2021/08/02(月)00:04
「これぞまさに典型的アイルランドの殺人ですね?」 ~小説『湿地』
みなさん、こんばんは。アイスランドのミステリーを紹介します。
湿地
Myrin
アーナルデュル・インドリダソン
北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害しそのまま逃走したものと思われたが、現場に残された三つの単語からなるメッセージ“おれはあいつ”が事件の様相を変える。
冒頭の会話は、アメリカ帰りの捜査官シグルデュル=オーリ。本シリーズでは、年齢もタイプも異なる三名の捜査官が登場する。「あの男のプロファイルを作るべきじゃないでしょうか?彼のことをもう少し知るために」とFBIみたいな事を言うシグルデュル=オーリは若手代表。「プロファイル?なんだそれは?横顔のことか?ホルべルグ(被害者)の横顔の写真が欲しいのか?」とトンチンカンな事を言うレイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルはベテラン代表。何かと頭で考えるシグルデュル=オーリは、エーレンデュルから、ある女性達に恥ずかしい質問をしなければならなくなり言葉に窮するが、もう一人の女性の部下エーレンボルグは言葉巧みにエーレンデュルの望む人物を探し当てる。今風のデータ分析やプロファイルで捜査をするスタイルではなく、人々の心に分け入って真相を探し出す昔ながらのやり方をするエーレンデュルを支持しているのは明らかである。
また並行して、エーレンデュルは、娘エヴァ=リンド経由で妻からの花嫁失踪の謎解きを依頼される。プライベートの事件とパブリックな事件を並行して進める中で、エーレンデュルの人物像を全方位から描いていくスタイルやいびつな家族との関係は、第二作にも引き継がれる。
常に殺人は忌むべきものであり、殺人者は罰せられるべきだ。そのスタンスでエーレンデュル達も動いている。しかし本作の場合は、大いに悩ましい。加害者に大いに同情すべき点があるからだ。手段は責められるが気持ちは責められない。
第二作目と本作に共通しているのは、女性と子供という最も弱き者に対して加えられる暴力への怒りである。やり玉に挙げられるのは常に男性であり、抵抗する能力も体力も知力も持たない女性と子供が、一度のみならず傷つけられる。暴力に対して無関心であってはならない、と繰り返し説かれているように感じられた。
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