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2006.04.20
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カテゴリ:TSURUGI

平らな道が延々と続く。歩けば歩くほど、空気が粘っこくなってくる。木の葉と草の青臭さが、俺達を生暖かく包み込む。太陽がどんどん高くなり、木の葉の隙間からこぼれる光すら、暑く感じる。背中の荷物が重く背中全体にのしかかってきた。そのうち、10分おきに、3人のうちの誰かが、「まだかな~」と愚痴り始めた。

「あれ・・聞こえた?」
遠くで何かが鳴った気がした。
「なんも聞こえへんよ」
「いや、絶対鳴ったって」
3人で耳を済ませると、遠くにトロッコ電車の汽笛と思われる音が聞こえた。
「おぉ、もうすぐや」
俄然元気が出てくる。早足で歩き始める3人。

あれからかれこれ、1時間は歩いている。
「まだやろうか?」
相変わらずトロッコ電車の音は聞こえるが、一向に近づいている感じがしない。変にがんばってしまったため、疲れがどっと出てくる。いつまでこんな道が続くのだろうか。だいぶ下山してきたのだから、売店や休憩所などはないのだろうか。

鼻血が鼻の中で乾いて、気持ちが悪い。鼻の穴に指を突っ込んで、乾いた血をほじくり返したい気分だ。
「らの字、傷はどうや?」
「少し乾いてきたけど、まだ、グチュグチュ」
ずる剥けになった傷口の血が落ち、黄色く変色し始めている。
「痛そうやな・・大丈夫か?」
「痛いけど、大丈夫」
こいつの我慢強さには、毎度頭が下がる。

どれだけ歩いただろうか。少しずつ向こうから歩いてくる人の数が増えてきた。
「こんにちは」
「こんにちは。がんばったんやなぁ~」
すれ違いざまに、挨拶する。山で人とすれ違うときに挨拶するのはエチケットだと、インディーが教えてくれた。
「素人なんで、大変でした」
「そうですかぁ~。もう少しなんで、がんばってくださいや」
「ありがとうございます」
なんと言うことはないが、こういう会話は気持ちいい。お互いにまっさらな気持ちで出会うからだろう。

言葉に励まされ、ひたすら歩き続ける。もう、足が棒だ。膝を曲げるのもつらい。
滝の音が聞こえてきた。人の雑踏も耳に届く。
「そろそろちゃうか?」
「そんな感じやな」
最後の気力を振り絞り、大きく回ったカーブを抜けると、急に視界が広がる。大きな木の板に「欅平」と書かれている。
「着いた」
俺達は立ったまま体を二つに折り、膝に手をつく。
「お疲れ!」
自然とお互いに握手する。
「よぅ、歩いたなぁ~」
俺達は、久しぶりにコンクリートの上に座り込み、人目をはばからず靴を脱ぎ、靴下まで縫いでくつろいだ。






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Last updated  2006.04.20 22:36:33
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