2023/03/30(木)00:00
「65歳にして、殺す」と 孔子は 言わなかった 小説「破果」
みなさんこんばんは。生粋のスポーツカー好き・トヨタ豊田章男社長が今年3月いっぱいでの社長退任を発表しました。今日も韓国小説を紹介します。
破果
Bruised Fruit
ク・ビョンモ
岩波書店
まずこの表紙絵のインパクトである。毒々しいまでの赤。赤く塗られた爪。そして浮き出る静脈から顔を出さずとも年齢が察せられる。手に始まり、手に終わる物語のヒロインの名は爪角、当年とって65歳である。
稼業ひとすじ45年といえば表彰ものだ。一体何の仕事を?彼女のような職業は、いわゆる防疫と言われる。疫を防ぐ―誰かにとっての駆除すべき害虫、退治すべきネズミを請け負って殺すのだ。しかし65歳といえば老眼が進んでいる。いくら名うてのスナイパーでも照準が合うのか。遠くが見えるようになったといっても、近くに何者からか狙われていてもわからんぞ。そしてスナイパーが逃げ足が遅くては話にならない。そして物忘れもだ。「あれ今ここはどこ私は誰」とかやってた日にゃ、命がいくらあっても足りないぜ。どうする殺し屋。
かつて名を馳せた腕利きの女殺し屋・爪角もやはり老いからは逃れられず、致命的なミスをして契約している医院に駆け込む。ところが偶々いつもいる医師ではなく、薬を取りにきていた別の医師と出会う。守るべきものは作らず執着もしない。ザ・ハードボイルドを生きてきた爪角に、ふと心の隙間が生じた時、最後の闘いが始まる!
なんなんだこの展開。誰だ年齢がもう少し若かったらとか言ってる人。韓国では60代でも足腰鍛えないとソウルの街を歩けないのだ。ソウルでも未だ地下鉄では階段が多い。タフでないと高齢者は生きられないのだ。
クライマックスは今ドキの若者が「ばーさん、引っ込んでな」という軽い動機で仕掛けたのかと思いきや、作者、韓国人が因縁好きであることをよくわかっている。そしてどちらも容赦をしない中繰り広げられる、息もつかせぬ最後の闘い。
本作は2013年に出版された際にはさほど評判にならなかったが、折からの#MeToo運動の盛り上がりにより、2018年に改訂版が出版された。
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