2017/04/01(土)19:50
「神がそれを望んでおられる」いえいえ 望んでいるのは貴方です!~ラッキーが生んだ十字軍国家~『十字軍物語1』
浅田真央さんの底力を見た思いがしました。それにしても森元首相の発言は失礼だなぁ。
こちらは塩野七生さんの歴史小説です。
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十字軍物語(1)
塩野七生
イスラム帝国に奪われた整地エルサレムを奪還するべく、キリスト教国の七人の領主たちが立った。彼等第一次十字軍がどのような道を歩んだかを時系列に沿って綴った作品である。
ある修道士の「神がそれを望んでおられる」というスローガンがツボにはまって、あっという間にヨーロッパ中に整地奪還熱が盛り上がり、瞬く間に軍隊が集まる。そこまでは良かったのだが、領主達は皆身分としては同じくらいなので、まとめる役割の者がいなかった。その上自分は指一本動かさずに彼等が征服した土地を我がものにしようと企むビザンティン帝国皇帝もいて、人間関係は、かくして縺れていくのであった。
領主達とは別に出発した巡礼たちが「自分達は巡礼者なんだから」と途中の街で略奪をしながら聖地へ向かったエピソードや、「神のため」という、誰も文句がつけようのない崇高な目的のために集まったにしては俗物根性が抜けていない面々の人間臭さが魅力である。そして最も面白かった嘘のような本当の話は、統制のとれていない烏合の衆の集団が、迎え撃つイスラム軍が彼等の目的を知らず「ただ侵略してきたんだろう」くらいに考えていたラッキーも手伝って(考えてみれば迷惑な話だ)、補給地もなく土地勘もない中で、イェルサレム奪還を果たしてしまうところである。歴史的偉業なんて、そんなもんなんですね。
十字軍といえば、映画『ロビン・フッド』に登場する獅子心王リチャード三世の活躍が名高い第三次十字軍が最も知られているが、今回の遠征軍にも若きヒーローがいた。その名もタンクレディ。この名前を聞いて「おっ」と思った人はかなりの映画通。ヴィスコンティ監督作品『山猫』で、バートランカスター演じるサリ―ナ公爵の甥の名前がタンクレディ。演じていたのは若きアラン・ドロン。滅びゆく時代を象徴していた公爵に対して、タンクレディは新興階級の娘と結婚してこれから活躍していこうという新世代の象徴である。この彼のモデルとなった人物が十字軍にいたのだ。故郷にいれば武士の部屋住みよろしくぱっとしない生涯を送っただろう彼が、伯父に随行して赴いた異国の地で戦果を挙げ、領主になる経緯は立派なサクセスストーリーである。また若くして死ぬ所も“永遠の青年”の称号を得るにふさわしい。さて、苦労の果てに獲得したエルサレムがとんでもないことになってしまう第二巻を読むのが楽しみだ。
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