泣いた赤鬼
あるところにヤンキーのコンビがいました。 金髪リーゼントの赤羽、黒髪リーゼントの青木、ケンカ上等の二人は尾仁高の赤鬼青鬼と呼ばれ、近隣の高校に通う生徒からは恐れられていました。 今日も彼らはケンカに明け暮れます。だけど、滅法強い彼らにかなう相手などいません。 「おいおい、俺たちを忘れるなよ」っと、現れたのは、北高の黒岩と、白石の岩石コンビです。彼らは毎度、赤鬼青鬼にケンカを挑んでは返り討ちにあってきました。 「今回は、そうは行かないぜ、ほらみろよ、今日はおあつらえ向きに、赤羽のやつ、一人だ。さすがに二対一じゃ負けるはずがないだろ」 岩石コンビの得意技はは卑怯と不意打ちです。 「よけーな事、言ってんじゃねーよ、ナレーション。行くぞ、白石」 「おう!」 そう言うと岩石コンビは、一人で学校からの帰り道を歩いていた赤羽の前に立ちはだかりました。 「おうおう、赤羽ちゃんよ、今日は相棒はどうしたんだい?」「あん?またおめーらかよ。青木のことか?そんなの知らねーよ。それより、またやられに来たのか?」「カカカ、俺たち相手に、二対一で勝てるわきゃねーだろ!行くぞ、オラッ!」 岩石コンビは二人同時に赤羽に飛び掛かりました。 これにはさすがの赤羽も分が悪い。白石の蹴りをよけたところに、黒岩のストレートをアゴにまともに食らい、足元をふらつかせたその時です。 「おいおい、俺も仲間に入れろよ」 青木です。青木はいきなり白石にとび蹴りを浴びせ、一気に形勢は逆転しました。 こうして、今日も赤鬼青鬼は岩石コンビを撃退したのです。 「あー、イテテ。ケンカは痛てーなー」 黒岩のストレートを食らった赤羽はアゴをさすりながら言いました。 「わりーな、ちょっと野暮用でよ」「ヤボヨウ?なんだよ?」「実は最近、青春ってのはやっぱ、ケンカより女なんじゃないかと思い始めてさ」 なんだ?青木、好きな女でもできたのか?と思った赤羽は青木の表情を見て、こりゃ、マジだ。と即座に実感しました。 「で、相手は?」「…同じクラスの、ヒトミちゃん」「あ?クラス委員のか?」「そう!あの子、いい!清楚な感じがいいよね~」 だめだ。完全に妄想に入ってる。「クラス委員の仕事でも手伝ってたのか?」「そう!あの子、熱心なんだ。俺なんかにも優しく接してくれる」 だめだ。鼻の下伸びきってる。 「今度会ったら、告白する。うまくいくかな?」 正直、クラスの鼻つまみ者の青木に勝算はないでしょう。ここは現実的に答えるべきでしょう。 「んん~、正直、ムリだろ~」「だよな~。はぁ~あ、ちゅーしてーなー」 だけど、ほかならぬ青木のためです、ここで一肌脱いでやるのが男ってもんでしょう。 「わかったよ、俺がその仲、取り持ちましょう」 赤羽にはなにやら策があるようです。 「…というわけだ。名づけて、白馬の王子様作戦」 作戦の内容を説明し終えた赤羽は得意げにそういいました。「ベタじゃね?」「こういう古典的な戦法のほうがあの手の相手には効くんだよ。いいから、俺の言ったとおりにやってみろよ」「ああ、わかったよ…」 そうして、後日、白馬の王子様作戦は決行されたのでありました。 「なんだよ。それ、髪染めたのかよ?」 その日、青木の前に現れた赤羽は一瞬目を疑うほどいつもとは違っていました。黒ずくめの服に黒メガネ。自慢の金髪まで黒く染めて下ろしています。「いや、ちょっと怪しい雰囲気にしようと思ってさ。メタル系ファッションを意識してみた」「メタル系?いやいや、なんだかしらんけど、怪しさは満点だよ」 悲しいかな、普段ファッションに興味がないやつが急に○○系ファッションを意識しても怪しいやつにしか見えないものです。ですが、今回はそれがうまく作用しそうです。 「おい、そろそろヒトミちゃんくるぞ、作戦通り、お前は隠れてろよ」 ヒトミちゃんはいかにも清楚なお嬢様といった雰囲気で、物腰もお上品で、頭もよくて人気者です。クラス委員の仕事で帰りが遅くなることもしばしばあり、今日もクラス委員の仕事で、ヒトミちゃんが一人で家路を急ぎたくなるような日を狙って作戦を実行したのです。 「はーい、そこのお姉ちゃん、ちょっと付き合ってよ」 作戦通り、怪しさ満点の赤羽がヒトミちゃんに絡みます。「なんですか、あなた、やめてください!」 もちろん、拒絶するヒトミちゃんです。作戦通りです。「おう!てめーなにやってんだよ!」 そこに颯爽と現れたのは青木です。赤羽とヒトミちゃんの間に上手く割り込みました。「青木君っ!たすけてっ!」「まかせてください。あんな怪しいやつ、俺がぶちのめしてやりますよ」 そう、言うかいわないかのうちに青木のストレートが炸裂しました。「はぁうっ!てんめー!」 思いも寄らぬ一撃を食らった赤羽は、その場に倒れこみ、うろたえながらも、作戦を続行します。 「ささっ、今のうちですヒトミさん、早く逃げましょう」「はいっ!」「まて~っ!このやろ~!」 この辺は赤羽、声だけです。 赤羽は逃げて行く青木とヒトミちゃんを見送りながら、よりにもよってこないだ黒岩にやられたところと同じところを殴ってきた青木のパンチの味をかみ締めてました。「女に走るには惜しいパンチだぜ。おー痛え…」 ですが、この作戦は思いのほか上手く行き、それ以来、クラス委員の仕事がある日は青木がヒトミちゃんと一緒に帰る事になりました。 「めでたしめでたし。じゃねーよ!」 忘れた頃に現れるのが岩石コンビです。「チャンスじゃねーか、今度は青木が現れることはねぇ。今日こそ赤羽をぶっ殺ろす」 相変わらず、得意技は卑怯と…「うっせえんだよ、ナレーション。みてろよ、時代が変わる瞬間だぜ。行くぞ。白石」「おう!」 そう言うと岩石コンビは、すっかりいつもの金髪リーゼントに戻し、一人でとぼとぼと学校からの帰り道を歩いていた赤羽の前に立ちはだかりました。 「おうおう、赤羽ちゃんよ、今日も一人なんだよな?」「あん?またおめーらかよ。凝りもせずまたやられに来たのか?」「カカカ、強がるねぇ。知ってるよ。青木はこねーんだろ。俺たち相手に、二対一で勝てるわきゃねーだろ!行くぞ、オラッ!」 どこかで見た展開です。岩石コンビは二人同時に赤羽に飛び掛かりました。 さすがに赤羽も前回の教訓があります。白石の蹴りをよけたところに、黒岩のストレートが来ます。それを左手でうけとめ、逆に黒岩に右ストレートをお見舞いしました。 「ハハハッ。どうだ、二対一でもわかんねーだろうが」 バキッ!不意に赤羽の後頭部に衝撃が走ります。 「誰が二対一って言った?」「だれだ、てめぇ…」「北高の灰原だよ!」 それは岩石コンビの助っ人でした。 「まじかよ…卑怯すぎ…」 赤羽は健闘するものの劣勢は明らかでした。このままでは岩石コンビ+1にやられてしまうのも時間の問題でしょう。 「くそっ…」「どうした。青木はこねーぜ。今頃、女とイチャイチャしてんだろ」 バキッ。「相棒がやられてるのになぁ、おめでたいやつだぜ」 ドカッ。「カカカ…」 ほぼ一方的な展開になってきました。 赤羽の気持ちももう折れてしまいそうです。 バッチーン! 激しい音とともに、灰原が倒れました。 「なんだ、この弱ぇーの。おめーらの仲間か?」 そこに立っていたのはまぎれもなく、青木でした。「あ、青木!」 驚きの余り手が止まる岩石コンビ。「ど、どうして、お前が…?」 驚いたのは赤羽もでした。「やっぱさ、女よりケンカだわ」 またもや形勢は逆転しました。 こうして、今日も赤鬼青鬼は岩石コンビ+1を撃退したのです。 「おまえ、ひどいやられようだな」 青木は赤羽に肩を貸しながらそう言いました。「うるせーよ、かすり傷だよ、それより、てめー、何でここにいるんだよ?」 一瞬の間があって、青木が言いました。「あー…、ふられたー」「やっぱり、そうなると思ったんだよな」「なんだと!結構上手くいってたんだぜ。俺がキスを迫るまでは…」「バッカだなーおまえ」「てめーの作戦のほうがバカなんだよ。なんだ?白馬の王子様作戦って」「なにぃ?作戦はうまくいったろうが!」「あのときの格好もなんだよ?キモイんだよ」「ファッションだよ、そんなのもわかんねーのか…」 と、まぁ、これで、めでたしめでたしってことで、いいのではないでしょうか。 おしまい