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2005.08.31
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カテゴリ:Trip in India
俺は、この巨大なストゥーパ以外何も無いボダナート寺院で、大地の広さに感じ入っていた。ブッダズアイになったような気分で、地の果てまで思いを飛ばす。カルカッタ、パトナー、ガンジス河・・・そして、ヒマラヤ山脈、シルクロード・・・足の裏の地面は、どこまでもどこまでも広く広がって行き、果ては中国の東の端、西はスペインのジブラルダル海峡まで。この大地をゆっくりでいいから、全部踏みしめてみたい、そんな無謀なことが自然と考えられた。

ニノがそろそろ退屈し始めている。俺たちは、今日の次の目的地、パシュパティナートへペダルを漕ぎ始める。パシュパティナートは、ガンジス河の上流にあって、ネパールで最も大きなヒンドゥー教寺院だ。シヴァ神が立ち寄ったともされ、ヒンドゥー教のシヴァ派にとっては重要な聖地らしい。ガイドには猿がたくさんいるとも書いてある。

パシュパティナートに着いて最初に目についたのは、大きく美しいガートだった。川幅は狭いが、ガンジス河よりも深く透明度の高いグレーの水。そして、その両脇に並ぶ寺院群。ギラギラと建っているだけでお祭り騒ぎのカルカッタのカーリー寺院とは対照的に、質素だが、信仰深く、丁寧に造られている。建物そのものが、生と死を真っ正面からとらえ、魂が帰る場所に対して敬意を払っている。


パシュパティナート
ネパール最大のヒンドゥー教寺院:神聖かつ質素な寺院


寺院と河の間には、ガートがある。ガートでは、葬儀が行われている真っ最中だった。カルカッタで俺とブンがこっそりと覗き見した時と同じように、「井」の字に組まれた木組みの上に、オレンジ色の布をまとった遺体が置かれている。遺体となった人が、まさに、これから煙となって天に帰る準備をしているところだった。

遺体は、おそらく身分の高い人なのだろう。神妙に、そして丁寧に儀式を進めている。俺たち3人は、その一部始終をじっと見つめていた。木組みの一番下に火が点けられる。木組みの間に入れられた枯れ草が、「パチパチ」と音をたてながら火を育てる。油が注がれた木組みに燃え移ると、オレンジ色の布にくるまれた遺体が、布と同じ色の大きな火に包まれるまで、さして時間がかからなかった。

木組みの中の空気がはじけ、「バチバチ」と音をたてながら、火の粉を巻き上げる。木組みが次第に崩れ、大きな炎の中で、徐々に遺体の色と形が変わって行く。オレンジ色の布が黒く染まったかと思うと、ひらひらと灰となって舞い、人の形が歪み始める。油が燃えて真っ黒だった煙が、次第に白く色を変えながら、天に向かって昇り始める。魂が汚れの無い天に返る瞬間だ。



葬式
美しい炎は、魂の最期のエネルギーかもしれない

ニノがどう言う気持ちだったのかは、分からない。少なくとも俺とブンは、立ち上るその煙の重みをじっと感じ入っていた。俺たちは不意をつかれたように、再び死と出会ってしまった。遺体とは言え、人が目の前で焼かれ、灰と化して行く様子を見るのは、何とも言えず重い気分にさせられる。真っ赤で大きな火が、人の罪や業を洗い流し、煙となって天へと旅立つ・・ヒンドゥー教徒にとって、最期で、最上の魂の浄化なのだろう。

人の魂を洗い流す火の色は、とても美しく激しかった。
葬儀のスケッチ
葬儀のスケッチ





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Last updated  2005.08.31 23:08:57
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