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邦書

2018.05.07
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カテゴリ:邦書

 サイコセラピスト探偵波田煌子シリーズ第3弾。
 警視庁プロファイラーを務めた事があるサイコセラピスト波田煌子が、新たな勤め先の学習塾で起こる次々起こる事件を解決していく本格推理連作短編集。


粗筋

 教育こそが日本を変える、と希望に燃える波田信人(ハタノブト)は、勢いで学習塾を開く。
 事務員として、波田煌子(ナミダキラコ)を採用。
 信人は、親しみ易い名の学習塾にしたかった為、平仮名にしよう、と考え、自身の名を冠した看板を立てるよう、煌子に命じる。煌子は、自身の苗字と、信人の苗字が偶々同じ漢字だったので、読み方も同じだと勝手に判断し、「なみだ学習塾」の看板を掲げてしまう。それを知った信人は直ちに「はた学習塾」に直そうとするが、「なみだ」を可愛いと思った学生らが次々訪れて来て塾生となった為、そのままになった。
 何とか始まった学習塾だが、一癖も二癖もある塾生ばかりで、奇妙な事件が起こる。
 それらの真相を、煌子が解いていき、信人はその度に感動して涙を流す。

第1限 路線図と涙

 信人は、ある日、授業を受けていた一人の男子生徒に、夢を持て、教室から飛び出して世界を見ろ、といった説教をしてしまう。
 その直後に、その男子生徒は行方をくらます。
 男子生徒の親は、一応連絡があり、広尾にいる、府中にいる、港区にいる、といった情報を伝えてきている、という。それらには親戚がいるので、訪ねたのかと思ったが、そうではなかった。
 信人らは、もしかしたら男子生徒は誘拐されていて、自分の居場所を、誘拐犯が油断している隙を見計らって伝えているのでは、と推測する。
 しかし、煌子は、男子生徒が発する連絡の内容を見て、これは誘拐ではない、と明言。男子生徒の現在地を言い当て、男子生徒と再会を果たす。
 信人らは、広尾、府中、港区といった東京都内の地名が連絡内容にあったので、男子学生は都内にいる、と早合点していたが、実際には北海道や広島等、全く別の地域へ一人旅していた。
 男子生徒は、授業で東京と同じ地名の場所が全国にあると知って、興味を持った。その直後に信人の「教室から飛び出して世界を見ろ」の説教で刺激され、それらを訪れてみよう、と思い立ち、実行に移したのだった。

第2限 相似形と涙

 男子生徒が、試験で低い点数を取る。男子生徒の親が心配し、信人の下へ相談にやって来た。
 信人も、男子生徒はいつもは好成績だったので、不思議に思っていた。
 話を訊くと、男子生徒は塾に通う女子生徒に一目惚れした。その女子生徒は携帯電話を持たせてもらえていなかったので、男子生徒は彼女の自宅へ電話を掛ける。女子生徒本人が電話に出たので、思い切って告白したが、にべも無く断られた。
 男子生徒はフラれたショックで勉強に身が入らず、低い点数を取ってしまったのだった。
 信人は、その女子生徒を呼び出し、交際を断ったのは事実か、と問う。
 女子生徒は、交際を断っていない、と明言。そもそも、電話にすら出ていない、と。
 信人は、どちらかが嘘を吐いている、と思った。
 男子生徒が嘘の言い訳をしているのか、女子生徒が怖じ気付いて嘘を吐いてしまったか。
 が、煌子は女子生徒の自宅に連絡し、彼女の母親と話した時点で、真相は明らかになったと宣言。
 男子生徒が女子生徒の自宅に連絡した際、女子生徒本人が電話に出た、と思ってばかりいた。しかし、実際に電話に出たのは女子生徒の母親だった。親子なので、声が似ていたのだ。母親は、学生の身である娘が異性と付き合っている暇なんてない、と判断。電話で応対しているのは娘だと男子生徒が勘違いしているのをいい事に、娘の振りをして交際を断ったのだった。

第3限 清少納言と涙

 ある中学校で、クラス全体の国語の成績が上がっていた。
 教師としては喜ばしい事なのかも知れないが、上がり方が異常だった。しかも、上がっているのはそのクラスだけで、同じ学年の別のクラスは、国語の成績は寧ろ下がっていた。
 クラスの成績が上がっている理由の一つが、問題児だった男性生徒の成績が上がっている事だった。
 問題児の成績がいきなり向上するのは有り得ない、何か不正があるのでは、と教師は疑い始めた。
 問題児とされていた男子生徒は、なみだ学習塾の塾生でもあった。
 中学校での異様な成績向上のニュースは、信人の耳にも入っていた。
 信人としては、男子生徒が不正を働いているとは思いたくなかったが、状況からすると、何らかの不正を疑わざるを得ない。
 信人は、男子生徒に不正を働いていないか問う。男子生徒は否定した。
 話を聞いた煌子は、推理を展開。
 男子生徒は不正は働いておらず、信人の授業に触発されて純粋に勉学に励み、成績を向上させた。問題児だった男子生徒の変貌振りに、クラス全員が影響され、その結果成績が向上した。
 他のクラスの成績が下がっていたのは、時間割が原因、と煌子は論じる。
 国語の授業を担当する教師は声が小さく、生徒らからすると何を言っているのか聞き取り難かった。そんな事もあり、国語はとにかく退屈な授業だった。それに、給食後の午後という、最も睡魔に見舞われる時間帯が国語の授業に割り当てられていた為、クラス全員が居眠りしてしまっていた。
 一方、問題児のクラスでは、国語の授業は午前に割り当てられていたので、退屈しながらも、居眠りする生徒はいなかったのである。

第4限 疑問詞と涙

 なみだ学習塾に通う女子生徒が、自分は虐めに遭っている、と悩んでいた。
 女子生徒は、教師から、テストがある事を掲示板に書き込んでくれと頼まれたので、そうした。
 翌日、掲示板で書いてあった通り、テストを実施する、と教師は宣言。
 掲示板にそんな事は書かれていなかったと、一部の生徒は反論するが、教師は耳を貸さず、テストを実施した。
 テストについて知らされていなかった生徒らは、女子生徒を仲間外れにした。
 仲間外れにした生徒も、信人の塾に通っていたので、何故仲間外れにするのだ、と彼は問う。
 生徒は、掲示板にはテストについて全く触れておらず、お蔭でテストで低い点を取ってしまった、と答える。
 女子生徒は、掲示板にテストについて書き込んだ、と言い張った。
 どちらかが嘘を吐いている、と信人は思った。
 話を聞いていた煌子は、どちらも嘘は吐いていない、と指摘。
 テストを実施した教師はパソコンにはまっていて、今時パソコンを所有していない学生なんていない、と信じ込んでいた。
 しかし、女子生徒はパソコンを所有していなかった。「掲示板に書き込んでくれ」と教師に頼まれた時、ネット上の掲示板だとは思わず、自分が住む団地の掲示板の事だと勘違いし、そこにテストについて書き込んでしまったのだ。

第5限 月の満ち欠けと涙

 男子生徒が、マンションのエレベータから消えるという、マジックを披露すると宣言。
 学校の同級生や教師らは、そんな事が出来るものかと疑っていたが、男子生徒は乗った筈のマンションのエレベータから消えていた。
 別の階で降りたのか、と単純に考えたが、階と階の間の移動や停止時間を考えると、エレベータが途中の階で停止したのは有り得ない。
 どこに消えたのだ同級生らが探し回っていると、携帯電話に連絡が入り、自分は宇宙空間にいる、という。
 そんな馬鹿な事がある訳無い、と思いつつも、携帯電話の指示通り動く。
 そうこうしている内に、男子生徒から学校にいる、という連絡が入り、同級生らは男子生徒と再会する。
 このマジックはナミダ塾でも話題に。
 信人は、そもそも何故男子生徒はこんなマジックを披露したのかと不思議に思う。
 男子生徒の動機を読み切った煌子が、真相を明かす。
 男子生徒は勉強のストレスから、学校にあった問題用紙を盗んだ。が、考えを改め、元に戻そうとしたが、人がいるので戻したくても戻せなくなってしまった。そこで、マジックを披露して、同級生や教師らを学校の外に誘い出し、その隙に問題用紙を元に戻したのだった。
 エレベータには、担架で横になった者を収容可能にする為のスペースが奥に設けられていた。男子生徒は通常は塞がれている空間に隠れ、エレベータが空になった様に装ったのだった。

第6限 確率と涙

 なみだ学習塾のある男子生徒は、嘘を連発していた。
 日本からアメリカまで1時間で行ける、老人ホームに女子大生が入居している、等々。
 見え透いた嘘ばかり吐くから、周囲から嫌われる羽目に。
 しまいには、自分は空を飛んで宇宙旅行へ行く、と言い出した。
 その話を聞いた煌子は、顔色を変える。ビルから飛び降りるつもりだ、と。
 煌子と信人は、問題のビルを特定し、男子生徒の自殺を未然に防ぐ。
 男子生徒は嘘を吐いていたのではなく、変わった視点で物事を見ていただけ、と煌子は指摘。
 小笠原諸島からアメリカ領のマリアナ諸島までは、300キロ程度しか離れておらず、ヘリを使えば1時間で行けるので、「日本からアメリカまで1時間で行ける」というのはあながち嘘ではない。
 また、老人ホームの入居者に、放送大学に通っているのがいた。それなら、老人ホームの入居者に女子大生がいる、というのも嘘ではない。
 宇宙旅行に行く、と聞いた煌子が顔色を変えたのは、地球も宇宙にある以上、どこからか飛び降りれば「宇宙旅行した」事になる、と読んだからだった。

第7限 基本的人権と涙

 卒業シーズンを迎えたなみだ学習塾では、塾生に対し、テストをする事にした。
 信人は、テストに載る問題について講義し、後にテストを実施。
 すると、塾生は全て同じ点数を取った。
 成績があまり良くない塾生らは通常以上の点数を取る一方で、成績が良い筈の塾生らは、何故か凡ミスを犯し満点を取っていなかったのだ。
 偶然にしては出来過ぎている、と信人は思った。塾生らの不正を疑う。
 テストを確認した煌子は、塾生らは不正等していない、と論じる。
 成績があまり良くない塾生らは、講義の通りに解答し、通常より高い点を取った。
 一方、成績が良い塾生らは、問題を深読みし過ぎて、信人が想定していた解答以外の答えを記入したので、いくつかの問題が「不正解」とされてしまっていたのだ。
 その結果、偶然にも全ての生徒が同じ点数を取る羽目になった。
 煌子は、塾生らに対する誤解を解いた時点で、塾を退職する。



解説

 推理小説というと、殺人等の重大な犯罪を取り扱い、警察が関わってくるのが当たり前。
 本書は、それを否定するかの様に、警察が関わらない、重大な犯罪も起こらない謎を描いている。
 試みとしては面白いが、こうして連作短編集として1冊の本に纏められ、それをぶっ通しで読むと、どれも小粒過ぎて、物足りなく感じてしまう。
 いくつかの「謎」は、一々謎として取り扱うべきだったのか、といった内容。
「塾が舞台だから」という事で、本編に端的に関係している豆知識を延々と取り上げ(しかも図解入りで)、それが終わった後に漸く核心の「謎」の部分に入る、といったストーリー構成になっていて、間延び感がある。
 豆知識の部分を完全に省くか、省略すれば、本の厚みは半分以下になっていただろう。
 執筆した時点での流行や著名人を「最新情報」として取り上げている為、現在読むと古臭く感じるどころか、何の事だがさっぱり分からない読者もいると思われる。

 登場人物の設定も、読んでいる側からすると理解し難い。

 主人公である波田煌子は、作中では物凄く魅力的な人物で、人が何故か彼女の周りに集まる、という事になっている。
 読んでいる側からすると、そこまで魅力的な人物として映らない。
 発想や言動も、常人と同じではないが、奇人・変人のレベルに達している訳ではなく、極めて普通で、地味な存在。
 彼女が展開する「名推理」も、単に周囲の者が無能過ぎて鮮やかに見えるだけ。
 大抵の人間ならそれくらいの推測は出来る、というレベル。
「サイコセラピスト探偵」といった看板を大々的に掲げる程ではない。

 ストーリーも強引に「謎」を演出しているものが多く、真相が明かされても、登場人物らが受ける程の感動は無い。
 
第1限 路線図と涙
 東京都内の地名と同じ地名の場所が全国にある、というのは、大抵の人間なら知っている事なので、特に驚きは少ない。
 また、東京都在住の者でないと、東京都内の特定に地名を述べられても、イマイチぴんと来ないし、それらと同じ名前の地が全国にあると教えられても、その地域の者でないと矢張りぴんと来ない。
 東京都内の地名も、地方の地名も、本作の為の創作ではないかと疑ってしまう。
 一方で、地方の地名を知っていた者からすれば、それと同じ地名の場所が実は東京にもある、と教えられても感動は無い。地方に住んでいる者からすれば、東京も一地方に過ぎないのだから。
 本作では、男子学生は北海道や広島まで飛行機を使って移動し捲っていた、という事になっている。が、背が高くて大人っぽかったという設定になっていたとしても、中学生が親の承諾抜きで飛行機の切符を買って搭乗した、というのは無理がある。
 
第2限 相似形と涙
 携帯電話やスマートフォンの普及率が高い現在では、時代を感じさせる一遍になってしまっている。
 女子生徒とその親の声を区別出来なかった、というのも強引。

第3限 清少納言と涙
 給食後の退屈な授業だったからといって、クラス全員が居眠りし、成績が下がってしまう、というのは無理があり過ぎ。
 一方で、問題児が勉学に励む様になった事でクラス全体の成績が上がった、というのも都合が良過ぎる。

第4限 疑問詞と涙
 パソコンの掲示板と、団地の掲示板を勘違いする、というのも、時代を感じさせる。
 パソコンも、今となっては古くなっているが。
 今ならタブレットか。

第5限 月の満ち欠けと涙
 エレベータからの消失トリックで、漸く本格っぽい一遍になるのかと思いきや、「このエレベータには偶々隠し部屋がありました」という肩透かしの真相。
 動機も、アッと驚かされるものではない。

第6限 確率と涙
 日本とアメリカは、実は1時間で行ける程近い、との事だが……。
 マリアナ諸島はアメリカの領土ではあるが、アメリカそのものではないので(アメリカの州ではない)、「日本からアメリカまで1時間で行ける」というのは正確ではない気がする。
 それを言ったら、日本国内にある大使館も「日本国内にある外国」だから、東京都内ならどの国も1時間程度で行ける、という事になってしまうだろう。

第7限 基本的人権と涙
 成績が良い方は問題を深読みし過ぎて不正解となり、成績が悪い方は講義通りに回答した結果、全員点数が同じになってしまった、というのは偶然にしては出来過ぎ。
 また、「最後の晩餐」はキリスト教において重大な出来事。ダ・ビンチ以外にも様々な画家が描いているというのは、西洋美術を少しでもかじった事がある者なら誰でも知っている。
 塾長たる者が、「最後の晩餐」を描いたのはダ・ビンチが最初で最後と信じて疑っておらず、その間違いを塾生らから指摘される、というのはおかしい。
「今でしょ」の台詞で全国的に有名になった塾講師からすれば、教育者の資格は無い、て事になりそう。

 本作を読む限りでは、本格推理小説は矢張り重大犯罪が起こらないと、成り立たないようである。









Last updated  2018.05.07 22:46:03
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2017.11.18
カテゴリ:邦書

 民俗文化専門調査員の竹之内春彦が探偵役を務める旅情ミステリー。


粗筋

 旅雑誌の記者・胡桃沢くるみは、飯田線を取材する為、長野県飯田市へ向かう。途中で、編集部が手配した民俗文化専門調査員の竹之内春彦と合流。
 くるみは、竹之内と共に行動する事は全く知らされていなかったので、反発するが、上司の意向なので、仕方なくコンビを組んで飯田市を取材する事に。
 飯田市では、古くから伝わっていた長姫人形劇が、近々復活するという事になっていた。その舞台となる神社を訪れると、桜が青い照明で照らされていた。竹之内とくるみは、演出の一環と思っていたが、案内していた町の者は何故か不安な表情を見せる。
 すると、直ぐ側に、男性のバラバラ死体があった。
 死体は、伊那谷グループ会長熊谷直道だった。
 地元の名士が殺害されたと知って、町は騒然となる。
 それ以上に、熊谷家が騒然となった。
 熊谷直道は、自ら築き上げた莫大な資産を文化活動に投入したいと考えていた。長姫人形劇が復活する事になったのも、そのお蔭だった。公開された遺言状も、遺産の大部分を文化事業の為に使う、という趣旨のものになっていた。
 様々な事業を手掛けている伊那谷グループも、斜陽産業や、軌道に乗り切れていない新事業が多く、遺産の大部分が採算性が無いと思われる文化事業に回されてしまったら、経営難に陥るのは目に見えていた。
 文化事業を取り仕切る遺族と、それ以外の事業を取り仕切る遺族の間で、不穏な空気が流れる。
 竹之内は、そもそも何故熊谷直道は殺されたのか、誰の仕業か、の調査を個人で進める。飯田市に伝わる長姫と青い桜の伝説が絡んでいる、と感じるようになった。
 青い桜は、熊谷直道の遺体が発見された神社にあったという事実を掴む。神社は元は城跡だった。戦国時代、長姫がそこで非業の死を遂げ、それを機に青い桜が咲くようになり、地元の者に恐れられていたいう。しかし、いつしか青い桜は無くなり、人形劇でしか語られなくなっていた。
 竹之内は飯田市内を巡り、関係者から話を聞く。
 そして、漸く青い桜の行方を掴む。
 明治に入ると、城は封建時代の象徴となり、西洋化を推し進める政府にとっては無用のものとなった。長姫の城も廃され、神社へと変えられる。
 恐れの対象であるのと同時に、地域の守り神にもなっていた青い桜を絶やすまいと、当時の町民らは青い桜を移植し、その存在を隠す事で守ってきた。
 が、時代の流れと共に、問題が。
 青い桜の移植先となっていた土地を代々受け継いでいた旧家が破産し、土地は伊那谷グループに乗っ取られてしまった。青い桜の事等全く知らない熊谷直道は、その土地を文化事業の為に開発しようと考えた。
 熊谷直道からすれば、一代で財を成した際に手を染めた悪行に対する罪滅ぼしの為の町興し事業だったが、青い桜を秘密裏に代々守ってきた者らからすれば、町を滅ぼしかねない冒涜だった。
 青い桜の秘密を知っていて、元々熊谷直道を快く思っていない者が、殺害するにまで至ったのだった。



解説

 大富豪の遺産を巡る遺族の複雑な関係が殺人事件の中心にある、という描き方で始まるが、実際にはそれよりもっと大きな、町に関わる歴史が事件の背景にあった……、という展開になっている。
 横溝正史の世界と、歴史ミステリーを掛け合わせた感じ。
 描き方によっては非常に面白いものに成り得たのだが……。
 そこまでには至らなかった。

 冒頭で被害者の遺族がガンガン登場して、訳が分からなくなってしまう。その上町の歴史を巡る謎が加わるものだから、更に登場人物が増えてしまい、収拾が付かなくなる。
 どの登場人物も、特に特徴がある訳ではないので、覚え難い。
 主人公ですら、これといった特徴が無い。
 遺産問題のゴタゴタが延々と描かれている為、間延びしてしまい、本筋の青い桜を巡る謎解きに達する頃には飽きてしまう。
 話の途中に挿入されている歴史情報(史実とは無関係)も、物語深みを持たせるより、物語のペースをますます落としているだけ。
 何故もう少し登場人物を減らし、遺産相続に関する部分は省略して、短くまとめられなかったのか。何でもかんでも盛り込んで無駄に長くすれば名作になる、という訳でもないのに。

 主人公の竹之内も、著者は物凄く興味深い人物だと思って書き綴っている様だが、読んでいる側からすると退屈な中年男性。
 作中では色々行動を起こすのだが、イマイチ興味を持てない。
 事件の解決にも何となく関わっているというか、著者が強引にそこまで持って行った、といった感じで、何故こいつが探偵役なのか、本当に主人公なのか、と終始疑いながら読み進んだ。

 低予算テレビドラマの原作本としては申し分無いのかも知れないが、読み物としてはきつい。








Last updated  2018.05.07 22:38:45
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2017.08.06
カテゴリ:邦書

 内田康夫の浅見光彦シリーズ作。


粗筋

 5年前、三井所剛史という男性が加賀の海から他殺体として発見された。彼の住まいは北海道にあった。北海道から遠く離れた加賀へ何の目的で訪れたのか、家族すら知らなかった。この点が事件捜査最大のネックとなり、犯人はおろか、事件の背景すら掴めぬまま、迷宮入りとなった。
 知人からこの事件について知った浅見光彦は、事件捜査を開始。
 浅見は、三井所剛史の娘園子から話を聞く。
 5年前、園子は就職するか、大学に進学するかの岐路に立っていた。進学するにも学費を捻出するのは経済的に難しかったので、諦めていた所、三井所は「何とか工面するから心配するな」と言い出した。園子は、父がどこから工面するのかと不思議に思う。三井所はその直後に家族に何も告げないまま外出。それから間も無く死体となって発見されたのだった。
 園子は、父親が学費を工面する為に何か危ない事に首を突っ込んだ結果、殺されたのではと考えたが、それでも自宅から遠く離れた加賀へ父が向かう理由は思い付かない。
 浅見は、三井所が孤児で、自身の生い立ちを探っていたのを知る。娘の学費の工面するのと同時に自分の生い立ちを探っている内に、何らかの理由で加賀へ出向き、そこで殺されたのでは、と推理する。
 三井所は、孤児院に預けられた時から持っていたという素焼きの人形を残していた。浅見が、三井所が失踪直前に訪れたのが確認されていた松前を訪れた所、その人形とそっくりのものが、資料館に収められていた。人形は、明治時代から昭和初期まで加賀から北海道へ物資を運んで売る商船「北前船」からもたらされたもの、となっていた。
 浅見は、これで北海道と加賀が繋がったと確信し、加賀へ向かう。
 加賀で、浅見は三井所の殺害事件捜査の進展具合について問い合わせる。芳しい答えは返って来なかった。
 北前船は、九州で仕入れた物資を加賀経由で北海道にまで輸送して売り付ける、という商いだった。明治時代は大いに栄え、営んでいた者に莫大な富をもたらした。が、交通網が整備され、通信が発達すると、仕入れ値から大きく上乗せして道民に売り付けるという手法は通用しなくなり、衰退。北前船の運営者は他業種へとシフトしていった。
 北前船の中でも特に栄えていた宇戸家は、商売以外の事でも有名だった。往年の大女優深草千尋の生家だったのだ。
 深草千尋は戦後の映画全盛期時代、大いに活躍していたが、テレビ時代に移行すると徐々に姿を現さなくなり、ある時期から全く姿を現さなくなった。現在、80代になる彼女は加賀で暮らしている事が分かっているが、誰とも会う事を拒否していた。
 浅見は、三井所と宇戸家は何らかの形で繋がっていると考える。
 深草千尋が渡米していたという時期は、三井所が生まれた時期に近かった。深草千尋こそ三井所の母親で、この時期に出産していたのではないか、三井所は実の母親に会いに行き、娘の学費を工面しようとしたのではないか、と浅見は考える。
 浅見は、園子を伴って深草千尋の住まいを訪れる。
 二人は難無く通され、深草千尋と対面する。
 浅見は、三井所の母親はあなたですね、と切り出すと、深草千尋はあっさりと認めた。
 深草千尋は妊娠した頃、女優として絶頂期にあった。子の父親である男性は、彼女との関係を認めなかったので、たった一人で生む羽目に。世間体を考えて、一人で育てるのは無理だと判断した彼女は、知人のつてで北海道の孤児院に生まれたばかりの子を預けた。それから数年後、彼女は孤児院を訪れ、三井所を引き取ろうとしたが、今更母親だと名乗られても困る、と三井所自身から拒否されてしまう。彼女はそれに傷付き、女優業を続ける気を失い、加賀に引き籠る事になった。
 話を聞いた浅見は、指摘する。それだったら、何故自ら母親に会いに来た三井所を殺したのか、と。
 深草千尋は、事件については全く知らなかった。引き籠ってからは、外部とは接触しておらず、新聞もテレビも無い生活を送っていたのだ。会いに来てくれたなら、歓迎した筈だと。息子が殺されていたと知って、彼女は大いに驚く。
 浅見は、この時点で事件の全貌を知る。
 三井所は、実の母親に会いに行く為、加賀を訪れた。母親の生家である宇戸家に、母親の居所を問い合わせた。
 宇戸家当主で、深草千尋の兄である武三は、突然目の前に現れた妹の子に驚き、殺意を抱く。妹が三井所を実の子として認知したら、彼女の財産は三井所が相続する。そうなったら、妹の資金援助で何とか事業を継続していた自分は破産する、と武三は早合点した。
 武三は三井所をその場で殺害し、死体を遺棄したのだった。
 浅見は、武三の下に出向き、警察に真相を全て語る、と告げる。
 武三は、共犯者と共に海へ船出し、遭難を装って自害した。



解説

 他の著作の例に漏れず、低予算ドラマの原作本の域を超えていない。
 本作は文庫本で600ページにも及ぶが、内容は薄い。
 浅見光彦が偶然見付けた証拠を基にあちこち出向き、最後に初対面した人物が犯人、という、これまでのシリーズ作の流れを踏襲していて、新鮮味は無い。
 ただ、ダラダラと長い。

 警察が事件の全貌を掴めなかった為に迷宮入りした、という割には、事件の真相も動機も平凡で、驚きが無い。この程度で殺すか、と思ってしまう。
 計画的とは言い難い犯行にも拘わらず、迷宮入りさせてしまう警察は、ひたすら無能。
 素人探偵を煙たがる余裕があるなら、その素人探偵の出番を無くす程度の捜査をしたらどうか、と思ってしまう。

 本作の世界では、浅見光彦は警察本部が一目を置く優秀な名探偵、という事になっている。
 ただ、読んでいる側からすると優秀さが全く伝わらない。
 あちこち出向いては、著者が用意していた証拠を偶然を装って見付け、次の場所へと移動する、を繰り返すだけ。
「名探偵」を名乗るには直観力や閃きが必要だと思うのだが、浅見光彦にはそうしたものは見られず、素人探偵に過ぎない。
「名探偵」だったら直ぐ思い付くであろう事実を何十ページも割かないと思い付かない。

 本作では、何十年も前から隠匿生活をしている伝説的な女優深草千尋を取り上げている。
 何十年も外界と接触していない、という奇妙な設定になっているので、読んでいる側は「もしかして深草千尋はとっくの昔に死んでいて、その事実を何が何でも隠したい関係者が、彼女について探りを入れていた三井所を殺害したのでは?」と想像を膨らませるのだが、本作後半で「誰とも会わない」という設定だった筈の大女優はあっさりと姿を現す。
 事件の真相も、もっと平凡なのであるのが分かり、肩透かしを食らう。

 生死すら不明であるかの様に語られていた謎の大女優深草千尋をあっさり登場させてしまうのだから、もしかしたら三井所は実は彼女と血の繋がりは無く、彼女がそう臭わせていただけで、武三は完全な勘違いで殺す必要が無い者を殺してしまった、という皮肉な結末を期待した。
 が、本作の著者はその程度のどんでん返しすら用意出来ないというか、思い付かないらしい。
 推理小説を名乗っている割には、読者が読みながら頭の中で巡らせる推理を常に下回っていて、意外性が見受けられない。読んで得した、という気分にはなれない。
 仕掛けが無いのが最大の仕掛け、意表を突かない事自体が意表を突いている、という事か。

 他の著作と同様、著者が自ら後書きで本作が苦労の末に生み出された大傑作であるかの様に綴っているのも異様に映る。

 本とは文字で埋め尽くされた紙を束ねた商品。
 小説家とは本という商品の為にひたすら原稿用紙を埋めるだけの作業者。
 出版社とは本という商品をひたすら乱造するだけの業者。
 書店とは本という商品をひたすら陳列するだけの商店。
 小説家は原稿料さえ支払われれば問題無しと見なし、出版社は本という商品が書店に陳列されれば問題無しと見なし、書店は本という商品が売れさえすれば問題無しと見なす。
 本を買った者が実際に本を読み、批評する事は全く想定していない。
 ……この認識で日本の出版業界は回っているのか。
 出版業界が斜陽と見なされているのも当然。









Last updated  2017.11.18 15:09:30
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2017.05.27
カテゴリ:邦書

「今夜は眠れない」の続編。
 緒方雅男と島崎俊彦の中学生コンビが、クラスメイトが絡む殺人事件の捜査に挑む。


粗筋

 僕(緒方雅男)と友人の島崎が住む町には広大な公園があり、そこでは毎年秋の夜にある催しが行われていた。前から気になっていたクラスメイトのクドウさんがその催しに参加すると耳に挟んだ僕は、催し自体には特に興味の無かったものの、行く事に。
 公園に入ると、女性の死体が発見されたとの報が。
 僕がその死体を確認すると、クドウさんだった。
 警察がやって来て、大事になる。
 翌日、学校に行ってみると、クドウさんは生きていた。前日殺されたのはクドウさんではなく、クドウさんの従姉だった。歳は離れていたものの、姿恰好が何となく似ていたので、僕が勘違いしてしまったのだった。
 警察は既に死体の正しい身元は掴んでいて、捜査を開始していた。
 被害者の亜紀子は、まだ二十歳という若さにも拘わらず、カンパニーと称される売春組織に属していて、少女を組織に勧誘する役割を果たしていた。
 カンパニーは、元は堅気の人間が売春婦を使ってケチな小遣い稼ぎする目的で設立した組織だったが、暴力団が絡むようになってからは体質が変わり、警察に目を付けられていた。
 警察は、カンパニー絡みの動機で亜紀子は殺されたのではないか、という推論を立て、捜査を進める。
 亜紀子は、従妹のクドウさんも組織に勧誘していたという。当然ながらクドウさんは嫌がっていた。警察は、クドウさんにも亜紀子を殺害する動機があると見なすようになった。
 クドウさんに好意を寄せている僕は、嫌疑を晴らす為に、島崎と共に独自の捜査を開始。
 ただ、警察は徐々に事件の全貌を掴みつつあった。犯人はどうやらカンパニーに属していた畑山という男性だった、と。
 畑山はカンパニーから脱退したがっていた。亜紀子に好意を寄せていた彼は、彼女にも脱退を促していた。しかし、カンパニーにどっぷりと浸かっていた彼女は、そんな気は毛頭無かった。その絡みで、畑山は亜紀子を殺すに至ったらしい。
 警察は、カンパニーに属する者を殆ど検挙。しかし、検挙から逃れた者もいた。残党は、行方をくらました畑山を執拗に追う。カンパニーの重要情報を持ち出して姿を消したからだった。
 そうこうしている内に、畑山の死体が発見される。自殺の様だったが、カンパニーの残党によって殺害された可能性も充分あった。
 カンパニーの残党は、畑山が持ち出した重要情報が見付けられないと知ると、僕と島崎に牙を向ける。畑山が何らかの理由で二人に託したのでは、と思い込んだのだ。
 僕と島崎はその危機をどうにか乗り越え、残党の検挙に貢献する。
 しかし、僕は重大な事実を知る。
 カンパニーが作っていたチラシには様々な少女の顔写真が載っていた。その中の一部は、クドウさんが亜紀子に提供したものだった。畑山が亜紀子を殺すに至ったのも、その顔写真に写っていた少女を巡る勘違いからだった。
 僕が、クドウさんに対しこの事を問い詰めると、クドウさんは言う。自分に執拗に迫ってくる亜紀子が怖かったので、知人の写真の中から売春に手を出しそうな顔立ちの子を選んで渡さざるを得なかった、と。
 これを聞いて、クドウさんに対する僕の思いは一気に冷めた。



解説

 典型的な宮部みゆきの小説。
 小さな、どうでもいい事が、実は小説そのものの鍵を握っているかの様に延々と描くのだが、真相が全て明らかにされると、矢張り小さな、どうでもいい事であったのが判明し、肩透かしを食らう。

 他の宮部みゆきの小説と同様、事件の犯人探しそのものは警察に任しており、主人公は事件の背景にある真相を掴む事に終始している。二人の主人公は中学生なので、「警察を出し抜いて何もかも解決」ではリアリティに乏しくなってしまうので、当然のストーリー構成である。
 本作では、亜紀子を殺した張本人が誰で、どこに行方をくらましたのかの捜査は警察に任されていて、主人公らはその犯人(畑山)が何故亜紀子を殺さざるを得なかったのかの究明に力を注いでいる。
 が、いざ全てが究明されると、犯人の正体も、犯人の動機も、結局は大したもので無かった事が判明。
 これが50ページ程度の短編ならまだ許せるが、300ページにも及ぶ長編を読まされた上でこの結末では、頭にくるというか、呆れてしまう。
 もう一捻り、二捻り出来なかったのか。

 今回の事件被害者は、亜紀子という女性。
 二十歳にも満たない女性が殺されたのだから、本来だったら悲劇の人となる筈。
 しかし、売春組織に属し、少女を斡旋し、組織が警察に目を付けられていて終わりも近かったにも拘わらず甘い汁を吸い続けたかったが故に脱退を拒否していた。
 不幸な家庭で育ったという事情はあるものの、早かれ遅かれ殺されるか、それに準じる目に遭っていただろうと思ってしまい、関心が湧かない。
 真相がラストで明らかにされても、「はい、そうでしたか」で終わってしまう。
 推理小説の被害者は善人でなければ成立しない、という訳ではないが、少なくともある程度共感出来、捜査の展開に興味を持たせてくれる人物でないと。

 本作が最も強調したかったのは、「主人公が好意を寄せていたクドウさんが、自己保身の為に売春を斡旋する亜紀子に対し、別の少女を押し付けるという、残酷な一面を持っていた」の点らしい。清純に見えていたクドウさんは、実はそうでなかった、と。
 主人公の僕は、この事実を知ってクドウさんとの交際を諦める、という結末で本作は終わる。
 残念ながら、その事については読み進む内に何となく分かってしまうので、真相が明らかにされた所で「衝撃な事実」にはなっていない。夢にも思っていなかったのは主人公だけ。
 どんでん返しにしては力不足。
 主人公がクドウさんに電話し、この事実を彼女の口から引き出そうとする下りも、蛇足の感が。
 寧ろ、電話する前の時点で主人公はクドウさんがやらかした事は知っていたのだから、何故わざわざ電話をかけたのか、分からない。
 クドウさんに自分が犯した罪を思い知ってもらいたかった、という事なのかも知れないが……。彼女が犯した「罪」は、作中ではまるで彼女自身が殺人に手を出したかの様な追及の仕方だが、彼女はあくまでも暴力団の影をちらつかせながら迫って来る従姉の接近を遮断したかっただけ。自身の行為が、後々殺人事件に発展する等、と予想すらしていなかっただろう。
 主人公は、黙っていればいいものを、幼稚な正義感を振りかざして、勝手に落ち込んでいるだけの感じ。
 読後感がひたすら悪い。著者が意図していなかったであろう意味で。


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夢にも思わない
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Last updated  2017.05.27 14:18:55
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2017.04.09
カテゴリ:邦書
宮尾登美子による、源義経に関する随筆。
 義経の誕生から、その死に至るまでの経緯を、独自の解釈と共に綴っている。
 小説ではなく、著者本人が読者に語り掛けるようにして義経の人生を辿って行く、という内容になっている。
 NHK大河ドラマ「義経」の原作となった。


粗筋

 源氏の頭領義朝は、平氏との権力争いに敗れ、関東に逃げ戻る途中で謀殺される。
 義朝の子供も捕えられ、殺されるが、幼かった頼朝や義経は命を助けられ、各地に追放される。
 実権を握った平氏への不満が京で高まると、源氏を復活させようとの声が上がり、成人していた頼朝はそれに応じる。
 頼朝の元に駆け付けたのが、奥州に追放されていた弟の義経。
 義経は平氏滅亡の為に奮闘するが、あまりの活躍振りに頼朝に疎んじられるようになり、奥州へと逃亡。
 しかし、奥州でも疎んじられるようになり、31歳の若さで自害する。



解説

 本書は小説ではなく、義経の生涯について、私見を絡めて長々と綴ったもの。
 歴史的な資料に基づいた見解ではなく、著者が女性として、母親として思いを馳せて、導き出した解釈を押し通そうとする部分が何か所も見られる。
 その解釈に納得出来れば問題無いが、納得出来ないというか、感情移入し過ぎだろうと感じてしまうと、その世界に入っていけない(壇ノ浦の戦い直前に、義経が平家に嫁いだ妹に対し手紙を送り、命が助かるよう手続きしておく下り等)。

 たった1冊の本(小説では無いので、台詞は無い)が、放送期間が1年間にも及ぶ大河ドラマの原作になれたとは驚く。どれだけ膨らませたのかと思ってしまう(別の長編著作平家物語も絡めたというが)。

 本書を読む限りでは、義経は戦闘の天才というより、まぐれで勝ち続けたラッキーな武将で、運が尽きた時点で慌ただしくあの世へ旅立った、といった印象を受ける。
 一方、兄である頼朝は、武将というより「政治家」で、戦したのは生まれて初めて挙兵した時と、義経没後の奥州征伐の時だけで、それ以外は「征夷大将軍としての政治基盤を固める為」を理由に一向に鎌倉から動かず、親族や臣下らに戦わせている。初の挙兵直後の戦に負けて、絶体絶命の危機に陥っているので、政治的手腕はともかく、戦は下手だったのだろう、と思わざるを得ない。本書を読む限りでは人間的な魅力に乏しく、源氏の頭領の嫡男、というだけで周りによって祭り上げられていただけの印象を受ける。実際、幕府の体制が整いつつあった時点で、最早用済みと言わんばかりに急死し、北条氏による執権政権を許してしまっている。全てが北条氏による陰謀だったとしても、不思議ではない。

 義経は判官贔屓の代名詞にもなっており、奥州では死んでおらず、大陸に渡ってチンギス・ハーンになったのでは、という説も流れている。
 しかし、本書ではその可能性を否定している。父親代わりで、後ろ盾だった藤原秀衡を亡くした時点で、庇護を受けていた奥州の地でもお尋ね者状態となってしまい、自分の命運は尽きたと悟り、あっさりと自害した、と。
 これだったら、奥州から頼朝の元に駆け付けてきた義経は秀衡が送り込んだ偽物で(本物はとうの昔に死去)、それを知っていた頼朝が戦闘が上手かった偽義経を利用するだけ利用した後、あっさりと見切って死なせた、という説の方が納得がいく。本書では、それに関しては一切触れておらず、平家滅亡の為に奮闘した義経は、正真正銘の頼朝の弟、という事になっている。






Last updated  2017.04.09 18:40:14
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2017.03.03
カテゴリ:邦書

 宮部みゆきによる短編集。
 5編から成り、表題作がデビュー作。


粗筋

我らが隣人の犯罪
 中学一年生の誠は、家族と共にタウンハウスで暮らしていた。
 住まいそのものに不満は無かった。が、問題はあった。
 隣のタウンハウスに住む橋本という女性が飼っている犬である。鳴き声がとにかくうるさく、昼夜問わず泣くのだ。お蔭で、母は不眠症になり掛けていた。
 橋本という女性自身にも好意が持てなかったので、誠はどうにか仕返ししたい、と思うようになる。
 ただ、橋本は独身だが、愛人がいて、その愛人がどう見ても堅気とは思えない。迂闊に手を出せなかった。そもそも、中学生が出来る仕返しなんて、限られている。
 誠は、この事について叔父に話す。叔父は、犬が鳴くのは、一日中住まいに閉じ込められていて、散歩にも連れてもらえず、ストレスが溜まっているからだろう、と言う。
 誠と叔父は、話し合っている内に、犬を攫うのが犬の為にもなり、鳴き声からも解放される唯一の解決法だという結論に至る。
 しかし、橋本は犬を家の外から全く出さない。どうやって犬を攫うのか。
 誠と叔父は、タウンハウスが屋根裏で繋がっている事を知る。屋根裏伝いに移動し、隣の橋本の住まいに侵入し、犬を攫ってしまおう、と計画した。
 まず誠が、橋本の留守を狙って屋根裏に上がり、暗闇の中を進み、隣人の屋根裏までの道しるべを設け、天井パネルを直ぐ外せるようにした。
 後日、叔父が屋根裏に上がり、隣のタウンハウスに侵入する。
 しかし、叔父は犬ではなく、銀行通帳を持ち帰って来た。
 誠が何故銀行通帳なんて持ち帰って来たんだと問うと、叔父は言う。
 天井パネルを外したら、部屋ではなく、銀行通帳の隠し場所になっていた、と。
 銀行通帳を屋根裏に隠すのは、尋常ではない。多分、脱税目的だろう、と叔父は言う。橋本は、愛人の脱税に協力していたらしい。
 誠は、脱税について通報しよう、と叔父に提案。橋本が脱税で逮捕されれば、引っ越すだろうから、犬の問題も解決する、と。
 しかし、叔父は言う。そのまま通報したら、不法侵入についても説明せねばならず、それだと自分らも捕まる、と。
 誠の妹が、二人が話し合っているのに気付く。犬を攫うつもりが、銀行通帳を盗む羽目になった、と説明せざるを得なくなる。
 妹は、そんな事しなくても、合鍵を使えば楽に侵入出来るのに、と呆れる。彼女は、橋本が合鍵を隠す場面を目撃していたのだ。
 誠と、妹と、叔父は、橋本の留守を見計らって、犬を攫う。
 橋本は犬がいなくなった事に気付き、警察沙汰になるのではないかと思われる程大騒ぎするが、その内騒がなくなった。
 叔父が、銀行通帳をネタに、強請りの連絡を入れたからだ。犬の件で下手に警察沙汰にしたら、脱税がばれてしまう可能性がある、と橋本は恐れ、騒ぐのを止めたのだった。
 叔父は、橋本と愛人が脱税で確実に捕まる一方で、自分らには被害が及ばない方法を編み出す。
 叔父は、ある看護婦から嫌な目に遭わされていた。彼女に脅迫めいた手紙を送り付け、警察に相談させるよう仕向けた。
 看護婦と警察は、脅迫者を炙り出す為、その脅迫者にある場所で会おう、と提案する。その場所には警察が張り込んでいて、現れてきた脅迫者を捕まえる、という手立てになっていた。
 同時に、叔父は橋本にも強請りの連絡を入れ、金を出せば通帳を返すと言った。金を渡す場所として、看護婦と警察が張り込んでいる店を指定する。
 橋本は、叔父の策略にはまり、看護婦と警察が張り込んでいる場所にのこのこと現れ、捕まってしまう。
 看護婦への脅迫は濡れ切れだったが、言動が怪しかった為、橋本は警察から取り調べを受ける羽目に。その結果、脱税が発覚。
 ただ、脱税したのは犬の首輪に仕込まれた宝石で、銀行通帳は無関係だった。橋本が犬を外に出さなかったのは、首輪を紛失させない為だったのだ。
 銀行通帳は、実は橋本ではなく、タウンハウスの反対側の隣人のものだった。
 誠は、屋根裏に上がった際、橋本の住まいへ向かったつもりだったが、暗がりで方向感覚を失い、もう片方の隣人の住まいに侵入していた。
 要するに、両側の隣人がそれぞれ脱税を働いていたのだ。
 そちらの方にも警察の捜査が入り、誠のタウンハウスでは両側が空き家となった。

この子誰の子
 中学生のサトシが一人で留守番していると、恵美という女性が訪ね、家に勝手に上り込む。
 サトシが呆然としていると、恵美は抱えていた赤ん坊を見せびらかし、この子は自分とあなたの父親の間で出来た子だと言い出す。この子とあなたは兄妹だ、と。
 サトシは、恵美の言葉を信じられなかったが、彼女があまりにも堂々としているので、もしかしたらと思い込むように。
 恵美は、サトシの家で一晩過ごす事になる。
 しかし、父親がそろそろ帰って来るという段階になって、恵美は赤ん坊がサトシの父親とは全く無関係だという事実を自ら認め、去っていく。
 それから間もなくサトシの両親が帰宅。サトシは、恵美の訪問については何も話さなかった。
 サトシは、少ない手掛かりを元に、恵美の住所を探し当て、彼女と対面。
 サトシは、自分の父親は子を作れない身体で、自分が人工授精から生まれた子である事を告げる。したがって、恵美の赤ん坊が父親の子でないのは、初対面の段階で知っていた、と。
 が、サトシには引っ掛かる部分があった。赤ん坊が、自分に似ていたのだ。
 恵美は認める。彼女には事故で亡くした夫がいた。その夫は、過去に人工授精の為にと精子を提供していた時期があった。サトシは、その夫の精子によって生まれたのだ。
 サトシが怪我で病院に搬送された際、看護婦だった恵美の目に留まる。サトシが死んだ夫にそっくりだったので、夫の子ではないかと思うように。
 夫を亡くし、子育ての心労からノイローゼになり掛けていた恵美は、サトシの家に推し掛け、自分の赤ん坊がサトシの父親との間に出来た子だと言い掛かりを付けた。しかし、押し通せず、退散したのだった。
 赤ん坊がサトシの遺伝学上の妹だというのは事実だった。
 サトシは、遺伝学上の父親について知る事が出来た、と恵美に感謝し、妹の存在も分かった事についても、恵美に感謝。時折妹に会いたい、と申し出る。

サボテンの花
 卒業間近の6年1組の生徒らが、卒業研究として「サボテンの超能力」を取り上げたいと言い出す。
 堅物として知られる担任教師の宮崎は、猛反対。他のクラスの様に、もっとまじめな研究をやれ、と。
 しかし定年間近の権藤教頭は、生徒らの好きなようにやらせてみろ、と言う。まじめではあるがありきたりな卒業研究しか発表されない事に、疑問を抱いていたからだ。
 生徒らは、研究と称して次々に騒動を起こすようになり、権藤教頭は対応に追われる羽目になる。
 漸く漕ぎ付いた研究発表会で、6年1組の生徒はサボテンを使った実験を実施。サボテンには超能力がある、と教師らも認めざるを得ない結果に至り、発表会は終わる。
 後に、生徒が実験は単なる手品で、サボテンに超能力は無かった事を、権藤教頭に対し認める。生徒らが起こしていた騒動は、権藤教頭へのプレゼントを作る為に起こしていた行動だった。

祝・殺人
 刑事の彦根は、担当している殺人事件に関して、ある女性から接触される。
 日野明子というその女性は、結婚式場を運営する会社に勤めていた。
 殺人事件の被害者は、彼女の会社が担当した結婚式で、司会を務めたという。
 殺人事件とは、佐竹という営業マンがバラバラ死体で発見された件だった。派手な死体になっていた割には、手掛かりが少なく、捜査は行き詰っていた。
 明子によると、佐竹は知人の式場で、司会役を務めた。プロの司会者ではないが、過去に何度もやっており、慣れていたので、新郎の高崎から頼まれたのだという。
 式場で、明子は奇妙な行動を目撃する。佐竹は、式場に届いた祝電を一通ずつ読み上げる、という催しを担当したが、一通だけは読まず、それどころか秘密裏に処分した。
 何故佐竹は独自判断で祝電を握り潰したのか、という疑問が上がった。
 明子は考えた。佐竹が処分した祝電は、式場で読み上げるべきでない内容だった。だから読まなかった。秘密裏に処分したのは、強請りに使えるのではないかと考えたからではないか、と。
 彦根は、その考えは突飛過ぎないかと言いそうになったが、思い当たる節があった。
 事件現場となった佐竹の住まいを捜査した所、衣類からある町のスナックの名刺が入っていた。わざわざ行くにしては遠い町なので、調べた所、そこで勤めていた秋崎みちよという女性が殺害されていた。
 偶然にしては出来過ぎていたが、みちよが殺害された日時には佐竹にアリバイがあったので、この二つの殺人事件は無関係だろうという結論に至っていた。
 明子は言う。みちよと、新郎の高崎は、どうやら知人だったらしい。みちよは、高崎の結婚式直前に殺されていた。祝電は、結婚式のかなり前から申し込まれていた可能性が高い。みちよこそ読まれなかった祝電の送り主ではないか。みちよは、結婚を破談に追い込もうと嫌味たっぷりの祝電を送る手続きをした。その直後に殺害された。佐竹の機転で、死者が送った祝電は握り潰された。しかし、佐竹はそれをネタに高崎を強請った。みちよを殺したのはお前だろう、と。困った高崎は、佐竹も殺した。
 ただ、殺害方法からして、単独犯行とは思えなかった。共犯がいる。それは誰か。何故共犯となったのか。死体をバラバラにしてどうするつもりだったのか。
 明子は自身の推理を述べる。
 佐竹が高崎だけを強請ったとは考え辛い。高崎はただのサラリーマンで、出せる金は限られていたからだ。しかし、高崎は富豪令嬢と結婚する予定だった。佐竹は高崎だけではなく、高崎の結婚相手の親も強請っていたのではないか。佐竹は、強請りの材料を勤務先のロッカーに保管していた。ロッカーは、指紋認証によるロックが掛かっていて、高崎や新婦の親が簡単にアクセス出来ないようになっていた。そこで、高崎と新婦の親は佐竹を殺した。指紋認証ロックを解除する為、佐竹の手を切り取り、佐竹の勤務先に忍び込み、切断した手を使ってロックを解除し、強請りの材料を盗んだ。佐竹の死体がバラバラだったのは、手だけが切断された状態だとそこから犯行の全貌が掴まれてしまうからだった。
 彦根はその推理を元に、捜査を見直し、高崎と、新婦の親を逮捕するに至った。
 高崎の結婚式が間近に迫る中、みちよは高崎に対し別れたくないと言い出した。困った高崎は、みちよを殺した。これを知った佐竹は、それをネタに新婦の父親を強請る。
 娘を溺愛する父親は、娘の夫が殺人犯として逮捕されたら不味いと思い、強請っていた佐竹を殺す。そして、脅迫の材料であり、殺人の証拠でもある品を盗んだのである。

気分は自殺志願
 推理小説家の海野の元に、中田という中年男性が声を掛ける。
 中田は言う。海野に自分を殺してもらいたい、と。彼は本当は自殺したかったが、自殺で片付けられると不味いので、殺人として処理される方法で死にたい、と。
 海野は言う。自分はただの作家なので、そんな方法は知らない、と。とりあえず、中田の話を聞く事に。
 中田はレストランでボーイ長を務めていた。しかし、病気を境に味覚障害に悩まされるようになった。どんな料理もゴミの味しかしなくなったのだ。
 治療の為にレストランを辞めたいが、突然辞めたら不審に思われる。中田は、業界では一応名が通っていたからだ。また、病気の事は隠し通したかった。息子が料理人で、自分の病が息子の将来に影響を与える可能性が高かったからだ。
 海野は、中田の為に、オーナーからも業界からも怪しまれない方法でレストランを辞めさせる方法を編み出す。


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Last updated  2017.03.03 21:03:31
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カテゴリ:邦書

 宮部みゆきによる短編集。
 5編から成り、表題作がデビュー作。


解説

我らが隣人の犯罪
 片方の隣人の犯罪を暴いたつもりが、もう片方の隣人の犯罪まで暴いていた、という手の込んだどんでん返し。
 この点に関しては面白いと言える。が、それまでの過程がほぼ主人公の思惑通りに進んでいて、最終的には何の傷も負う事無く切り抜ける、というのは出来過ぎ。
 特に、叔父の言動や発想は、堅気とは思えない。寧ろ彼こそが大犯罪者なのでは、と思ってしまう。叔父があまりにも犯罪に手馴れている様子だったので、実は叔父が脱税の黒幕だった、なんてオチが用意されているのではと予想したくらい。が、そこまでのどんでん返しにはなっていなかった。
 もう片方の隣人も脱税を働いていた、との事だが、実際には無実で、叔父が罪を擦り付けたのでは、という解釈も可能(銀行通帳を叔父が天井裏から盗んだ場面を他が目撃した訳ではない)。
 タイトルは「隣人の犯罪」だが、結局タウンハウスの三軒が全て犯罪者である。

この子誰の子
 あまりにも出来過ぎた話で、リアリティが無い。
 人工授精で生まれた子と、その精子提供者の妻が偶然にも顔を合わせる、という確率は低いだろうに。
 遺伝学上の親子だからといって、一目見て「この子は夫の子だ」と恵美が思える程顔立ちが似るとも思えない。サトシが赤ん坊を見て自分と似ていると感じるのもおかしい。
 恵美は、サトシの住所を調べ上げ、意気込んでサトシの家に上り込んで嘘を並べ立てながらも、一晩経ったら「全て嘘でした」と自分から認めて退散している。この展開も、意味不明。
 その程度で怖じ気付くなら最初から何もするな、と思ってしまう。
 ポテンシャルは高かったものの、一番有り得ない、低いレベルの結末で纏められてしまった感が否めない。

サボテンの花
 何をどうしたかったのかが分かり辛い小説。
 生徒らが生意気で鼻に付き、感情移入を妨げたのも助けにならない。
 ハイライトのサボテンを使った実験も、結局は子供騙し(正確には子供が教師を騙している)の手品という事で終わってしまっている。手品はテレビや実演で観る分には面白いが、小説で描かれているのを読んでもあまり驚けない。
 本作は、生徒と教頭との交流について描きたかったらしいが、もう少し分かり易く描けなかったのかね、と思ってしまう。

祝・殺人
 短編小説というより、長編小説の粗筋を読まされた気分。
 短い割には登場人物も多く、いくつもの事件を扱っていて、全体が把握し辛い。
 探偵役の明子の思惑通りに捜査が進み、彼女の無理のある推理通りに犯行が実施された、という結末になっていて、違和感が。
 ちっとやそっとの事では解除出来ない高度な指紋認証ロック、という設定なのに、切断された手を使えば解除出来る、というのも分からない。高度な指紋認証ロックなら、指紋そのものだけでなく、体温も感知出来るようになっていると思うのだが。
 警察は、事件捜査に関しては完全な素人の明子に指摘されるまで、事件の全容をまるで掴んでいなかった事になる。いくら何でも無能過ぎ。
 5篇の中で最も推理小説っぽくなっていて、それなりに読めるが、内容的には平凡というか、心に残らない。

気分は自殺志願
 これも、意味がよく分からない小説。
 何故ボーイ長がレストランを辞める為にここまで苦労せねばならないのかが全く不明。
 業界で名が通っている、というのも中田の勝手な思い込みにしか思えないし、料理人の息子に将来に影響を及ぼす可能性がある、というのも考え過ぎだろう。
 腑に落ちないまま物語が進み、腑に落ちないまま勝手に終わってしまった感が。

 5篇ともイマイチ感が否めない作品集。
 一部は面白くなりそうにスタートするのだが、終わる頃には失速しているというか、面白くない方向にあえて舵取りしている印象を受ける。
 著者の初期の作品なので、習作的要素もあり、プロット作りに甘さがあった、と言えなくもないが……。
 それから後に書かれた小説も、読んでみると矢張りイマイチ感が否めないのが殆ど。スタートが良くても、結局失速する。
 デビューから現在に至るまでこうしたイマイチに終わる小説しか書けない作家らしい。長々とした小説にする技術は身に着けたらしいが。
 にも拘わらず、世間の評価は異様に高い。
 単に作風がこちらの好みに合わない、て事か。


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Last updated  2017.03.03 21:04:03
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2017.02.21
カテゴリ:邦書

 佐野洋子による絵本(文章と絵の双方を手掛けた)。
 1977年出版。
 200万部以上発行されたという。


粗筋

 トラ猫は、輪廻転生を繰り返していた。
 王様、船乗り、手品師、泥棒、老婆、少女等、様々な飼い主によって飼われては死んでいき、100万回も生まれ変わっていた。
 飼い主はいずれもトラ猫の死を悲しんだが、当のトラ猫は悲しまなかった。トラ猫は、飼い主らが好きでも何でもなかったのだ。
 トラ猫は、誰の猫でもない野良猫として生まれ変わる。
 漸く自分の為だけに生きられるようになったトラ猫は、100万回生きてきた事を周囲の猫らに自慢。
 雌猫らはその自慢話を聞いて言い寄って来るが、自分しか愛せないトラ猫は、それらを適当にあしらう。
 トラ猫は、一匹の白い雌猫と出会う。白猫は、トラ猫に全く関心を示さなかった。白猫の興味を何とか引こうと画策している内に、トラ猫は白猫の側にずっといたいと思うようになる。そこでトラ猫は、白猫にプロポーズ。白猫はそれを受け入れた。
 白猫はトラ猫の子を沢山産み、育てる。子は立派な野良猫として自立していった。
 トラ猫は、それを幸せに感じた。
 白猫は年老いていき、やがてトラ猫に寄り添う様にして死ぬ。
 トラ猫は、100万回生きた中で、初めて悲しんだ。100万回泣き続け、泣き止んだ後には白猫の隣で死んでいた。
 これを最後に、トラ猫は生き返る事はなかった。



解説

 何にも心を動かされなかった無敵の主人公が、漸く心を動かされた時点で無敵でなくなり、本当の意味で死ぬ。
 絵本にしてはやけに哲学的というか、深く考えさせられる。
 子供の頃に読む時の印象と、大人になってから読む時の印象はかなり異なると思われる。
 子供は、単に絵を見たり、様々な飼い主に飼われては不慮の出来事で死んでいくトラ猫の有様を読んだりして楽しむだけなのだろう。
 大人は、絵の裏にある、猫の心の揺れを読み取ろうとする。
 作者がどういう意図で本作を書いたのかは分からないけれども。

 100万回生きる、というのもかなり大変な気がする。
 毎日死んで、毎日生まれ変わったとしても、100万回生きるのに2500年以上掛かってしまう。
 成長する暇が無い。
 100万回も生まれ変わりながら、100万回目で漸く飼い主のいない野良猫として生まれ変わる、というのも奇妙。野良猫に生まれ変わるのはそんなに難しいのか。
 また、100万回生まれ変わりながら、心を奪われる別の猫に出会えたのは最後の1度だけ、というのも不思議。トラ猫は、そこまで他人(他猫)に興味が湧かなかったのか。そうだとすると、特段珍しくはない白猫にそう易々と心を奪われる筈が無いと思われるが。
 所詮絵本なので、細かい部分を突くのは無意味か。


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Last updated  2017.02.21 21:51:05
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2017.01.16
カテゴリ:邦書

 著者を代表する浅見光彦シリーズ作。
 本作では、地元の東京が舞台となる。


粗筋

 浅見光彦の母親雪江は、知り合いの池沢英二という男性の結婚式に出席する事に。
 結婚式といっても中年カップルの結婚なので、そう派手ではなく、唯一のハイライトが、新郎・新婦が家族や親戚と共に水上バスを利用して会場にやって来る、というものだった。
 水上バスは無事会場に到着。乗船していた新郎や家族らは下船し、会場に入る。が、新婦の津田隆子の姿が見当たらない。
 何らかの理由で水上バスは隆子を乗せたまま戻ってしまったのでは、と思い、直ちに水上バスの運営者に問い合わせる。乗船者と同じ数の半券を下船の際に回収しているので、隆子が下船したのは間違いない、との返事が。
 隆子はそのまま行方不明となってしまった。
 雪江はこの件について息子の光彦に話す。光彦は、関係者を訪ね、事情を訊くが、隆子の行方は分からずじまいだった。
 それから数日後、廃業したボートクラブの解体工事現場で、女性の他殺死体が発見される。行方不明になった隆子ではないか、と光彦は思ったが、そうでない事が判明。佐々木辰子という、別の女性だった。
 しかし、光彦は辰子の死と隆子の失踪は関係がある、と感じた。何故なら、辰子は水上バスの売店に会社で派遣され、勤務する事があったからだ。しかも、池沢はボートクラブの理事を務めていた過去もあった。偶然にしては出来過ぎだった。
 警察は、池沢が結婚する間際の隆子と、辰子を何らかの理由で殺害したのでは、と疑うようになる。辰子は、死去した池沢の先妻の知り合いで、池沢を恨んでいたらしいからだ。しかし、池沢と何度か接触していた光彦は、それを信じられなかった。
 隆子の死体が漸く発見される。警察の嫌疑は、ますます池沢へと傾く。
 光彦は、隆子の勤務先であった信用金庫を訪れる。上司だった安藤が応対するが、これといった情報は得られなかった。
 が、光彦は初対面だった筈の安藤を、どこかで聞いた事がある、と感じた。思い返してみると、廃業したボートクラブの最後の理事だった。信用金庫の係長に過ぎない安藤が何故ボートという、金の掛かる趣味を持てたのか、不思議に思う。
 光彦は、安藤を疑い始めるが、隆子を殺す動機が思い付かない。が、隆子が結婚を機に退社するつもりだった、と聞いてある推論を立てる。安藤は勤務先の資金を横領していた。隆子はそれを知っており、結婚・退社の際にそれを暴くつもりだったのだ。安藤は、それをさせまいと、殺す事に。
 安藤は、池沢を恨んでいた辰子に協力させる。辰子は水上バスの従業員だったので、下船していなかった隆子の分の半券まで回収出来たのである。辰子は池沢を恨んでいたが、殺人にまで手を貸すとは思っていなかったので、怖気出す。そこで、安藤は辰子も殺さざるを得なかった。



解説

 相も変わらず、低予算テレビドラマの原作本の域を超えていない。

 浅見光彦シリーズの多くの例に漏れず、ラスト辺りで光彦と初対面する人物が犯人、という結末になっており、推理小説本来の醍醐味である意外性は全く無い。無論どんでん返しも無い。
 真相が明らかにされても「ああ、そうかい」程度の感想しか思い浮かばない。
 このレベルのものを「推理小説」として書く方も、読む方もどうかと思わざるを得ない。
 
 警察も、真相に全く近付けないひたすら無能な機関として描かれている。
 そんな複雑な事件ではないのに。
 廃業したボートクラブの建物から死体が発見された際、過去に理事長を努めていた池沢は執拗に捜査するのに、最後の理事長だった安藤はノーマーク、というのはおかしい。
 マークしていれば、勤務先での資金使い込みが明らかになり、最有力容疑者になっていただろうに。

 浅見光彦は本作でも名探偵扱いされているが、特に当ても無く関係者の間を嗅ぎ回っているだけで、優秀さは感じさせない。
 漸く辿り着いた真相も、何の根拠も裏付けも無い。偶々当たっていただけ。というか、当たっていたのかも定かでない。
 犯人の安藤がもう少し冷静だったら、単に否定するだけで済んだだろうし。

 動機とストーリー構成も一致しない。
 安藤が今回の犯行に及んだのは、勤務先の資金の使い込みがばらされては困る、という有り触れた動機から。
 にも拘わらず、安藤は他人を引き込んで殺害の対象者を水上バスから消滅させる、というやけに手の込んだ方法で殺害している。
 それだったらもう少し手の込んだ動機を用意出来なかったのか、と思ってしまう。
 冒頭の「水上バスから新婦が消失! 新婦はどこに消えた? 何故消えた? 生きているのか?」という奇妙な謎も、結局「水上バスの運営者に共犯がいただけ。消えた新婦は案の定殺されていました」という呆気無い真相で済まされているし。

 本作では、他のシリーズ作より光彦の母親雪江が登場する。
 上流振っているだけの口煩い婆、という印象しか受けない。登場する度にさっさと引っ込め、と思ってしまうキャラ。
 雪江は、いつまで経っても結婚しようとしない光彦を駄目息子扱いしているが・・・・・・。
 相手の女性からすれば、こんな面倒な姑は嫌だ、と考えて光彦から去っているのも充分有り得る。
 自分こそ息子が結婚出来ない最大の理由なのかも知れない、と、この盆暗婆は考えないのか。



+






Last updated  2017.02.21 21:46:51
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2016.11.30
カテゴリ:邦書

 内田康夫の長編本格推理小説。
 浅見光彦が登場する。


粗筋

 金沢市で、女子大生の北原千賀が、石段から何者かに突き落とされて死亡する、という事件が発生。千賀は東京在住で、正月に偶々金沢を訪れていた所、殺されたらしい。
 石川県警は千賀の身辺を捜査。どうやら彼女は東京で起きた殺人事件に関わっているらしいのが判明した。
 東京の神社で商社マンの山野稔が何者かによって殺害された。この事件では、通報者は女性という以外、何も分かっていなかった。後にこの通報者は、「山野稔は死ぬ直前に『オンナニ・・・・・・ウシク』という謎の言葉を残して死んだ」と改めて警視庁に電話していた。警視庁は、通報者が事件に関わっていると思い、捜査していたのだ。
 山野稔殺害事件に偶然関わる事になったルポライターの浅見光彦は、北原千賀の死を知り、この二つの殺人事件は繋がっている、と確信。北原千賀は、神社で瀕死状態の山野を発見し、謎の言葉を耳にしたものの、事件とは関わりを持ちたくなかったので、匿名で通報した。警視庁の捜査が行き詰っている事を知り、山野が口走った謎の言葉について、再度匿名で伝えた。その後、彼女は金沢へ旅行で向かった。そこで、彼女は山野を殺した犯人とどういう訳か再会し、殺されてしまった。もしかしたら、北原千賀は知らずの内に犯人を目撃していて、その犯人に追跡され、金沢で口封じされたのでは、と浅見は推測した。
 浅見は、警視庁刑事局長である兄のコネを駆使し、単独での捜査を開始。
 事件解決の鍵は山野にあると感じた浅見は、山野の身辺を調査。
 山野は考古学を趣味としていて、考古学愛好家のグループに属していた。グループには、他に高校の美術教師である永瀬という人物がいた。山野は、グループでは必ずしも評判が良くなかった。他人の研究を横取りし、自分のものとして発表してしまう事がよくあったのだ。永瀬も、その被害に遭った一人だという。
 北原千賀は、永瀬の元教え子だった。浅見は、これは偶然にしては出来過ぎると思い、永瀬を身辺を洗ってみたが、アリバイがあり、犯人なのは有り得なかった。
 山野は、商社マンとして、織物の仕入れを仕事としていた。浅見は、「牛首袖(ウシクビソデ)」という着物が石川県で生産されている事を知る。山野が死ぬ間際に口走った「ウシク」とはこの事を指すのではないかと思い、牛首袖を手掛ける数少ない問屋玉野繊維を訪れる。そこの専務である芳崎潔が応対する。山野は、芳崎が手掛ける牛首袖を仕入れたいと交渉を試みていたが、牛首袖は生産量を無闇に増やせるものではないので、新たな取引先を開拓するのは無理だと伝えた、と芳崎は話した。
 浅見は、山野がプライベートと商談を兼ねて行っていた旅行について調べる。彼が宿泊していたホテルに、芳崎が偶然にも宿泊していた事を知る。
 浅見は推理する。
 山野は旅先のホテルで、男性と女性が宿泊するのを目撃した。それから数日後、山野は商談の為玉野繊維を訪れた所、男性と再会。専務の芳崎だった。妻を紹介されるが、それはホテルで見掛けた女性ではなかった。要するに、山野は芳崎の不倫現場を目撃したのだった。山野は、それをネタに、商談を有利に進めようとする。
 芳崎は、それを強請りと受け取った。牛首袖は生産量が少なく、山野が進めようとする商談を成立させるには、従来からの顧客を切り捨てなければならない。それは出来なかった。
 芳崎は、山野を殺す事を決意。一人では実行に移せないので、不倫相手である女性(永瀬の妻)に加担させた。山野を東京の神社に誘き出し、殴打して致命傷を与えたまではよかったものの、即死には至らなかった。瀕死状態の山野は、現場に居合わせた北原千賀に、牛首袖の取引相手に殺された事を部分的に伝え、絶命。
 北原千賀は、事件との関わりを出来る限り避けたかったので、匿名で警察に電話を入れた後、金沢を訪れる。そこで、高校時代の教師だった永瀬と、その妻と再会。
 永瀬の妻は、神社での犯行の目撃者が、夫の元教え子と知って驚く。
 その場で、北原千賀は、永瀬の妻に対し、以前お会いしましたねと口走ってしまう。彼女は、学生時代に会った事がある、と述べただけだったが、永瀬の妻は「犯行現場で会いましたね」と言ったと早合点。芳崎に伝えた所、北原千賀も始末しなければならないと慌てた彼は、彼女を石段から突き落としたのだった。



解説

 低予算テレビドラマの原作本、といった感じ。
 そういった小説でも、やりようによっては面白いものに成り得るのだが、本作にはそうした創意工夫は一切見られない。
 締め切りに迫られて、創意も工夫も無くとにかく書き飛ばし、既定の枚数に達したので適当に広げていた風呂敷を強引に畳んで終わらせ、編集者に渡したかの様である。
 本格推理小説、と名乗っている割には推理小説の醍醐味である筈のトリックや、意外な犯人や、どんでん返し、といった要素が見られない。
 探偵役の浅見が当ても無く関係者(実際には事件とは無関係の者が殆ど)の元を訪れては話を聞いて帰って行く、という展開を延々と読まされるだけ。

 浅見は、本作というか、本シリーズでは警視庁刑事局長の弟で、優秀な探偵で、数々の難事件を解決した事になっている。
 が、何故そうやって持ち上げられるのか、読んでいる側からすれば全く分からない。
 特に賢い訳ではないし、閃きがある訳でもない。
 やる事といえば、兄の七光りで警察官をあしらうだけ。
 この程度の探偵に出し抜かれる警察は、相当無能としか言い様が無い。

 本作の警察は、とにかく捜査が徹底していない。
 北原千賀は、東京在住。金沢は偶々訪れていた。
 金沢で殺されたとなれば、金沢で出会っていた人物に殺された可能性が高いと考え、永瀬教師の身辺を洗っていれば、その妻が不倫していた事等、怪しい点をいくらでも掘り出せた筈。永瀬の妻の線を追及していれば、北原千賀殺害だけでなく、山野殺害の真相も芋づる的に解明出来ただろうに。
 何の勘も働かなかったらしい。

 事件は単純な内容で、真相も驚きに値しない。
 こんな特徴の無い事件に、文庫本で300ページも費やさないと解決出来ない、というのは探偵や警察の無能振りを現している。

 タイトルは「金沢殺人事件」となっているが、金沢で起こる殺人事件は二番目の被害者である北原千賀の件だけ。
 発端となる山野の殺害現場は東京。
 浅見は金沢市を何度か訪れる羽目になるが、それ以外にも能登半島等、石川県各地を訪れている。金沢市にずっと留まっていた訳ではない。
 何故こんなタイトルになったのか。

 著者は、大掛かりなトリックを駆使する推理小説を「ご都合主義」として馬鹿している。
 したがって、本作にも大掛かりなトリックは無い。
 これによりご都合主義の要素は排除されているのかというと、そうではない。
 寧ろご都合主義だらけ。
 北原千賀が偶々神社に入った所、瀕死の状態の山野を発見。山根は考古学愛好家クラブに属しており、北原千賀の高校時代の教師もメンバーに名を連ねていた。
 北原千賀はその直後に金沢を訪れ、恩師と再会。そして神社で犯行を手伝っていた恩師の妻とも再会してしまい、その結果殺される。
 事件そのものがご都合主義なのである。
 山根の殺害方法も、ご都合主義。致命傷を与えるものの、即死には至らなかったので、偶々現場にいた北原千賀に、謎めいた言葉を残すのを許してしまう。
 石段から突き落とす、という不確実な方法で北原千賀を殺せたのも、ご都合主義。
 主犯が物語の後半で登場する人物なのも、共犯がラストでやっと登場する人物というのも、ご都合主義だろう。
 ご都合主義を批判出来る推理小説にはなっていない。

 物語の中で殺人事件が発生し、それを探偵役に調査させ、犯人が作中で特定されれば「本格推理小説」として成り立つ、という程度のご都合主義的な認識で著者は小説書き飛ばし、その産物をいわゆるファンらが「これが本格推理小説なんだな」というご都合主義的な認識で読み漁る。
 こうしたご都合主義的な構造が改められない限り、日本の推理小説は低迷するばかりである。


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Last updated  2016.11.30 18:47:33
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