2014/11/29(土)10:08
2015年新春 映画公開~モノクロームの世界を抜けて~『チョコリエッタ』
2015年1月に映画が公開される大島さんの作品チョコリエッタ を紹介します。
チョコリエッタ
大島真寿美
高校二年生の宮永知世子には、もう一つの名前がある。チョコリエッタ。両親が好きだったフェリーニのミューズ、ジュリエッタ=マシーナにちなんでつけられた名だ。だが今では誰もその名前で彼女を呼ばない。一緒に育った雑種犬ジュリエッタが死に、知世子、そして家族にもそれぞれ変化が訪れようとしていた。
『香港の甘い豆腐』『水の繭』のように、本作もまず「後追い自殺しそうな勢いで嘆き悲しんだ」愛犬ジュリエッタの死という喪失から始まる。ヒロインの年齢は『香港…』と同じ十七才。大人に向かおうとしている部分と、子供でいたい部分とが、引っ張り合いっこをしている、中間の時代。しかし喪失から抜け出られないのは、何も十七才だけじゃない。母の死から未だに立ち直れない父。知世子が出会う高校の先輩・正岡正宗も「永久浪人を目指す」と宣言するが、どこにも属せない自分をもてあます内心のイライラを見抜かれる。唯一向かうべき未来を持っていた叔母・霧湖は、知世子にこう言わずにはいられない。「人が変わるっていうのは、悪い意味だけじゃない。成長したってだけで変化はともなうものでしょ。そういう時はしがみついているべきじゃない。変わればいいのよ。どんどん変わっていけばいいのよ。」
喪失を実感する前に、「わけのわからない影にすっぽり覆われてしまった」知世子。家の事を霧湖に任せて、外に出てばかりいる父。傷に触れまいとする互いの配慮が、かえって傷を修復せずに、長引かせてしまう。そんな閉塞した空間に突破口を開けるのは、外部からやってきた人間にしかできない。正宗に対しては祖父が、知世子に対しては正宗がいた。言い方は乱暴だけど、味のあるキャラクター、正宗と知世子の、恋愛の一歩手前のような関係が、さっぱりしていていい。全てが新しく始まる春という季節に、足踏みしていた彼等が、季節が進むにつれて、少しずつ再生へと向かってゆく姿を描いた佳品。
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