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2021/05/24(月)00:00

「僕は退職する大使のような気持がする 後任の大使に敬意を表しに出かけて行くような気持だよ」小説「大使たち〈下〉」

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みなさん、こんばんは。日韓外相会議が開かれたそうですが歩み寄りはなかったみたいですね。 今日もヘンリー・ジェイムズ作品を紹介します。 大使たち〈下〉 The Ambassadors ヘンリー・ジェイムズ 岩波文庫  庇護者ニューサム夫人からの強烈なプッシュにも関わらず、一人息子チャドを連れ戻す任務に失敗したばかりか、「あなたがそう言うなら帰ってもいい」という彼を押しとどめてしまったストレザーは、第二の使者としてやってきたチャドの姉セアラと夫とチャドの婚約者候補の女性を出迎える。大使としてお役御免を言い渡されるだけではなく、背後にニューサム夫人を感じるため、ストレザーは年下とはいえセアラに恐怖を抱いている。その恐怖心が高じて 「彼女に組敷かれて、折檻されて、恥ずかしさのあまりすでに顔を真っ赤にして、罪滅ぼしに即刻すべての没収に同意している自分の姿」 まで想像する始末だ。いささか想像力が逞しすぎるストレザーは、チャドが立派な人間になったのはひとえにヴィオネ伯爵夫人のおかげだと力説する。しかしその言葉は悉く鉄の意志を持ったセアラに跳ね返される。たとえばこんな風に。 セアラ 「その女のためなら母親でも姉妹でも兵器で犠牲にしても構わない。あなたのなさり方を思い知らせるために、しかも直截あなたが見せ付けてくださるように、大西洋を渡って来させても構わないと言われるのですか?」 ストレザー 「あなたは今の弟さんがお好きではないのですか。そして、彼が立派に成長したということが何を意味するのか、お母様にわかりやすく説明してさしあげなかったのですか?」 セアラ 「まさかあなたは、あのような女がれっきとした女性と較べものになる、などとお考えではないでしょうね?」 すっかり篭絡されてしまったストレザーの色呆けっぷりを滑稽に捉える事も出来るが、一方で歴史を持たない新大陸=アメリカの人間の方が、歴史と伝統の旧大陸=ヨーロッパの価値観を受け容れられない固定観念ガチガチのキャラクターとして描かれている皮肉に目を向けることも出来る。  とはいえ、本来の目的を果たせなかったストレザーには新大陸に居場所はない。そして彼以外の誰もが知っていた事を本人が知るクライマックスがやって来る。当事者たちそれぞれに何か厳しい事を言ってやろうと心では思っていても、伯爵夫人には強く出られず、チャドについても言葉だけの脅しに留まり、本人に精神的打撃を与えられない。  本編に登場するアメリカ人は 1.ヨーロッパに純粋に憧れるアメリカ人→ストレザー 2.ヨーロッパの知識と教養を吸収してやがてアメリカに戻るアメリカ人→チャド 3.ヨーロッパの魅力にあくまでも屈しないアメリカ人→セアラ の三種類である。人生の敗者が誰かは明らかだが、勝者たることが必ずしも良いとは著者は明示しない。敗者にも人生最後の舞台で再び青春を謳歌できた思い出を与えているからだ。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。 ​『中古』大使たち (下) (岩波文庫 赤)​​KSC​

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