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2005.04.03
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カテゴリ:Life in VietNam
このどうにもこうにも受け入れがたい状況の中、俺に取って救いはヒエンさんの存在だった。形だけの彼氏彼女だったが、お互いにいつの間にか自然体で振る舞える貴重な存在になっていた。

俺の英語は本当につたない。だが、少ないボキャブラリーの中、身振り手振りも交えて、最低限の話をすることはできた。彼女も、おそらく理解に苦しんだと思うが、その中で彼女の意見を言ってくれた。

話すのにさえ苦労するのだったら、佐藤さんやジョエルさんに話せばいいのだが、彼らは社長に近すぎる。決して告げ口をするようなことは無いが、社長は俺が彼らと深く話をすることを気嫌いする。それに、俺の中にもヒエンさんをもう少し知りたいと言う気持ちも芽生えていたから。

俺はヒエンさんに、会社の現状について素直に話をした。給料のこと、ハーさんグループのこと、パスポートが取り上げられていること。ヒエンさんに話すことで、自分の行き場の無い気持ちを晴らしていた。しかし、トゥィーさんのことについてだけは、どうしても言えなかった。ひょっとしたら、ヒエンさんもトゥィーさんと同じ目に遭うかもしれないのに・・・でも、言えなかった。

俺がトゥィーさんからの直接相談を受けたということが、引っかかっていたのかもしれない。そんな深い話をジョエルさんではなく、佐藤さんでもなく、俺が受けたことに何となく引け目を感じていた。また、同じ日本人の社長が、ベトナムの女性をひどく扱っていることを口にするのがはばかられたのかもしれない。

ヒエンさんは、会社で何かがあると「You have to be strong」と励ましてくれた。今回も、冷静に暖かみのあるこの言葉を言ってくれた。

休日。社長の目を盗んで、俺はトゥィーさんと会った。前回の電話のときよりも、気持ちが吹っ切れたのか、怒りが増幅していた。トゥィーさんは時折涙を浮かべ、また、怒りをあらわにしながら、激しく話した。弾丸のような英語の単語を聞き取りながら、俺はゆっくりと返した。「そこまで、気持ちが決まっているなら、1分でも早く辞めた方がいい。」社長に知れたら、また、お前が会社の反乱分子を煽動しているとおしかりを受ける内容だ。だが、俺は、1人の人間として、我慢して会社に残れとは、言えない。

ふいに、トゥィーさんの口から、彼女の告白の言葉がこぼれた。彼女は俺のことが好きだと言ったのだ。俺は耳を疑った、と同時にイライラした。彼女は、おそらく彼女にとっては生まれて初めて受ける仕打ちの中、こうして対応する俺が多少頼もしく見えたのかもしれない。日本人だからかもしれない。

とにかく、イライラした。

俺は、トゥィーさんに重く受け止める風でもなく、君には婚約者がいるのだから、冗談でもそんなことを言うもんじゃないと流した。俺自身、そんな甘い言葉に耳を貸せるような精神状態ではなかった。俺自身が助けてほしいくらいだ。
一気に、何もかもが面倒くさくなり、すぐに彼女と別れて寮に帰った。





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Last updated  2005.04.19 02:43:01
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