2023/06/25(日)00:00
ウクライナ侵攻は 予見されていた 小説「クレムリンの魔術師」
みなさんこんばんは。ロシアの治安当局は、民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が反乱を呼びかけた疑いがあるとして、捜査に着手しました。これについてロシアのプーチン大統領は24日、緊急にテレビ演説を行い「われわれが直面しているのは裏切りだ」と述べ、ロシア軍に断固たる措置をとるよう指示したことを明らかにしました。いやあ、緊迫していますねロシア。今日はフィクションという形でしか発表できないロシアの実態を描いた小説を紹介します。
クレムリンの魔術師
Le Mage Du Kremlin
ジュリアーノ・ダ・エンポリ
白水社
「クレムリンの魔術師」として知られたヴァディム・バラノフは、ロシアの皇帝の黒幕になる前はTVのリアリティ番組のプロデューサーだった。
〈私〉はある夜、SNSで知り合った人物からモスクワ郊外の邸宅に招かれ、その祖父の代からの「ロシアの権力の歴史」を知る。ヴァディム・バラノフには舞台芸術アカデミーで演劇を学んだ青春時代、ヒッピーの両親をもつクセニアという名の美しい恋人がいた。ロシアのプロパガンダ戦略やウクライナとの戦争において、彼はどんな役割を担ってきたのか?「プーチンの演出家」の告白を元に伏魔殿クレムリンの舞台裏が明かされてゆく。
中国にも富豪がいるように、共産主義国家(今でもそうなのだろうか)ロシアにも財閥がいる。最近ドキュメンタリーでもよく聞くようになったオリガルヒだ。彼等が台頭したのはエリツィン大統領時代であり、国有企業を安価に入手することによってのし上がってきた。勿論見返りは権力者の支持基盤となることだ。しかしオリガルヒが納税回避したことでロシアは深刻なインフレに陥った。
若きKGB職員だったプーチンが大統領職に躍り出た時には、腐敗勢力と闘う正義の味方というイメージが植え付けられた。振付を担当したのがバラノフだ。しかしミイラ取りがミイラになる如く、振付師は次第にプーチンをおさえられなくなっていく。というよりも、用心深いプーチンが本性を隠していたことがよくわかる。現在のウクライナ侵攻の萌芽となる考え方もプーチン自身の口から出ており、時期をみて実行に移したということだ。日本から見るとロシアもヨーロッパも外国であり、人種の違いと言われてもよくわからない。大陸が陸続きで人の往来もあり、摩擦はありつつもうまくやっているものだと思っていたが、そういえばロシアでは昔からヨーロッパコンプレックスなるものがあった。その続きでプーチンがヨーロッパやアメリカにあのような感情を抱くに至ったのだろうか。
主人公バラノフのモデルは、ロシア副首相、大統領府副長官、補佐官を歴任した、ウラジスラフ・スルコフ。エリツィン、クリントン、メルケルら実在の政治家たちも実名で登場。
アカデミー・フランセーズ賞受賞作品。
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