2021/04/28(水)00:00
池波氏の独特のリズムで語られる文章の魅力 時代小説「鬼平犯科帳〈6〉」
みなさん、こんばんは。国際水泳連盟がオリンピック最終予選3大会の中止決定しましたね。
オリンピック開けるの?
今日も池波正太郎作品を紹介します。
鬼平犯科帳〈6〉
池波正太郎
文春文庫
「つくづくとばかばかしく思うのだよ」なれど「このお役目が、おれの性にぴたりはまっている」のである。だから火盗改方の長官・長谷川平蔵は、疲れにもめげず今日もまた出動する。
文章を見ただけで、誰が書いたものかわかる場合が、たまにある。
池波氏は、数少ないその一人である。
「だが、おまさの胸さわぎは、しずまらない。
茶店のむすめと瓜二つとまではゆかぬにしても、そっくりな、別の女の
顔を、そこに見たからである。」
(「狐火」より)
この文章を、国語で習った通り、
句読点で区切り、『まる』で長く間を取って読むと、
割合規則的なリズムを感じ取ることができる。
しかし、オリジナルでは、こうなっている。
「だが……。
おまさの胸さわぎは、しずまらない。
茶店のむすめと瓜二つ、とまではゆかぬにしても、
(そっくりな……)
別の女の顔を、そこに見たからである。」
「……」の挿入と、改行によって、前に挙げた
文章にはない、ある『間』ができる。
とんとん、とんとんとん
の中に、
とんとん、とお……ん、とん。
というリズムが入り込み、文章に動きが生まれる。
また、台詞でも行動でも、みなまで言わない所があり、
その部分は読者側に放られる。
だから、読んでいる人は、書かれていない
部分を自分の想像で補いながら、この文章のテンポで、頭の中で
映像をまわしている。
多分、キャラクター設定は、時代小説がこれだけ登場すれば、似通った
ものが出てくる。親分肌のボス、おっちょこちょいの部下、
年輩の頼れる部下、まじめ一徹の部下、主人公に思いを寄せる
けなげな女性。でも、こんな個性的なリズムで動いている
キャラクターはどこにもいない。
「礼金二百両」「猫じゃらしの女」「剣客」「狐火」「大川の隠居」「盗賊人相書」
「のっそり医者」の七篇収録。
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