痛みを知らぬ異才の人となるか 痛みを知る普通の人になるか 小説「器用な痛み」
みなさんこんばんは。鹿児島県薩摩地方に線状降水帯ができているようです。台風10号の影響らしいです。のろのろ台風ですね。今日は特徴を持つ男性を主人公にした小説を紹介します。器用な痛みIngenious Painアンドリュー・ミラー白水社パトリック・ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』は、自分には全く匂いがないが、あらゆる匂いを感知できる能力を持った男性の物語だ。一度嗅いだ匂いを完全に憶えているだけでなく、それらの匂いを組み合わせて想像の中で様々な匂いを作り出し楽しむことができた。また。それを嗅いだものの心を意のままにするような香水を密かに作り出すこともできた。調香師として天性の才能を持っていたわけだが、その才能は、決して彼を幸せにはしなかった。本編の主人公ジェイムズ・ダイアには、彼と同様の匂いを感じる。 冒頭場面、亡くなった彼の解剖に二人の医師と牧師、メアリという女性が立ち会う。稀代の名医と言われた人にしては、寂しい解剖である。ましてや彼は、痛覚を20歳半ばになるまで全く感じなかったという身体の持ち主であり、遠くロシアに赴き女帝とも会っている。そんな有名人物の死には、もっと関心が集まってよいはずだ。にもかかわらず、彼の野辺の送りは、はっきり言って侘しい。しかし彼の最後の表情は、手に医学書ではなく『ガリヴァー旅行記』を持ち、穏やかだ。この落差は何なのか。 物語は過去に遡り、両親を天然痘で亡くしたジェイムズが、自身の特異な才能を、幼い頃は利用され、成人してからは自らのために活用する様が描かれる。痛みを感じない息子ジェイムズを見て、母親は驚愕し恐れる。しかし一方で他者の痛みを想像できないからこそ、大胆な外科手術が行える。彼が感じ得ない痛みこそが、邦題である。原題もそのままIngenious Painであり、Ingeniousには「器用な」「生まれながらの才能を有する」という意味がある。器用といえば聞こえは良いが、言葉通りに受け取れないしこりが残る。 痛みを感じればこそ、人は他者の痛みにも敏感になり、思いやることができる。また、痛みに怯むことによって自らの弱さを知り、他者に寛大になれる。しかし、痛みを知らない者は、そのいずれをも持たない。それらは人間における欠けである。特出する何かを持っていても、結局別の部分で欠けがある者を、果たして天才と呼び、崇める事ができるのか。未だ魔女が信じられる中世から、科学が脚光を浴びる近世への架け橋の時代‐18世紀英国の物語。鴻巣 友季子さんの訳も読みやすい。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 器用な痛み / アンドリュー ミラー, Andrew Miller, 鴻巣 友季子 / 白水社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店