2023/05/30(火)00:00
"機関銃要塞"の少年たちのチャス・マッギルが帰って来た! 小説「水深五尋」
みなさんこんばんは。TVドラマ「名探偵モンク」が復活することになりました。エイドリアン・モンク役のトニー・シャルーブをはじめとしたオリジナルキャストにオリジナルの製作陣も集結し、米NBCユニバーサルのストリーミングサービスPeacockの下、『ミスター・モンクズ・ラスト・ケース:ア・モンク・ムービー(原題) / Mr. Monk’s Last Case: A Monk Movie』というタイトルで映画化されます。今日から3日間ロバート・ウェストール作品を紹介します。
水深五尋
FATHOM FIVE
ロバート・ウェストール
岩波書店
イギリス東部港町ガーマス。両親と暮らすチャス(チャシー)・マッギルは、墓場が住処のセムとつるんでいる。男勝りだったオードリーは新聞記者になり、付き合う人達が違うため会うことが減ったが、呼べば助けてくれる友達付き合いはしている。そんな時治安判事の娘シーラと出会い、チャスは夢中になる。貨物船がUボートに撃沈されるのを見たチャスは、翌朝、砂浜で発信器らしきものを発見する。友人たちと興味半分で始めたスパイさがしは、しだいに深刻な事態に。
機関銃要塞の少年たち続編。チャスは16歳になったが、相変わらずイギリスは戦争中。終戦後も配給生活が長く続いたが、戦中となれば更に物資が不足している。フツーの女の子枠に収まりきらなかったオードリーは、学校に通うチャスより一足先にオトナの世界の仲間入り。「酒を飲んだりするんじゃないか」「チャスとどうにかなっちゃうのでは?」と特に母親が心配しているが、チャスのお相手はクラスメートのお嬢様、シーラだ。身分違いの恋というやつだが、シーラは何かと積極的で、お化粧してとんでもない場所に潜入捜査までする。世間知らずのお嬢様だけが持っている大胆さ故の行動だが結果は親を怒らせることに。続編はないので二人の仲はオープンエンド。
チャスたちが家を抜け出して貧民たちが住むマルタ街に出ていっても大騒ぎにならないのは、或る意味非常事態=戦時中だからだ。大人達も忙しくて子供達を見ていられない。それに実地でしか学べない事もある。スパイという外見を装う者を探す過程で今回チャスが悟ったのは「見た目と中身は別」という点だ。子供達は学校で「法の下の平等」を教えられても、一歩外に出れば階級や民族による差別意識が顕在化し、身近な大人達の意識に引きずられざるを得ない。偽善と欺瞞がきっちりある世界を描きながらも、主人公の精神的支柱が父親なのはウェストール作品の定番で安定感がある。
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