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2009.12.08
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カテゴリ:No Category
「結婚して何年だっけ?」

淑子は懐疑的な視線を夫に向けている。

「覚えてないの? そんなことも。今年で十二年よ」
「そんな変な顔するなよ」
「じゃ何よ。早く言ってよ」

 ゆっくりと天井に視線をやってから妻の顔を見つめる。

「まず、信じる信じないはお前の自由だ。先に言っておく」

妻は小さなため息をつくと頬杖をつき、少々怖い顔をしてみせた。

「だから何よ。もったいつけちゃって」

肇は妻に自分の言っていることが伝わるように、ゆっくりと言葉を吐き出した。

「俺には、もう一つ目がある」
「え? 何?」
「だから、俺にはもう一つ目玉があるんだよ」

妻は見慣れた夫の顔に一応視線を這わせると、呆れたような口調で続けた。

「ないわよね? ふざけてる?」
「いや、真面目だ」

肇は、自分でも顔がこわばっていくのが分かる。何しろこのことを自分から話すのは2人目だからだ。

「どこにあるのよ? 透視ができるとか、テレパシーがあるだなんていうのは一切信じないからね」

興奮した妻はさらにまくしたてるように続ける。

「あ、そうか。怪しい宗教団体にでも勧誘された?」
「落ちつけよ。そんなんじゃない。見せてやる」

言葉を切るように割り込むと、後頭部の髪をかき上げる。

「頭の後ろだ」

淑子はおずおずと立ち上がると肇の背後に回り、掻き上げられた髪の隙間を覗き込む。

「ちょうど頭の真後ろあたり。ちょっと大きめのホクロがあるだろ? それだよ」

淑子はよく見えるように髪を掻き分け、ゆっくりと顔を近づけていく。

「ホクロはあるわよ。でも、これが目だなんて……」

 淑子が信じられないのも無理はない。第三の目にはまぶたはなく、目玉の上に薄い皮が張っていて、どうみても少し大きく黒いホクロにしか見えないからだ。

「あなた、やっぱり変な団体なんかに誘われたりしてない? 真面目に怖いんだけど」
「俺も最初はそれが目だとは思わなかったから。証拠見せるよ」

肇はゆっくり立ち上がり、懐中電灯を持ってくると、呆気にとられる淑子に手渡し照明を消した。

「うつ伏してるから懐中電灯を振ってみて」

淑子は状況をよく把握できていないようで、懐中電灯を持ったまま突っ立っている。肇はゆっくりと椅子に座り、テーブルに顔を伏せた。

「俺の後ろで懐中電灯を点けて、自由に動かしてみて。その方向を言い当てるから」

ようやく理解した淑子は、肇の背後に移動する。

「でも、何もこんなことをしなくても。見えるんでしょ?」

肇は伏せたまま少しイラついた口調で答えた。

「視力が悪いんだよ。はっきりと見えないんだ。始めて」

 淑子は懐中電灯を点け、ゆっくりと垂直方向に動かし始める。

「縦に振ってる」
「うん。じゃ、これは?」

淑子は、右手を大きく伸ばし懐中電灯をグルグルと大きく回し始める。

「大きく回してる」
「当たってる。じゃ、これは?」

淑子は自分の手のひらを懐中電灯の先端にかざし、隠したり開いたりする。

「点滅してるのが見えるよ」
「すごい! 見えてるんだ。じゃ、これは?」
「もういいだろう?」

肇は、ゆっくりと頭を持ち上げると、振り返って淑子の顔を確認する。

「わかっただろ?」

淑子は、頭では何が起こったのか分かっているようだが、それがどういうことなのかを遠くを見ながら空気を確認している。





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Last updated  2009.12.08 23:49:21
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