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カテゴリ:小説
40歳記念小説(爆)。
肇は、濡れた髪をタオルでゴシゴシやりながら椅子に腰かけると、忙しく動き回る淑子に向って低い声を出す。 「ふぅ。なつみは寝たのか?」 淑子がパタパタとスリッパの音を立ててビールを運んできた。 「えぇ。もう寝たわよ」 テーブルの上を蛍光灯の青白い光が静かに照らしている。肇はグラスにビールを注ぐと、一気にのどに落とし込んで、ふぅと軽くため息をついた。 「そうか。何か変わったことはなかったか?」 淑子はつまみを運びながら夫の顔を横眼で見る。 「疲れてるの? 珍しくよくしゃべるわね」 「あぁ。少し疲れてるのかもな……」 キッチンに戻る淑子が背を向けたまま夫を気遣う。 「最近、忙しかったから。明日は休めるんでしょ? あの子の誕生日だし」 「あぁ。明日は休みだ」 肇は、再びグラスにビールを注ぐと一気に飲み干し、背を向ける妻に話し続ける。 「なぁ、お前…今、幸せか?」 「何よ急に」 思わぬ質問に振り返る妻の顔をじっと見つめる。 「いや、話さないか?」 「ちょっと待って。すぐにできるから」 「今話したいんだ」 「少しくらい待ってよ。もうすぐだから」 「あぁ」 妻は慣れた手つきでテーブルに皿を並べていく。 淑子は、会社の2つ後輩で、初めての自分の部下だった。決して美人ではないが、頭の回転が速く、気遣いができる、そんなところに惚れたのだ。そんな淑子を妻に持てたことを、そして一人娘のなつみを誇りに思う。だからこそ辛い。 「で? 話って何? 悪いこと?」 はっとして顔を上げると、正面に淑子が座っていた。 「何よ、話があるんでしょ?」 「あぁ」 「まさか……女ができたとか?」 妻が意地悪な顔をしている。 「おいおい、そんなはずないだろ?」 「じゃ、何よ?」 「まず、質問に答えろよ」 「質問って、幸せかってこと?」 改めて聞き返されると何となく照れ臭い。 「あぁ」 「なつみもいるし。不幸せなことは見当たらないわよ」 「そか」 不幸が見当たらないから幸せか……。女の幸せとは、そういうものかもしれない。 「なら話してもいいな」 肇は大きく飲み込んだ空気を吐き出す。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.12.08 19:25:45
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