ぶ、未だに終わりの見えない低迷期に入ってしまった事を、作者は予想していただろうか。
 社会派小説を名乗りながら、実際の社会の読みが浅いように感じる。

 本作は、何度か映像化されている。
 現在の低予算刑事物原作本のルーツと呼べる作品。
 功罪は、あらゆる意味で大きい。


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Last updated  2016.10.21 17:56:42
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