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星のママへ

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出会いと別れ

平成11年前置胎盤による帝王切開で生まれた長男に続いて我が家は平成14年の

バレンタインデーに待望の長女を授かりました。

妻は妊娠が分かると長男と同じくその地元では絶大な信用を受けている開業医の

G産婦人科へ通いました。妊娠6ヶ月ほどすると担当医師から「今回は経過もよく

径膣分娩も帝王切開でもできます。」と言われたため妻は体質的に傷が残りやす

く前回の帝王切開の傷がケロイド状になっていたりしたことから「先生も大丈夫

と言ってるから」と径膣分娩(VBAC)を選択しました。

そして、その後暮にかけて多少浮腫みがでたものの経過も順調で予定日の2月9日

となりました。しかし、その時点ではまだ産気づく気配はなく14日に再度通院と

なりました。

14日この日はバレンタインデー。仕事を抜けて私は息子とともに妻を病院へ車で

送りました。診察で担当の副院長に「今診察したらもう、子宮口が3cmくらい

開いてるんでこのまま入院してもらいます。」と言われそのまま入院。入院準備

が整うと息子が風邪で高い熱があったこともあり、私は息子を連れて一時実家に

戻る事にしました。「じゃあ、とりあえずチビが辛そうだから実家で寝かせてか

らまた来るよ。がんばってな!」「うん!」この言葉が最後に交わす妻との言葉

になるとはこの時全く想像もしませんでした。

 入院してから陣痛が順調に進んだようで、夕方息子を小児科に連れて行った帰

りに妻の携帯に掛けたが繋がらない…。「これは!」と思い息子をそのまま連れ

て急いで妻の病院へ行くと30分ほど前に待望の長女が誕生。先に来ていた妻の

高校の友人に案内され娘と対面。「やったーっ!」嬉しさのあまり歓喜の声をあ

げると院長が現れ「おめでとうございます。奥さんはちょっと出血が多くて気分

が悪いようなので分娩室でまだ休んでます。」と説明をしました。

その時は全く知りませんでしたが妻は娩出時子宮破裂を起してしまいました。

子宮不完全破裂という状態(筋層の薄皮1枚がかろうじて残っている状態)だっ

た為、不幸中の幸いにも娘は目立ったアクシデントもなく無事生まれたようです。

しかし妻の方は娩出4分後には1,000ccもの出血があり、更に30分後には出血

は2,000ccにも及びました。しかし、不完全子宮破裂ということや(医師の説

明では)破裂箇所が創部からずれていたということもあり、子宮破裂が確認でき

ず出血がひどく「手に負えない」と高度医療施設への搬送をしたときには出産か

ら1時間半が経過しており、出血性ショックで意識不明呼吸停止状態となりました。

後に、VBACについて調べると母子共に大きなリスクがあり、大変危険な出産で

あることが分かりました。

出産当日も医師から「今回は下から産んでも大丈夫、任せてください。」と言わ

れ私達は医師の言葉に安心して出産に望みました。

しかしごくまれにしかないと言われる子宮破裂で取り返しのつかない事態になっ

てしまいました。

救命センターの協力を得て救急病院産科で処置にあたったときは外出血2,000cc

のほかに腹腔内出血が1,000ccが確認され、一般成人の血液量が約5,000ccで

あることを考えると半分以上の血液が流れ出てしまい、心臓だけが空打ちで懸命

に動いている状態で普通では一晩もたないという状況でした。

しかし、 妻は一般成人の常識を遥かに超えた生命力で生きようとしました。非科

学的な表現かもしれないけれど『「子供達を置いて今行くわけにはいかない。」

という母親としての強い生命力で生きようとしています。』と医師が説明するほ

ど妻は19日間毎日のように身に迫る合併症にも耐えながら生き続けました。

 3月3日のひなまつり私は息子と母を連れて、産婦人科医院に預けている娘を

訪ねて、空いていた病室を借りてささやかに初節句のお祝いをしました。

夕方救命救急センターの妻に面会して、意識を戻し始めた妻にそのことを報告す

ると薄っすらと目を開いて涙を浮かべながら、かすかに口を動かしました。

看護婦さんのお話しではこの日から口から食事も摂るようファイブミニプラスを

希釈したものの経口摂取もはじめたと言うことで、「これからは一気に回復に向

かうぞ!」と誰もが疑いませんでした。

 しかし、3月4日に日付が変わった瞬間に突然心拍が低下。救命センターの医師

がどんなに蘇生処置を行なっても、まるで戦いに力尽きたかのように妻の心臓は

全く反応しませんでした。心拍は薬の効き目が切れてゆくのに逆らう事無く徐々

に小さくゆっくりになってそして4時49分静かに止まりました。


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