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NEW桃太郎 第三話

ももたろう
第三話 キジ村キジ次登場の巻



 あるところに儒学という学問を教えている塾の教師の夫婦がおりました。

 二人にはまだ子供はおりませんでしたが、夫婦仲は大変むつまじく、おしどり若夫婦と世間様からは言われておりました。

 ところがある日、夫が傷ついたキジの子を拾ってきました。

「おい、おまえ、見ろよ、こいつ」

「あら、キジじゃないどうしたの?」

 妻は、夫が大事そうに抱えてきたものをのぞきこんでそう言いました。

「こいつ、怪我してるんだけど、大きく育てて鍋にして食べようと思って拾ってきたんだよ」

 確かにそのキジは怪我を負っているようでした。

「あらら・・・ほんとね・・・」

 妻はキジの怪我の様子を見ながら少し考えた。

 もし、夫の愛情が私以外のものにそそがれたらどうしましょう。妻はそんな考えのもとに、今まではペットを飼うことを避けてきた。もちろんキジだって例外ではないはずだった。しかし、夫は確かに食べる。と、言った。

 たべる?

 ペットを食べるだろうか?いや、この場合、食べるためのものをペットというだろうか?あれ、わたし、変なこと言ってる。食べるものをペットと一緒にするなんて、食材は食材よ、ペットとは違うわ。

「・・・おい、どうした?傷につけるもの、何か持ってきてくれよ」

「はっ、はい、今すぐ・・・」

 こうして、若夫婦は傷ついたキジの子を飼う、いや、食べるために育てることとなりました。

 若夫婦の看病のおかげでキジの傷はみるみる回復していきました。

 キジの名はキジ次に決まりました。しかも、名字があったほうがいいということで、キジ村キジ次という立派なものになりました。名付け親は夫のほうでした。夫は妻の心配とは裏腹にだんだんキジばっかりをかまうようになっていました。

 そうして、キジの傷がもうすっかり治ったころ、キジは夫とともに、塾へも行くようになっていました。

 その頃からでした。妻がキジに対する不満を行動にあらわし始めたのは・・・

 夫がキジの異変に気づくのはそれからさらに二ヶ月がたった頃のことでした。

「・・・なんかおまえ最近生傷がたえないな・・・どこで遊んでくるんだい?」

「・・・」

 夫の問いかけにキジは口をつぐんだままでした。今までにこんなことはありませんでした。夫の知る限り、キジは素直でものわかりのいいこでした。だからこそ、塾に連れていって儒学がどんなものか、その教えはどういうものか、孔子とはどんな人物だったかなど、さまざまなことを教えたのです。しかも、キジは教わったことは次から次へと身に付けていくので、夫は四書、五経だけでなく、儒学にはまったく関係ない、名前が似ているというだけの、孫子の兵法までも教えているくらいでした。

 明らかにどこかおかしいと異変を感じた夫は、それ以来、キジの様子に特に気を配るようになりました。

 そして、数日後、夫はついに見たのです。妻がキジに暴力を振るっているところを・・・さらに驚いたことに、どうやらそれはしょっちゅう行われている様子でした。

 夫は我慢できず飛び出すと、妻の手からキジを奪い、妻のほほを殴りました。

 パン!乾いた音とともに妻が崩れ落ちるようにうずくまりました。

「・・・あなたは私よりキジのほうが大事なのね・・・」

 妻の言葉に、夫はなんにも言えませんでした、正直言って、幻滅したのです。

 自分の妻が、こんなにも幼かったということに。

 以来、夫婦の仲はどこかぎこちなくなりました。

 その事をいちばん心配していたのは、ほかならぬキジ次でした。

「キジ次、キジ次・・・キジ次はどこだ?」

 その日は朝から夫の叫び声が家中にとどろいていました。

「あなた・・・」

 見かねた妻が、夫に声をかけた。

「おまえのせいでキジ次がいなくなってしまった。どうしてくれる」

「申しわけありません・・・キジ次は・・・キジ次は・・・私たちのために・・・昨晩出ていきました」

「なんと・・・おまえ・・・知っていたのか?」

「はい、昨晩キジ次から私に話があるということで・・・」

 キジ次はお世話になった若夫婦が自分のために仲を悪くするのを見ていられなかった。それならば、自分がいなくなればもとの仲のよい夫婦に戻るのではないかと考え、出ていくことに決めたのだという。

「そうか・・・私たちはあいつに心配をかけていたのか・・・で、キジ次は何か言っていたか?」

「ええ、おなかの子を大切にと・・・」

 そう言うと妻は言葉を失った。

「なんと、おまえ、子供が・・・」

「そうです。私たちがあのままでは、おなかの子に悪いと思ったのでしょう・・・私は、そんなキジ次に・・・何ということをしてしまったのでしょう・・・」

「もう、言うな、私たちにはおなかの中の子がいるじゃないか。そうだ、その子にはキジ次と名づければいい」

「あなた、それだけはやめてね」

 こうして、若夫婦の幸せな日々は戻ってきたのでした。



つづく



次回、第四話 羽柴サル吉場の巻。そろそろ桃太郎も出てくるぞ!乞うご期待!


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