映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。俳優の白洲迅とタレントの竹内渉が結婚しましたね。今日も山田風太郎作品を紹介します。

忍びの卍
山田風太郎
講談社

　徳川三代将軍家光の頃。
お京との婚儀を控えた椎ノ葉刀馬は、土井大炊頭から秘命を受けた。泰平の世に、多くの忍者は不要なり。甲賀、伊賀、根来の3忍者のいずれを残すか、査察せよ。
どの忍法を残すか決まるが、話はこれで終わりではなかった。

全身匂いをさせ、女人を悩ます忍法『白朽葉』。与えた女性の血潮を刀に浴びせ、刀をびゅうとふりかぶる。血を相手に投げつけると、まるで斬られたような痛みを覚え、息絶える。これが忍法『赤朽葉』。 ダブル忍法を操るは、甲賀の百々銭十郎。 栗本薫氏の美少年ものに出てきそうな、美と毒を合わせもった、佐々木小次郎タイプ。

交合により、その相手の女体に乗り移る忍法『任意車』。隴たけた女性から繰り出される宮本武蔵直伝の剣。操るは、伊賀組の筏織右衛門。 とことんストイックで、技のためなら女を乱暴することも何とも思わないが、ただ一つ、妻への愛は本物。

敵の殺気のあるところ必ずこれを避ける忍法『暗殺剣』と唾液を塗って女人の肌を、性器の感覚細胞そのものに変える忍法『ぬれ桜』。操るは、根来の虫籠右陣。 初対面では侮られ、嫌がられるが、「意外とこういうのが生き残りそう」と思わせる強かさと、しぶとさを併せ持った小回りの利くタイプ。大奥で『屋根裏の散歩者』（江戸川乱歩）をやらせてもらう、おいしい役どころ。山風のお気に入りか？

技も自身の生き方も個性的な彼らが、歴史のうたかたで、かつ斬り、かつ結びゆく。更にその上を、本当のキングマスターが蹂躙する。 宮本昌孝氏ならば、純のままに置かれていただろう主人公・刀馬やその許婚・お京でさえ、その刃から逃れられない。忍法帖シリーズの宿命で、純愛は悉く踏みにじられる。

この過酷な運命をせめても和らげるのは、お馴染みセックス絡みの忍法描写。どれもえらく時間がかかる。いくら泰平の世とはいえ、一つの技を決めるまでに、こんなに悠長でいいんだろうか。更に後半になると、織右衛門＆右陣の二人の忍法を掛け合わせた 『ぬれ車』なんてのも出てくる。技で倒した数-How Manyを競うより、どのように技を決めるか-Howが、重要なポイントとなっているのは明らか。果たしてこれらを目の前で見せられ、優れているものを選べと言われても、どうだろう。刀馬同様、うんうん首をひねるだけかも。奇っ怪な技の数々に、我を忘れて読み耽れば、やがて、実際に起こったあの出来事に辿り付く。

「池宮彰一郎氏の『天下騒乱　鍵屋の辻』で、あれだけ幕閣を守ろうとした彼ならば、やりかねん。 いや、存外こちらの方が真実かもしれぬ。」 史実を百も承知でも、意識はやはり、山風の描く歴史の裏側へ引き込まれる。気づいた時には、もう遅い。 妖かしと現世(うつしよ)、虚と実が、ぴたりとはまり、揺るがない、山風ワールドの罠に、がっちりと捕らえられている。だがしかし、その罠は、何と甘美なのだろうか。

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