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2023/10/21(土)00:00

自身を裏切者=Judasと言いながら なおも兄への愛を表明する妹 ノンフィクション「裏切り者」

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みなさんこんばんは。ジャニー喜多川氏の性加害の問題で、ジャニーズ事務所は社名を「SMILE-UP.」に変更します。被害者への補償は来月からこの会社が行うとしていて、補償の範囲や、被害の認定がどのように行われるのかなどが注目されます。今日もノンフィクション作品を紹介します。 裏切り者​ Judas How a Sister’s Testimony Brought Down a Criminal Mastermind アストリッド・ホーレーダー 早川書房  1983年、オランダ・アムステルダムで、世界的ビール会社ハイネケンのCEOフレディ・ハイネケン氏とその運転手が5人の若者に誘拐された。犯人グループは、個人の誘拐としては当時の史上最高額となる3500万グルデン(約23億円)の身代金を要求。エミー賞受賞ジャーナリスト、ピーター・R・デ・ブリーズのベストセラーをもとに、誘拐犯と被害者双方の視点から謎多き事件の真相に迫った映画『ハイネケン誘拐の代償』がある。怪優アンソニー・ホプキンスが会長を演じていたため、犯人がともすると翻弄されていた。サム・ワーシントンが演じていたのが著者の兄ウィレム・ホーレーダーだ。誘拐犯は一人残らず逮捕された。映画の通り、その後誘拐をネタに警備会社を設立したハイネケン氏の方が一枚上手だったわけだ。一度狙われたのだから、二度は狙われない。  表紙写真は、ちょうど目が隠れている。しかし頁を開くと、目の部分だけが写されている。両方見れば、ウィレム・ホーレーダーの顔になる。写真の元になったのは、自身の裁判の時のものだ。この時の顔は、生意気な若造だが、今はどんな顔になっているか。本書は、必要以上に今の写真を掲載しない。理由は後述する。  ハイネケンCEO誘拐事件の実行犯の一人で、オランダ史上最悪の犯罪者と呼ばれたウィレム・ホーレーダーの実妹は弁護士だった。といえば映画『ゴッドファーザー』でドン・コルレオーネ(ヴィトー)と組織の弁護士かつ顧問(コンシリエーレ)トム・ヘイゲンの関係を想起する。ましてや家族なのだから、容易く協力するだろうと。しかし、妹は徹底的に兄を嫌っていた。DVで母を苦しめる父の代わりに居座ったかのような長兄にずっと支配された思春期は、彼女の人生を壊した。そしてあの誘拐事件だ。著者が身代金の一部を手渡される場面もある。知らぬうちに共犯者にされかねない。嫌悪感は、姉の夫でウィレムの友人でもあったコルの暗殺に、ウィレムが関わっていると確信して一層強ます。遂に兄を告発するために動き出す。  兄が塀の中にいるからこの本を書けたのかと思いきや、そこまで楽観視はしていないようだ。娘への遺書のつもりで書いたそうだ。塀の中からでも兄が第三者に手を下すのを何度も見てきたし、コル暗殺も何度も未遂に終わっていた。家族だろうと容赦しないことは、著者自身が良く分かっていた。最後は著者から兄への手紙が掲載されている。兄への恨みつらみが書かれているが、それでも兄を愛していると書かずにはいられない著者の苦悩が推し量れて痛ましい。 裏切り者 [ アストリッド・ホーレーダー ]​​楽天ブックス​

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