2019/01/20(日)00:00
明治時代版お宝鑑定団~小説「明治耽奇会」
みなさん、こんばんは。
お宝探偵団って番組をご存知ですか?
明治時代、これと同じ事をやった面々がいるそうですよ。
明治耽奇会
高橋義夫
文芸春秋
天絵社の若き画学生村田秀平は、横浜の商人伊勢勝(41才)と師である天絵社の教授高橋由一(文政11年生まれ49才)と共に東京日日新聞の福地桜痴の住む池之端御殿を訪れる。
江戸時代に滝沢馬琴ら好事家が会合して、所有する珍品を批評し、由来を研究する会を開いていたのにならって行われた第一回の会合に呼ばれたのだ。
そこに登場したのは七福神に見立てた料理の数々と、フージーという不思議な道具。さて、桜痴馴染みの芸者から、なくした物をフージーで探して欲しい、と頼まれた秀平だったが…。
と第一話「南京降霊術」をここまで読んで考えた。
ははあ、なるほど。商人、画家、文壇の有名人とバランスよく配されたメンバーが毎回取り寄せる珍奇な物を、庶民秀平の目で見る事で、明治という時代を表現するという筋立てか。さしずめ秀平は、不思議の国ならぬ明治という不思議な時代に舞い込んだアリスという役どころ。ところがこの予想は第二話であっさりと外れてしまう。何とこの秀平くん、女性の裸体写真を売り物にしたと誤解され、師から破門されてしまうのだ。さしずめ「首をはねよ!」と女王様に開始早々宣告されたというところ。
当然会合からも外される。なんとまぁ、間の悪いお人…。さて、じゃあ彼はこれきり舞台から降りると思いきや、それはない。間の悪さを引きずりつつ、伊勢屋で働くことになる。引きずるのは間の悪さだけではない。彼はアリスのように「首をはねよですって?何言ってんのよ!?」と女王様に抗議しない。絵も師匠も、関わった女も、昔の仲間も捨てきれない。
往生際の悪い人である。
彼とは対極にいるのが、耽奇会の面々だ。彼等は飛び石を渡るように軽々と、明治という時代を生きてゆく。だが明治になっても、上に立つ者が変わっただけで、理不尽な権力や貧しさが消えたわけではない。飛び石で足を滑らせて、怪我をする者の方が圧倒的に多かった。だからこそ、不出来でどっちつかずのアリス、秀平にキャメラを据え続ける事で、ブルジョアジー達と庶民両方から見た不思議ワールド、明治を映そうと考えた。著者の狙いはそんな所か。
さてさてそんな変化球、あなたはストライクと見るか、ボールと見るか?
「南京降霊術」「裸体写生事始」「蜘蛛男」「美女と紅薔薇」「風流あぶら絵ぶし」
「殺人ブリキ壷」収録。
ちなみに、福地桜痴氏は明治時代実在の文人である。
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