2023/03/11(土)00:00
やっと悪霊が登場! 自分に酔うスタヴローギンにチーホン神父から厳しいお言葉が! 小説「悪霊2」
みなさんこんばんは。WBC日本の活躍見てますか?今日もドストエフスキー作品を紹介します。
悪霊2
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
亀山 郁夫訳
光文社古典新訳文庫
シャートフがスタヴローギンを殴り、かつてスタヴローギンと恋仲だったリザヴェータがその現場を見て悲鳴を上げて気を失い倒れるという衝撃的な幕切れだった第1巻の続きから始まる。「なんか色恋沙汰ばっかりで悪霊どこ?」と言いたくなりそうな長さだが、やっと本巻で、ある人物の台詞として登場。
そもそも本作第1章は
「序に代えて われらが敬愛するステパン・トロフィーモヴィチ・ヴェルホヴェンスキーの伝記より抜粋」
というタイトルだったが、本巻の主役は殴られたスタヴローギンをはじめとする若者達である。ヴェルホヴェンスキーが金銭的に頼っていた市長は交代し、新市長の妻ユーリア夫人は饒舌なその息子ピョートルに乗せられ、作家カルマジーノワも彼を自宅に招く。おまけにヴェルホヴェンスキーは疑似コレラにかかり、弱り目に祟り目。
妹マリヤにDVしまくっているレビャートキンとの間に何かありそうだったスタロヴーギンの過去が一挙に明らかに。別巻にもなっている「スタヴローギンの告白」である。ここでマリヤとの関係、その経緯が明かされる。
さすがチーホン神父、告解&告白を聞くプロである。スタヴローギンの告白に胡散臭いものを感じる。
「あなたはもう今から、ここに書いてあるものを読む人々をことごとく憎んで、戦いを挑む気でおられるようだ。罪を告白することを恥じないあなたが、どうして懺悔を恥じることがあります?勝手にじろじろ見るがいい、とあなたはおっしゃっている。それじゃ、あなた自身は、どうその人たちをごらんになるのです?あなたの叙述のなかには、ところどころ強い文章が見られます。あなたはまるで、ご自分の心理にほれぼれなさって、どんなこまかな点もおろそかにしようとはなさらない、それもひたすら、あなたには本来ない冷徹さでもって、読む人を驚かしてやりたいからです。いったいこれが、裁き手など屁とも思わぬ罪人の挑戦でなくしてなんです?」
「あなたは、受難と自己犠牲という願望に取りつかれていらっしゃる。そんな願望など打ち負かし、そこにある文書と、ご自分の文書を脇にのけておしまいなさい-そのときにこそ、すべてに打ちかつことになるんですから。御自分の誇りや、あなたにとりついた悪霊に恥をかかせてやりなさい!」
『罪と罰』で殺人に対して自覚的であったラスコーリニコフと同じ匂いがする。チーホンは本作の中で、唯一スタヴローギンの芯を捉えていた人物だ。ともすれば自身をヒーロー視したがるスタヴローギンに「ったく、いい気になりなさんなよ。何をどう言おうがあんたのやってることはワルだろーが(チーホン神父礼儀正しいのでこんな言い方はしない)」と切り捨て、目を覚まさせられるのは彼しかいない。
対極にいるのがヴェルホヴェンスキーの息子ピョートルで
当のスタヴローギンは
「どうしてそう、寄ってたかって、その旗とやらをこのぼくに押しつけるのか?」
「どうしてみんなぼくに期待するんですかね、ほかの連中には期待できそうにないことを?どうしてぼくは耐えなきゃいけないんですか、だれもがまんできないことを?だれにも背負いきれない重荷を、どうして、ぼくが?」
と引き気味なのに
「あなたはトップで、あなたこそ力なんです。ぼくなんかは、あなたの横にくっついている秘書にすぎない。いいですか、ぼくたちは、おなじ一つの小舟に乗るんです。」
「放しませんからね!」と心酔モード。
この姿は、かつて心酔し愛していたヴェルホヴェンスキーに、スタヴローギンの母ワルワーラ夫人が三行半を突きつける姿と対比的に描かれる。
見るからに怪しそうな男フェージカに意味深な言葉を遺していたスタヴローギン、遂に最終巻でその報いを受けるのか?
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