2023/03/10(金)00:00
むむむ!悪霊らしきものが出てこないぞ! 小説「悪霊〈1〉」
みなさんこんばんは。新型コロナウイルス対策としての学校でのマスクを巡り、政府が今春の小中高校などの卒業式や入学式はマスクなしで参加できるように調整していることが関係者への取材で分かりました。今日もドストエフスキー作品を紹介します。
悪霊 1
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
亀山 郁夫訳
光文社古典新訳文庫
他レビュアーも書いている通り実際に起きた事件が元になっているということなので、てっきり
「君たち!ロシアはこのままでいいと思っているのか!」
「をー!!」
みたいなシュプレヒコールを期待していたが、第1巻では、らしき事件は起こっていない。
元大学教授のステパン・トロフィーモヴィチ・ヴェルホヴェンスキーと裕福な未亡人ワルワーラ夫人という、くっつきそうなのにくっつかなかった二人のこじらせ恋愛が、次世代に影響する件が描かれる。ワルワーラ夫人には息子ニコライがいて、養女として引き取ったシャートフの妹ダーリヤ・パヴロヴナ・シャートワ(愛称ダーシャ)とお似合いだ。だが、夫人はなぜかダーリヤに自分を熱愛して止まない(が勇気がない)ヴェルホヴェンスキーとの結婚を持ち掛ける。その持ち掛け方がえげつない。
「あの人は、浅はかで、腰抜けで、残酷で、エゴイストで、それに下品な習慣まで身につけてしまっているけど、おまえがあの人を大事にしてあげるの。第一、あの人よりもっとひどい人はたくさんいるんですから。なにも厄介払いするために、どこぞのやくざ者を押しつけようっていうんじゃありません。おまえだって、まさかそんなふうには考えてもいないだろう?」
「あの人は、まあ、女々しい男だけど、でも、おまえには、そのほうがいいの。みじめったらしい、女の腐ったような男で、女からしたら愛する値打ちなんてまるきりない男ですよ。でもね、まるで頼りないところがあるからこそ、愛する値打ちがあるんだし、だからおまえも、その頼りないところを愛してやるんだね。おまえ、わたしが何を言ってるかわかってるだろう?わかってるね?」
「おまえの言いなりにさせるの。それができないなら、おまえはほんとうのばかです。首を吊って死ぬとか脅しにかかるかもしれないけど、信じたりしちゃだめ。そんなのはみんなでたらめなんだから!信じたりしちゃだめだけど、でも用心はしなきゃね。」
本気でヴェルホヴェンスキー勧める気ある?と言いたくなるほどのマシンガントークでダーリヤに迫る夫人。一方でヴェルホヴェンスキーには
「あの子ならあなたのすばらしい乳母になってくれますよ。ほんとうにつつましくて、しっかりもので、分別ってものをわきまえてますからね。」
「あなたはあの子を救うことになるかもしれないんですよ、ほんとうに!」
結婚経験済みの男が今更乳母なんか欲しいもんか。だいいち、慈善を施してやれ、みたいな言い方もイヤだ。ヴェルホヴェンスキーが納得するはずもなく、蟠りは第1巻のフィナーレへと続く。
夫人が愛してやまない息子ニコライ・スタヴローギンは後半に登場。伝聞という形で奇行が伝えられるのみだったが、母親や友人の前で語る彼はどこまでもマトモだ。ネコ被ってるということなら大した役者だが、彼こそが悪霊なのか。
物語には語り手がおりGと呼ばれる。ヴェルホヴェンスキーら主要人物と親しい設定なので、彼等の中で起こる事件について書くことができるが、その代わり没個性を強いられる。
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