2014/04/07(月)00:22
解説の金原瑞人さんと同じく 私も彼女の“文章力の素晴らしさ”に一票! 魔道師シリーズ第三弾~小説『太陽の石』
今日も引き続いて 乾石智子さんのファンタジーです。今度新作も出るとか。楽しみです。
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太陽の石
Legacy of sorcerers
乾石智子
霧岬の村に住む16歳のデイスは村の外に捨てられていたところを拾われ、両親と姉に慈しまれて育った。三百年ほど前、魔道師イザーカト九兄弟のひとりリンターが空から降ってきて、地の底に達する穴をうがち、隆起させたというゴルツ山に登ったデイスは、土の中に半分埋まった肩留めを拾う。金の透かし彫りに、“太陽の石”と呼ばれる鮮緑の宝石。これは自分に属するものだと直感するデイス。だが、それがゴルツ山に眠る魔道師を目覚めさせることになろうとは…。
『夜の写本師』『魔道師の月』に続く第三弾『太陽の石』は、ちょうど両者の間の時代を舞台にしている。古代ローマ帝国を模したコンスル帝国が傾き始めた頃とあり、その理由として地位を高めんとする魔道師と、権力を得んとする者との癒着があった事が作品中で紹介されている。この辺りも現実世界を彷彿とさせてなかなかに面白い。
魔道師が登場する本シリーズは、主人公となった少年の成長が大きなテーマであるが、もう一つのテーマは愛だ。『魔道師の月』こそ人間の欲望という普遍的なテーマを扱っていたが、『夜の写本師』は男女間の愛、『太陽の石』は兄弟間の愛が取り上げられる。もちろん、愛情が深ければ深いほど、その逆のベクトルである憎しみの感情も強いものとなり、愛することができたかもしれない対象から憎しみをぶつけられた主人公が葛藤する所がこの作品のみどころである。また、二作の悪役に据えられた人物は、いずれも愛情を渇望しながら得られなかったことが憎しみを抱く原因となっており、それ故に単純な悪役としては描かれておらず、強い印象を残す。
さて、本作の解説は翻訳家の金原瑞人さんが担当しているが、日本のファンタジー界の歴史までさらっとおさらいできる優れ物である。その中で彼が誉めていたのが彼女の文章力だ。「文章力という恥ずかしい言葉を使ったのは初めてだが、この言葉意外に適当な言葉が見つからない」と書いている。
私も全く同感で、文章を読んでいると、後から後からイメージが頭の中に湧いてきて、どんどん物語に引きずり込まれていく。表現力なのかテンポなのかリズムなのか、おそらく細かく見ればあるだろう齟齬もふっ飛ばして先を読みたくなる勢いがある。その武器をどんどん磨いて、私たちを未だ見ぬ世界に連れ出して欲しい。