2024/08/27(火)22:25
ルーゴン・マッカール叢書第15巻 現代版リア王にはコーデリアはいない 小説『大地』
みなさんこんばんは。オリンピックは柔道男子66キロ級の阿部一二三が2大会連続の金メダルを獲して、スケートボードの女子ストリート決勝では初出場の14歳、吉沢恋が金メダル、15歳の赤間凜音が銀メダルを獲得しました。若手すごいですね。今日もゾラ作品を紹介します。
大地
La Terre
エミール・ゾラ
論創社
物語の舞台は、フランスの穀倉ボース。『居酒屋』のジェルヴェーズの弟ジャン・マッカールが登場。彼は軍隊を退役したが、昔の家業に戻る気にならず、ウールドカンのもとで作男をしている。本作は、彼が、種付けの牡牛を引きずっているフランソワーズと出会う場面から始まる。二人は後に結婚するのだが、ボーイミーツガールには程遠い。何しろ15歳という年齢差がもあるのだ。ジャンは街の人から“指物師の伍長さん”と呼ばれている。フランソワーズの姉リーズは、フーアン爺さんの次男ビュトーといい仲で、妊娠していたが、ビュトーはふらふらしていて実家によりつかず、他所の農場で働いており、リーズに結婚を申し込まない。
フーアン爺さんには、40歳の長男イヤサント、通称イエス・キリストと、27歳の次男ビュトー(尻曲がり)、34歳の長女ファンニーがいる。キリストという綽名だからといって、良い意味ではない。イヤサントは、すさみきったキリストと呼ばれている。ファンニーは村の顔役に選ばれるようなしっかりした男性デロンムと結婚していた。まともなのは長女くらいだ。寄る年波に勝てなくなったと感じたフーアン爺さんは、財産を三人の子供に均等に分けようとする。公証人は、こんなに早く財産を分けてしまうことに危惧を抱いたものの、結局は
「あんた方は善良な子供さんたちです。正直な働き者です。あんた方の場合には、後になって両親が悔むような心配は決してありません」
と家族の情を信じる発言をする。が、もちろんこれがすんなりと治まるはずもない。フーアン爺さんの妻ローズは、家を飛び出した次男や男まさりな長女を嫌い、稼ぎのなさそうな長男を溺愛していた。近所のグランド婆さんも
「お前が何もなくなって、みんな彼奴等のものになったら、餓鬼共はきっとお前を川に突きおとすよ。乞食みたいに袋をしょってくたばるのが落ちさ」
と容赦ない。
そもそも第二世代の息子たちと、フーアン爺さんとは、土地に対する考え方が全く異なる。
フーアン爺さんの土地に対する愛情は、まるで女性に対するそれのようだ。
「この財産は父の生前から彼の欲しくて堪らなかったものであり、その後ようやく手に入れると、発情期のような烈しさで耕作し、また一文だって出し惜しむけちな心をさえ犠牲にして少しずつ買い増やして作ったものだからだ。(中略)彼は情婦のためなら、死にもすれば殺しもする男のように、土地を愛した。妻も、子も、誰も、人間的な何もいらない、ただ偏えに土地が欲しかった。しかも、いまや彼も老衰して、かつて父親が自分の無力を憤りつつも、彼その人に土地をゆずらねばならなかったように、彼もこの情婦を息子たちにゆずらねばならなくなったのだ。」
その思いを共有できるのは、フーアン爺さんの義兄弟でジャンの雇い主であるウールドカンくらいだ。彼もまた、土地を女性とみている。
「親父の後を継いだ時には恋人のように大地を愛した。爾来、この大地を多産にしようと、まるで正常な婚姻をでもむすんだかのように、この愛情は成熟した。そして気まぐれどころか裏切りをさえ大目にみてやる、豊饒な好ましい女に入れあげるように、時間も金も全生命も大地に打ち込むにしたがって、この愛情は増大するばかりであった。」
しかし次世代は、土地を純粋に財産とみなしており、金になると知れば売り払うことに躊躇ない。ジャンをはじめ、本作での数少ない善人は、例外なく金に狂った悪人たちによって駆逐される。家族を渡り歩くフーアン爺さんは、まるでリア王のようだ。ただ、リア王と異なり、フーアン爺さんには心優しきコーデリアはいなかった。
大地/エミール・ゾラ/小田光雄【3000円以上送料無料】bookfan 1号店 楽天市場店