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2016/09/06(火)19:27

あきらめません 読むまでは~アウシュヴィッツ異聞 小説『 アウシュヴィッツの図書係』

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みなさん、こんばんは。 今日紹介する本は全てがフィクションというわけではないのですが、創作もまじっているそうです。 あのアウシュヴィッツに秘密の図書館があり、担当していたのが10代の少女だったのです。 アウシュヴィッツの図書係 La Bibliotecaria de Auschwitz アントニオ・G.イトゥルベ 集英社  『希望のヴァイオリン:ホロコーストを生きぬいた演奏家たち』というノンフィクションで、収容所内の演奏家達に「明日生きられるかもわからないのに音楽なんて」と冷たい視線が向けられた件が紹介された。しかし、来る日も来る日も死体の匂いと煙と乏しい食べ物ばかりを見ていては、体よりも先に心が病んでしまう。そんな彼等の支えとなったのが図書館だ。  アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所の31号棟に秘密の図書館があり、そこにあった8冊の本の管理を一人の女の子が担当していた。この件に注目した著者が、イスラエルで生きていた図書係の女性に会いに行き、書かれたのが本書である。図書館には、一人のユダヤ人青年が関わっていた。彼の名は、フレディ・ヒルシュ。Wikipediaで検索しても、彼の名前は出てこない。記録が残っていないからだ。しかし実は、収容所でユダヤ人の処分が為されようという日に暴動を起こす計画が進行しており、彼はリーダーとして行動を促されていた。その矢先の死であったため、絶望して自殺を選んだというのが当時の大方の見方であった。だが、主人公・ディタのモデルとなった女性はそうは思わなかった。記録に残らない彼を知っていたからだ。そう、「記録に残っている人と出来事」の影には、その何十倍もの数の「記憶に残らなかった人と出来事」が隠れている。図書館に、もう一つの見えない本―貸し出された大人達が自分の記憶を元に物語を語る“生きた本”―があったように。  あの有名なアンネ・フランクですら、一瞬物語を通り過ぎていく存在に過ぎない。その代わりにジャーナリストの著者は、まるでその場に居合わせたかのように、収容所内の「記憶に残らなかった人と出来事」を次々と掘り起こしていく。夫と離れて不安に駆られながら、懸命に収容所内の子供達を励ます母親、ユダヤ人の娘と恋をして苦悩する若者、レジスタンスに希望を繋ぐ青年、そして秘密を抱える若きリーダー、フレディ・ヒルシュ…困難な時代において、夢や読書や希望などの「目に見えないもの」が、どれほど人々を勇気づけ、目に見える「現実」を乗り越える存在であるか、読書に関する数々の言葉と共に伝わってくる。  ディタが収容所で本と出会ったことで新たな世界を知ったように、大人達のみならず、ぜひ子供達も、本書を手に取って新たな世界の扉を開いて欲しい。 ​アウシュヴィッツの図書係 [ アントニオ・G.イトゥルベ ]​​楽天ブックス​

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