2017/07/30(日)00:00
骨だけ愛して~京極堂シリーズ『狂骨の夢』
みなさん、こんばんは。本日も昨日に引き続き京極堂シリーズを紹介致します。
狂骨の夢 (講談社文庫)
京極夏彦
榎木津と京極堂の旧知である『旅館いさま屋』の釣り堀を任されている伊佐間一成は、ふと立ち寄った家の女主人・朱美から「妾は人を殺したことがあるんでございますよ」と話しかけられる。関口と中禅寺敦子は、作家・宇田川崇から、妻・朱美について相談を受ける。榎木津と木場の幼なじみである精神科医・降旗もまた、教会を訪ねた朱美から「殺したはずの夫が現れる」と相談を受けていた。
冒頭はやはり、誰ともつかぬ者の独白で始まるが、なぜか二種類の対立する独白が登場。さて、一人の人の別人格か、 はたまた全く別人か?そう、今回何度も登場するテーマは「二つ」。骨の夢に悩まされる精神神経科医・降旗、自分の記憶が夢か現実か見極められない朱美、神を信じられない牧師・白丘、いずれも信じるものを失って二つの場を行き来する。前半はそんな悩める彼等を『魍魎の匣』で名前だけ登場していたが、今回初登場の釣り堀の亭主・伊佐間の視点や木場の視点で眺める事になる。伊佐間は合理と非合理の間を行き来する関口とスタンスは同じだが、思いつめるタイプの関口に対して、遊民の態である伊佐間には深刻さは見えず、物語に見え隠れする不気味な髑髏のイメージを、彼の飄々としたキャラクターがうまく打ち消してくれている。さて肝心の京極堂はといえば、更に出番が遅くなり、登場場面が372p、決め台詞を言うのが391pと、半分以上物語が進んでしまってから動き出す。でも登場すれば動きは早く、アンビバレンツに悩む彼等の憑物を落とすというより、語る事によって彼等の心の中を整理してあげている。同時多発で起こる事件の関係性は、『魍魎の匣』と対を成す。
本作はもう一つのシリーズ『後巷説百物語』の或る人物の「騙り」によって、起こった事態が発展し、昭和に生きる京極堂が「語る」事でその事態に始末をつけるという息の長~い伏線になっている。
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