タルタルソースの部屋

2006/03/12(日)09:00

中国仏教が生まれた街 ~五弦の琵琶~

絲綢之路(51)

1991年9月5日 壁画のかけらを穴が開くほど見つめた翌日、クチャで最も壁画が残っている克孜爾(キジル)千仏洞を見学する。シルクロードの中で、敦煌の莫高窟、トルファンのベゼクリク千仏洞と並ぶ、大規模な石窟寺院だ。 キジル千仏洞 他の石窟寺院と同じく、切り立った山肌に虫の巣のようにポコポコと石窟の口が開いている。その数、2百以上。壮観だ。クチャで、どれほど仏教が深く信仰されていたかが良く分かる。 夕暮れ時、無数の石窟から、ほんのりと蝋燭の柔らかい灯りが溢れ出ている。 遠くの寺院から鐘が鳴り響き、時を知らせる。 と同時に、石窟から篭った僧侶の低い読経が一斉に響き始める。 徐々に砂漠の西の果てで太陽が燃え尽き、澄み切った闇が荒涼とした大地に染み込む。 太く低い読経が、地を這い、空に響く。 旅人は、その響きを心で受け止め、渇きを癒す。 病人は、その言葉を身にしみ込ませ、自らの生を感謝する。 そんなことを自然と想像させるような景色。ツアー一行は、石窟寺院の中に案内される。やはり、仏画の顔は、剥ぎ取られている。何度見ても、残念でならない。さらに、この千仏洞の壁画は、ヨーロッパや日本の探検隊によって、根こそぎ剥ぎ取られているところもあった。無残だ。 いくら学術的な目的とは言え、壁画はここにあるべきだ。ヨーロッパや日本に運ばれれば、発見された時の状態で保存されるだろう。だが、仏画は、このシルクロードの砂漠の中にあってこそ、価値のあるような気がする。 そんな痛々しい壁画の中にも、すばらしい壁画も残っていた。 奈良の正倉院に残っている五弦の琵琶を弾く天女。小さい、はっきりと描かれている。3000キロ離れた砂漠の真ん中で、日本とつながるものをまた見つけることができた。 壁画の五弦の琵琶をじっと見つめながら、シルクロードをたどって正倉院の中にまで神経を伸ばす。これが、シルクロードを旅する醍醐味だ。

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