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2024/06/03(月)00:00

共に学びし友なれど 離れゆく道 小説「睡蓮の教室」

その他のジャンルの海外小説(380)

みなさんこんばんは。米電気自動車(EV)大手テスラが全世界で10%超の人員削減を検討していることがわかりました。少女時代からの交流が変わってゆく様を描いた作品を紹介します。 睡蓮の教室 The Lily Theater ルル・ワン 新潮社クレストブックス 文革後期の中国。医師の父と大学教授の母との間に生まれた水蓮は、病気を理由に母のいる収容所で、共に暮らす事を認められる。物資に乏しい生活の中で、水蓮は収容されていた大人達から、本当の学問を与えられる。やがて収容所を出た水蓮は、極貧の親友・金を、最模範生の座に押し上げるべく奮闘するが。 前半印象に残ったのは、収容所に暮らす個性的な大人達である。現実の歴史を教える事が、果たして水蓮のためになるのかと悩みながらも、真実の学問を教える事に力を尽くす秦先生。「“人に教えられてきたこと”と、“自分が知っていること”には、たいへんな違いがあるのだ。(中略)あるできごとの情報を自分であちこちから集め、自分なりの結論を出すことはできる。そこまでしてようやく、“その歴史についてわたしが知っているのは、これだけです”と言えるのだ。(p73)」毛沢東に激怒する水蓮に、こう告げる人食いさん「この世には 聖人君子なんていないのだよ。(中略)大切なのはおのれの不幸をだれかさんのせいにするのは、いずれやめるべきだ、ということ。(中略)責任をもって自分で自分を幸せにすることだ。そうなれば、もう国の指導者を神のようにあがめたり、みずからの運命をその手にゆだねたりしなくてすむ。そうなれば、うまく行かなくなっても自分を責めればいいだけだ。自分たちの創った神のせいにせず。(p216)」 文革の時代を生きる知識人達の言葉は、見えざる「言論の圧力」の存在を感じ取る現代の我々の心をも響かせる。 後半は、学校に戻った水蓮と金の友情崩壊までが描かれる。決して物資に富んだ生活をしているわけではないのに、大切な鶏を犠牲にしてくれた友人・金。水蓮と金、二人の少女の友情を、金のような階級をはけ口として求めずにはいられない階層社会が踏みにじってゆく。解説にもあるような、ゴールディングの『蠅の王』を思わせるような展開では、閉鎖的状況におかれた人間の、極限状態の狂気が最も悲惨な形で現れる。後にかすかな苦みと共にかつての友人を思い出す主人公の姿は、文革の歪みが生んだ負債を背負って生きる、中国人の投影でもあるのだろう。 中国出身のルル・ワンが、現在の居住国の言語(オランダ語)で書いた小説。 ​【中古】睡蓮の教室 / ルル・ワン​​ネットオフ楽天市場支店​

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