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2016/11/21(月)06:48

背の低いイギリス人の考古学者が いかにしてアラビアのロレンスになったか~評伝『ロレンスがいたアラビア(上)』

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みなさんは有名な映画『アラビアのロレンス』を見たことがありますか? 毀誉褒貶の絶えないこの人は本当はどんな人だったのか? 彼と同時代にあの地方を駆け抜けた男達と共に描いた作品を紹介します。 ロレンスがいたアラビア(上) Lawrence in Arabia スコット・アンダーソン 英国王が爵位を与えようとしたにも関わらず、ロレンスはきっぱりと断る。冒頭は、そのまま映画のオープニングにしてもおかしくない場面から始まる。「国よりもアラブを思い、それ故に時代に乗っていけなかった悲劇の人」という、デヴィッド・リーン監督作品『アラビアのロレンス』のイメージを裏切らない。  ティンパニーの音から始まる有名なモーリス・ジャールの音楽、ロレンスの合図で一斉にアラブの民が攻撃を仕掛けるシーン、アカバ攻略。映画があまりにも有名になってしまい、ロレンス=ピーター・オトゥールと思い込んでいる人も多い。だが、本当の彼はどんな人だったのか?  本書はロレンスのみでなく、同時代にアラブ世界を舞台に暗躍した4人のスパイの活動と、石油利権と領土を巡ってアラブを我がものにせんと企む帝国の歴史を綴ったノンフィクションだ。  表向きは大学講師だが、英国を欺くためオスマン帝国と共謀し、愛人のロシア系ユダヤ人医師を諜報活動に利用していたドイツのスパイ、クルト・プリューファー。ルーマニア系ユダヤ人の農学者で、オスマン帝国統治下のパレスチナで祖国建設のために奔走するシオニスト、A・アーロンソン。米東海岸の名門の出で、大手石油会社の調査員から米国務省の情報員に転身したW・イェール。イェールを除いて元は皆学究肌だった事は興味深い。政治や商売の世界から離れていた分、理想に殉じることができたのか。  現在中東紛争で不穏な母国を捨て、移民達がヨーロッパを目指すことが問題になっている。失業者が増えるだの、治安が悪くなるだのと不満を述べているが、そもそも中東を複雑にしたのは、第一次大戦前夜の帝国主義にどっぷり浸かったヨーロッパだった。この地を支配していたオスマン帝国を、自分達の手を汚さずに極力アラブ諸国の民を使って倒そうと画策。勝っては欲しいが勝ち過ぎては自分達の出る幕がないなどと勝手な言い分をおくびにも出さず、さも協力者・支援者であるかのような顔をして支援を手加減したり、やっている事は本当に汚い。この過去に目をつむって、現在の文句ばかりを言い立てるのは、あまりにも自己中心的に過ぎる。  上巻は映画の山場でもある、アカバ攻略の直前までであり、映画ではアレック・ギネスが演じたファイサルとロレンスの出会いが描かれる。残念なのは一か所写真のキャプションが入れ替わっている所だ。白水社にメッセージを送ったら再版時には訂正してくれるとのこと。出版社の丁寧なフォローも素晴らしい。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ロレンスがいたアラビア(上) [ スコット・アンダーソン ]楽天ブックス

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