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2021/01/16(土)00:00

再犯を疑うか 更生を信じるか リーバス 迷走す~リーバス警部シリーズ第10作「死せる魂」

海外のミステリー&ファンタジー小説(730)

みなさん、こんばんは。あっという間に緊急事態宣言が11府県に広がりましたね。 今日もリーバスシリーズを紹介します。 死せる魂 (Hayakawa pocket mystery books リーバス警部シリーズ) Dead souls イアン・ランキン ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス 冒頭、身を投げようとする男がいる。背後から近づいてくる人影も描かれているが、男は落とされたのではなく、自ら身を投げた。  その男が誰かはすぐわかる。リーバス言うところの「すべてを兼ね備えていた」刑事ジム・マーゴリスだ。彼は公園の崖から墜死した。動物園で動物を毒殺しようとしている犯人を張っていたリーバスは、小児性愛者ラフを見かけて注意を逸らしてしまう。ポカ続きを上司に見とがめられた彼は、恋人になるかもしれなかった女性ジャニスから、失踪した息子デイモンを探して欲しいと頼まれる。折しもアメリカで連続殺人を犯し、15年の刑期を終えた男オークスが故郷エジンバラに戻って来る。警察は厳戒態勢を敷くが、オークスはそれをあざ笑うかのごとく町を徘徊する。  作品のメインテーマは小児性愛犯罪である。カトリック教の総本山でも問題になったが、問題が問題だけに被害者が訴えづらく、かつ被害者が成長して加害者に転じる危険性も秘めている。スコットランドでも聖職者の名のもとに外見上は立派な大人が子供達に対しておぞましい行為を行い、それらが表ざたにされていないこと、そして犯罪者の再犯率が非常に高いことが本作を書いた動機らしい。  彼の記事を書いて儲けようとする記者を翻弄し、リーバスの知人達の周辺に登場しては彼を挑発する大胆不敵な悪役・オークス。本作一話限りの登場が惜しいくらい大きな存在感を放つ。  対するリーバスは、時系列的には『首吊りの庭』直後になる。相棒刑事モートンを亡くし、娘サミーは車椅子が手放せない身に。本作で頻繁に“亡霊”という言葉が登場するが、50を過ぎた彼に様々つきまとう過去の因縁も“亡霊”である。そのせいで、猪突猛進で前しか見ない彼にしては珍しい、こんなコメントも残している。     「自分が天職意識をまったく持てなくなったこと、警察という機能、というか警察の存在そのものすら肯定的に考えられなくなったことについて、そんな思いに怯えて不眠に苦しめられ、悪夢に取りつかれることについて。昼間ですら自分の周囲に亡霊が出没していることについて。そして今はもう警官であることがいやになっている自分について。」 一体どうしたリーバス。昇任まで断って生涯現場主義だったはずなのに。本編では行き過ぎたリーバスの行動が生む悲劇についても触れている。“一度罪を犯した者は一生犯罪者である”という信念のもと、執拗にラフを追い詰めるそのやり方に違和感を覚える読者もいたようだ。 ​『中古』死せる魂—リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)​​KSC​

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