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2009.12.08
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カテゴリ:小説
40歳記念小説(爆)。


 肇は、濡れた髪をタオルでゴシゴシやりながら椅子に腰かけると、忙しく動き回る淑子に向って低い声を出す。

「ふぅ。なつみは寝たのか?」

淑子がパタパタとスリッパの音を立ててビールを運んできた。

「えぇ。もう寝たわよ」

テーブルの上を蛍光灯の青白い光が静かに照らしている。肇はグラスにビールを注ぐと、一気にのどに落とし込んで、ふぅと軽くため息をついた。

「そうか。何か変わったことはなかったか?」

淑子はつまみを運びながら夫の顔を横眼で見る。

「疲れてるの? 珍しくよくしゃべるわね」
「あぁ。少し疲れてるのかもな……」

キッチンに戻る淑子が背を向けたまま夫を気遣う。

「最近、忙しかったから。明日は休めるんでしょ? あの子の誕生日だし」
「あぁ。明日は休みだ」

 肇は、再びグラスにビールを注ぐと一気に飲み干し、背を向ける妻に話し続ける。

「なぁ、お前…今、幸せか?」
「何よ急に」

思わぬ質問に振り返る妻の顔をじっと見つめる。

「いや、話さないか?」
「ちょっと待って。すぐにできるから」
「今話したいんだ」
「少しくらい待ってよ。もうすぐだから」
「あぁ」

 妻は慣れた手つきでテーブルに皿を並べていく。
 淑子は、会社の2つ後輩で、初めての自分の部下だった。決して美人ではないが、頭の回転が速く、気遣いができる、そんなところに惚れたのだ。そんな淑子を妻に持てたことを、そして一人娘のなつみを誇りに思う。だからこそ辛い。

「で? 話って何? 悪いこと?」

はっとして顔を上げると、正面に淑子が座っていた。

「何よ、話があるんでしょ?」
「あぁ」
「まさか……女ができたとか?」

妻が意地悪な顔をしている。

「おいおい、そんなはずないだろ?」
「じゃ、何よ?」
「まず、質問に答えろよ」
「質問って、幸せかってこと?」

改めて聞き返されると何となく照れ臭い。

「あぁ」
「なつみもいるし。不幸せなことは見当たらないわよ」
「そか」

 不幸が見当たらないから幸せか……。女の幸せとは、そういうものかもしれない。

「なら話してもいいな」

肇は大きく飲み込んだ空気を吐き出す。





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Last updated  2009.12.08 19:25:45
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