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2006.03.09
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カテゴリ:No Category
翌日、俺は紐の切れた靴をカパカパ音を立てながら、試験を受けた。

上○の試験は、英語が超が付くほど難しい。

結果は、見なくても分かるほど惨たんたるものだった。

俺は、一人、紐の切れた靴のせいにして大学の門を出ようとしていた。

すると、一人の学生が俺に声をかけてきた。

振り返ると、さわやかだが、どこか貧乏くさい学生。

全身、さえない色の服に、どこかくたびれた表情。

髪はぼさぼさで、全方向にはねている。

「どうだった?受験」

いきなり、親しげに声をかけられ、少し引く。

「あ、いや・・」

「あぁ、僕、ここの学生してるんだ。よろしく」

名前は聞いたような気がするが、もう、すっかり記憶から抹消されている。

「どこから来たの?」

「大阪です」

「いや、東京のどこから?どこかに泊まってるんでしょ?」

「はい。渋谷のそばに」

「俺、同じ方向だから一緒に帰らない?」

俺は、電話で親と話す以外、10日ほど、誰ともクチを聞いていない。

暇つぶしにもなるしいいかと思い、彼の申し出をなんとなく受けた。

「東京は初めて?」

彼は、何のためらいもなく、俺に話しかける。

最初は、快く答えていたのだが、なんだか気持ち悪くなってきた。

見ず知らずの男が、俺に付きまとっている。

俺からは、こういう怪しげな物の怪を引き寄せるオーラが出ているのだろうか?

「これからどうするの?」

俺は、紐の切れた靴を見せ、

「靴紐を買いに行くんです。昨日、切れてしまって」

俺は、そういえば彼は家に帰ると思ったが、裏目だった。

「じゃ、俺も付き合うよ」

「いえ、いいですよ」

「せっかくだから、お茶でもおごるから」

強引さに負けて、渋谷に向う。

渋谷の109。

1989年当時でも、渋谷を最も感じさせるデパートだった。

彼はなぜか俺をそこへ連れて行った。

「僕もここに来るの、初めてなんだよな・・」

・・・まぢか?なんで?東京で学生してるんでしょ?

「そうなんですか」

「僕、あんまりお金がなくてさ」

・・・いや、関係ないと思うけど。

と、彼はおしゃれな女性がたーくさん居る、エスカレータの途中で、

靴を抜いて見せた。

「ほら、これ」

彼は、靴下を自慢げに見せる。

なんと、靴下の指が分かれているのだ。

今でなら、先割れ靴下は珍しくもなんともないが、当時はそんなもの売ってるとは思わなかった。

しかも、軍手のような素材で、貧乏くさい色。

「軍足っていうんだ。安いし、丈夫だし」

・・・だから?

さらに、相手してるのが気持ち悪くなった。

お茶を一緒に飲む前にまかねば・・・

俺は急いで靴屋を探し、目に付いた靴紐を買った。

「じゃ、俺、明日があるんでそろそろ・・」

「そう。じゃ、ホテルまで送っていくよ」

・・・やばい・・何者だ、こいつ・・・

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」

渋谷のスクランブル交差点。

彼をまくなら絶好のポイント。

俺は一気に歩く速度を上げ、人ごみにまぎれた。

そして、思いっきり走った。

紐が切れた靴をパカパカさせながら・・・

助かった。

気持ちの悪さを感じつつ、ホテルに戻った。

今日は、ここから出ないでおこう。

脂っこいホテルの料理でいいよ。

落ち着いたころ、靴の紐を変えようと袋を開けると、

紐が長い。

長すぎる。

袋を確認すると、なんと、ブーツの紐だった。

翌日の受験には、靴紐を引きずって行った。

こうして、俺は2年目の浪人にまっしぐら。

もんじゃ焼きと、靴の紐と、軍足野郎のせいだ。





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Last updated  2006.03.10 02:46:17
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