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2016/04/08(金)19:25

方舟のむこうがわ~もうひとつのノアの方舟 小説『世界はおわらない』

海外の絵本・童話・児童書・ティーンズ小説(167)

みなさん、こんにちは。すっかり風邪をひいてしまいました。とほほ。 さて、こちらはノアの方舟を別の人の視点から見た物語です。 世界はおわらない Not the End of the World 主婦の友社 ジェラルディン・マコックラン(著者),金原瑞人(訳者),段木ちひろ(訳者)  『神に従う無垢な人』ノアは方舟を完成させると、自分の妻と息子とその妻達と、清いつがい七つがいずつ、清くない動物七つがいずつを乗せた。洪水は40日40夜続き、地上に生きていたすべてのものを滅ぼしつくした。  『旧約聖書 創世記』に登場する「ノアの方舟」である。だが、ここには、書かれていない事がある。息子の名前は出てくるが、妻の名、息子達の妻の名は登場しない。また、動物を舟に乗せたのであれば、当然必要であるはずの水や食料をどうしたかも、排泄物の処理についての記載もない。では、書かれていなかったからといって、食料の確保や排泄物の処理が為されなかったのか?妻達に名前はなかったのか?そんな事は、有り得ない。ならば他にも、伝えられている事以外に、何かがあったのではないか?  著者は、ノアの一家に、聖書に登場しなかった娘・ティムナを登場させる。彼女は当初「父さんがいれば、怖いものは何もない」とノアに従っていたが、大洪水に遭遇して、父への信頼が揺らぎ始める。「人を愛せ」と教えた神が、生まれたばかりの赤子でなく、獣を方舟に乗せたのは何故なのか。その教えに唯々諾々と従う父や兄達は、果たして無垢たり得るのだろうか?万能の父に矛盾を感じ始めた矢先に、闖入者が登場し、彼女の心と方舟の運命共同体の運命をも、大いに揺さぶる事になる。「百年後、人々があたしたちの物語を語るときに名前が出るのは息子たちだけで、あたしは登場しないだろう」と、自嘲気味に語る彼女が、主たる語り手を務めるが、ノアの妻アマ、長男の妻バセマト、次男の妻サライ、三男の妻ツィラ、名もなき存在として切り捨てられた者、全てが声をあげる。そこから見えてくるのは、選別社会に適応した選ばれし者ノアと彼に従う息子達には、決して見えない、方舟のむこうがわの世界だ。  現代の日本もまた、「勝ち組」「負け組」という選別社会の様相が強くなっている。そして、「選ばれないのは何故か」を問う事よりも、「選ばれない者が悪いのだ」と切り捨てる風潮が強い。競争社会・選別社会の方舟の向こう側に追いやられた人達は、洪水ならぬストレスに苦しみ、命ならぬ平常心を失ってゆく。だが決して、世界も価値観も一つではない。そんな単純なものでは有り得ない。人間が人間である限り、世界が世界である限り。世界から見放されたように感じている現代人に、本作の或る登場人物から、この言葉を贈る。こういったことは起こるものだ。しかし世界の終わりではない。(中略)洪水が永遠に続くことはない 地理的にも続かないし、何年にもわたって続くこともない。 大人にも、子供にも、強く訴えるメッセージを持つ、稗史風創世記。 【中古】 世界はおわらない /ジェラルディン・マコックラン(著者),金原瑞人(訳者),段木ちひろ(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店

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