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JAFの趣味なページ

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湾岸戦争における戦艦

湾岸戦争における戦艦
戦艦ウィスコンシン
戦艦ウィスコンシン メキシコ湾にて

ご存知の方も多いと思いますが、1991年1月~2月にかけてアメリカを中心とした多国籍軍が、クウェートに侵攻したイラクに対して攻撃を仕掛け、大規模な戦争となりました。世に言う湾岸戦争です。
史上例の無い航空作戦を多国籍軍は展開し、ステルス攻撃機の登場や精密誘導兵器の使用、トマホーク巡航ミサイルなどのハイテク兵器が使用されたことでも有名です。LANTIRN不足からF/A-18、F-16などの機体はほとんど誘導爆弾は投下せず、戦争全体で使われた総航空用弾薬量の7.8%に過ぎませんが、高度な情報システムや精密誘導兵器などのハイテク装備が極めて強力であることを証明した点で、近代戦争におけるターニングポイントとも言えます。

さて、1月17日にオペレーション・デザートストーム(砂漠の嵐作戦)が開始され航空作戦が展開されましたが、そのずっと前からアメリカ海軍がペルシャ湾及び紅海に展開していました。そしてその中に、恐らく最後の仕事になるであろう戦艦が2隻含まれていました。
アイオワ級戦艦「ミズーリ」と「ウィスコンシン」です。両艦は太平洋戦争中に就役し、その後数度の近代化改装と幾度もの現役と予備役の出入りを繰り返しながら1991年に至っていました。そうして湾岸戦争勃発に伴い(正確には勃発しそうなので)予備役から現役に戻り、他の空母や最新のイージス艦と共にやってきていたのです。
両艦の任務はトマホーク巡航ミサイルによる超長距離攻撃、多国籍軍地上部隊がクウェートに上陸するとイラク軍に思わせるための陽動作戦、そして地上軍にとって大きな脅威となりうる長距離砲陣地や後方支援用施設の事前攻撃でした。結果から言えば両艦はその任務を十二分に果たしたと言えます。むしろイラク軍は航空機による対艦攻撃を行わなかったために、防空が主任務のイージス艦よりもよふほど役に立っています。
艦砲射撃は攻撃力・信頼性・持続性・全天候性に優れており、場合によっては航空攻撃を遥かに凌ぐ支援が可能です。そのことは朝鮮戦争・ベトナム戦争とどちらでも戦艦が大きな戦果を挙げたことからも明らかで、湾岸戦争でも遺憾なく発揮されたのです。


【艦砲射撃の方法】
アイオワ級戦艦には9門の40.6cm51口径砲を搭載しており、その威力は想像を絶します。かの日本海軍の戦艦大和には劣るにしても、徹甲弾の重量は1225kg、榴弾でも862kgです。この砲弾を最大38.7km先まで飛ばすことができます。物理的にもそうですが、この砲撃を受けたイラク軍将兵の精神的打撃は計り知れないものだったでしょう。参考までに書いておけば、陸上部隊の砲兵が使用する砲はせいぜい203mm、その2倍の口径があるのです。

「ミズーリ」「ウィスコンシン」両艦は開戦、すなわち1月17日から2月3日までは他の艦と同じくトマホーク巡航ミサイルの発射に勤しんでいましたが、沿岸部は浮遊機雷やシルクワーム対艦ミサイルの脅威が大きく、陸地に接近しての艦砲射撃は行われていませんでした。機雷の脅威は一般的に思われているよりも遥かに大きく、下手をすれば大型艦でも一発で行動不能に陥れる威力を持っているものもあります。なので艦砲射撃は機雷の密度が高い地域の外側、要するに戦艦の主砲でないと届かない距離から行う必要があったのです。
艦砲射撃ポイントは2箇所が設定され、1つはクウェート国境に近いサウジアラビア沖、もう1つはクウェート市南東方向沖です。目標はサウジアラビア・クウェート国境地帯、クウェート領の沿岸部二ヶ所、それにファイラカ島の4箇所です。

主な目標はイラク軍指揮通信統制(C3)施設、レーダーサイト、電子戦施設で、このことから後方支援施設を重点的に攻撃したのが分かります。これらの施設を攻撃すれば効果が現れるのに少し時間がかかりますが、軍の能力は麻痺してしまいます。誤解が多いところなのですが戦争において一番大切なのは大砲やミサイルなどの正面装備ではなく、後方に位置して警戒や指揮・支援などを行う部隊なのです。その後方部隊が壊滅すれば指揮は乱れ、統率は取れなくなり補給も滞るようになり、簡単に撃破されてしまいます。例えれば、先生のいなくなった小学生か幼稚園児状態です。
地上戦開戦後は即効果のでる正面装備、すなわち砲兵陣地、補給基地、物資集積所、対艦ミサイル陣地、沿岸部に位置する地上部隊などに主な目標が移されています。

艦砲射撃に限らず、ありとあらゆる砲撃において最も重要なのは弾着観測と射撃管制です。つまり、どこどこに砲弾が当ったので、効力射(敵の中心に落ちるなど効果的な射撃)に移るためにはどれくらい修正が必要、と報告する任務です。その方法としては地上部隊から観測員が派遣されたり、航空機が担当したりしますが、空軍や海兵隊の観測機であるOV-10などは戦艦の思い通りの時刻や場所を飛行してくれるとは限りません。むしろ中々飛行してくれません。その点を湾岸戦争においては戦艦に搭載していた無人観測機「パイオニア」が解決し、これが弾着観測の57%を提供しました。
「パイオニア」はテレビカメラと赤外線前方監視装置(FLIR)が搭載しており移した画像をデータリンクを使ってリアルタイムで戦艦に送ることで弾着観測を行います。無人機であるため人的損害を気にせず使うことができ、戦艦の活躍の縁の下の力持ち的存在です。


【艦砲射撃開始】
40.6cm砲が火を噴いたのが2月4日、サウジアラビア沖でした。未だに機雷の脅威はありましたが、戦艦「ミズーリ」が新鋭の機雷回避ソナーを装備したフリゲート「カーツ」のエスコートによって射撃点に到達、海兵隊による弾着観測・射撃管制の下、イラク軍に対して艦砲射撃を開始しました。3日間そこにとどまって40.6cm砲弾112発を射撃しています。
2月6日、もう一隻の戦艦「ウィスコンシン」がフリゲート「ニコラス」とともに射撃点に到着、「ミズーリ」と交代しました。同日中に海兵隊の観測機OV-10「ブロンコ」からクウェート南部に展開する砲兵陣地発見の報告と砲撃支援要請があり、それに応じて距離31kmから11発の砲弾をお見舞いしました。OV-10の弾着観測・効果判定に寄れば陣地に命中、イラク軍砲兵陣地は沈黙したとのことです。
7日、「ウィスコンシン」は通信施設に対して艦砲射撃を行って沈黙させ、さらにその夜搭載していた無人機「パイオニア」の観測の下イラク軍特殊部隊用停泊地を艦砲射撃、15隻以上の舟艇を完全破壊し、事実上壊滅させました。さらに事前情報で判明していた砲兵陣地に対し19発を発射しています。
8日、国境付近の海兵隊支援のために、事前情報から歩兵部隊・機械化部隊などが潜んでいると思われる場所に艦砲射撃を実施、8目標に計28発を投射しました。この時の正確な効果は不明です。

9日にサウジアラビア沖の射撃点を抜け、ペルシャ湾中央付近に展開している味方部隊と合流しました。ここで2隻は補給と洋上整備を受け、20日まで海兵隊の支援要請に即応できるように展開していました。再び戦艦部隊が事前に定められた任務についたのが21日、地上戦開始3日前のことです。地上戦開戦が近いので陽動作戦のためにクウェート市南東の射撃点に移動した「ウィスコンシン」は50発の砲弾をイラク軍指揮施設に叩き込み、10ヶ所以上の施設が倒壊・完全沈黙したようです。

23日、「ミズーリ」はファイラカ島に照明弾を撃ち込んで艦砲射撃を実施、その近辺に上陸するものと思わせ、「ウィスコンシン」はクウェート市付近のイラク軍陣地に対して砲弾をまた撃ち込んでいます。これによってイラク軍は南側に展開していた地上軍を北上させ、アメリカ軍の目論見どおり南側は手薄になりました。
2月24日、多国籍軍地上部隊はサウジアラビア・クウェート国境を突破しクウェート市への進撃を開始します。事前の艦砲射撃や、陽動作戦の成功によって手薄になっていた南側は、最大の防御戦である「サダム・ライン」でさえ初日で陥落し、多国籍軍は上手く行き過ぎて逆に困惑したくらいです。
これを受けて「ミズーリ」はクウェート沿岸16kmに移動、大規模な艦砲射撃を実施します。おそらく「ミズーリ」の発射した砲弾の大部分は24日と25日に実施された地上部隊支援砲撃なのではと考えられます。ちなみにこの時に「ミズーリ」にむけ生き残っていたシルクワーム対艦ミサイル2発が発射されました。1発は発射されたチャフに誘導装置を撹乱されて海面に落下、もう1発は護衛についていたイギリス海軍駆逐艦「グロセスター」のシーダート対空ミサイルに撃墜され、「ミズーリ」は事なきを得ています。

地上軍がクウェート市に猛スピードで向かっている間、「ウィスコンシン」は砲撃要請を受けてファイラカ島に発見されたバンカー群に対して徹甲弾23発を使った艦砲射撃を実施しています。その後26日にはクウェート市沿岸に移動、北上する第一海兵師団援護のためにイラク軍戦車に向け、湾岸戦争最後、ひいて人類史上最後になるかもしれない戦艦による艦砲射撃が行われました。この際11発の砲弾が発射され、その後は後退してまた主力艦隊に合流しています。


【戦艦の戦果】
「ミズーリ」「ウィスコンシン」両艦は湾岸戦争の間に合計して1102発、982tの40.6cm砲弾を発射しました。これは海軍の主力攻撃機A-6Eが364機出撃したのに相当する投射量です。正確な内訳は「ミズーリ」が47回の艦砲射撃の間に759発、「ウィスコンシン」が36回の間に528発を発射しています。これが先ほどの1102発と計算が合わないのは、演習用に発射したものも含めてある資料だからだと思われます。
先ほど「パイオニア」による弾着観測が57%だと書きましたが、その他は35%が弾着観測なし、残り8%が地上部隊や航空部隊によってもたらされたものです。この弾着観測無しというのは心理的効果を狙ったあてずっぽうの2~4発の射撃です。よって決して不可能だからしなかったのではなく、する必要が無かったからしなかったのです。
計52回の弾着観測中、効果判定が得られたのが37回。これは100%「パイオニア」がもたらしています。それによると完全破壊・沈黙ないし中程度の損害、つまり戦闘能力喪失が約30%、損害軽微は約40%、残り約30%が効果無しと判定されています。なお徹甲弾を使った点目標への攻撃では28%が戦闘能力を喪失したと伝えられています。発射された砲弾のほとんどが面制圧を行うための榴弾によるものなので、徹甲弾の使用はほんの一部に過ぎませんが、この結果を見る限りではイラク軍の作った陣地は榴弾の爆発ではなかなか破壊できないくらい頑丈なものだったのかもしれません。ベトナム戦争での効果判定では70%が完全破壊(場所がジャングルで観測が困難だったこと、観測技術が未発達だったことによる水増しを考慮しなければなりませんが)となっているので、砂漠を掘って作った陣地というのはかなり強固なものなのかもしれません。しかし射撃距離も湾岸戦争では平均35kmと遠いので、それによる命中率低下も考慮に入れなければなりませんので一概に決め付けることはできませんが。


以上のように戦艦は動いていましたが、このように最新鋭の装備がもてはやされる裏で、艦齢40余年を数える旧式の戦艦が活躍しています。精密なハイテクに比べローテクは信頼性や耐久性などに優れており、時に大きな力を発揮するときがあるのです。特にコストパフォーマンスに極めて優れているという利点が挙げられます。

湾岸戦争終結後「ミズーリ」と「ウィスコンシン」は退役し、現在記念艦となっていますが、最後の最後に華々しい戦果を残して軍艦としての生涯を終えたのでした。


余談ですが停戦後に「パイオニア」がイラク軍陣地の上空を飛行していたところ、停戦を知らされていなかったイラク軍将兵1405人が戦艦に艦砲射撃されると思い、投降してきた事があります。


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