The Life Style in The New Millennium

2015/08/09(日)10:11

ほんの小さな明かり

ショートストーリー(1475)

ほんの小さな明かり 早百合は、札幌駅の構内にある一畳ほどのスペースで 弁当を売っている。 この店を、会社から任されたのが2年前。 この2年間、一度も黒字にならなかった。 つまり、早百合の月給ほどの売り上げもなかったわけだ。 時間給を下げるか、店を閉めるか。 会社は決断を迷っている。 どちらにしても、早百合にとっては良いことではない。 早百合は、10歳年上の浩助といっしょになって10年になる。 浩助は、気の良い男だが、勤めに出ても3ヶ月と続かない。 この半年は、ほとんど働いていない。 早百合のわずかな稼ぎが、子のない二人の生活費なのだ。 一生懸命、笑顔を作って、一日、立ちっぱなし。 トイレに行く時は、隣のKIOSKの店員に 「ちょっと、お願い」 と言って走る。 決して、楽な仕事ではない。 でも、これ以外に、自分ができることはない。 そう言い聞かせて、頑張ってきたが、 ここも、時間の問題で追われることになりそうだ。 そんなことを思いながら、いつものように 弁当を売っている早百合の目の前に いつか見た笑顔が現れた。 「やあ、久しぶり、ここで、働いているの?」 「はい、お久しぶりです」 結婚前、半年ほど働いた会社の課長だった植田だ。 たしか、東京の本社に戻ったはずだが… 「いやあ、社員旅行でね。10年ぶりに札幌に来たんだ」 そう言って、植田は、10ほど弁当を買ってくれた。 久しぶりに、今日は売り切れそう… 「あ、そうそう、また、この夏に、札幌支店に来るんだ。 今度は、支社長に昇格だ。また、いっしょに仕事やりませんか? 知り合いがいると、心強い。面接だけでも来てよね」 と言うと、植田は小走りで弁当を抱えて行った。 久しぶりに会ったから社交辞令だったのかもしれない、 でも、落ち込んでいた早百合の心に、ほんの小さな明かりが点った。

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