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2021/02/13(土)00:00

フレンチ警部のプロトタイプ ウィリス警部が見せる プロフェッショナル仕事の流儀 ミステリ「製材所の秘密」

海外のミステリー&ファンタジー小説(729)

みなさん、こんばんは。小椋佳さんが今年で引退だそうです。 今日から3日間クロフツ作品を紹介します。 製材所の秘密 The Pit-Prop Syndicate F・W・クロフツ 創元推理文庫  シーモア・メリマンは商用の途次に立ち寄ったフランスの製材所でふと不審を覚え、帰国後クラブの喫煙室で披露に及んだ。聴き手の一人ヒラードが非常な興味を示し、密輸ではないか、調べようと提案、二人は休暇を利用して危険に満ちた探索に乗り出した。疑惑は深まるものの決定打を欠く膠着状況が意外な形で打ち破られるに至って、遂にメリマンは警視庁を訪れ経緯を明かすが…。  二部構成で第一部「アマチュア」はメリマンの強い個人的動機によって友人と共に行われる捜査、第二部「プロフェッショナル」は警察による捜査が行われる過程を描く。  個人的動機は極めてシンプルだ。メリマンは製材所の主任の娘マデリーンに一目ぼれしたのだ。理由はどうやら彼女が茶色づくめであったことらしい。頭にかぶった茶色い頭巾形の帽子、茶色の上着に茶色のスカート、茶色の靴下と小さい茶色の編上げ靴、加えて茶色の髪。  本当に不審を抱くきっかけは、この前にすれ違った車である。 「ほとんど無意識のうちに行われたこのなんでもない行為が、自分の人生そのものを一片させることになろうとは、そのときは知る由もなかった。一人彼の人生のみならず、そのときはまだこの世に存在することさえ知らなかったほかの大勢の人々の人生をも一変させ、幸福へと同様に不幸へも、法律擁護へと同様に法律違反へもいたらしめる結果になろうとは、さらにはまた…早い話が、より肝心なことを言えば、このときメリマンが振りかえらなかったなら、この物語は書かれずして終わったはずなのである。」 をを、壮大な前振りだ。しかし、本当の所、たとえ車に不審を抱いたとしても、マデリーンの茶色がなければここまでメリマンはまだ事件にもなっていない製材所に拘ることはなかっただろう。とんだ茶色フェチときたもんだ。  第二部「プロフェッショナル」篇でウィリス警部が事件に拘るのは、ずばり昇進目的だ。実にわかりやすい個人的動機である。そして実績を上げるためなら、まだ捜査令状も出してもらっていないのに、盗聴、侵入、ピッキングと何でもやる。犯人逮捕は出来ても検察が法廷を維持するのは難しいのではないかと現代感覚で考えてしまう。現代には通用しなさそうな仕事の流儀だ。  クロフツの第三作目で“すりかえ”“捜査担当者の交代”など『樽』との共通点が多い。 ​『中古』製材所の秘密 (創元推理文庫)​​KSC​

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