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カテゴリ:ショートストーリー
夢のまた夢
10年ぶりに出た世間の風は冷たい。 「たしか、1年前に出たエイコは、 首をつったって噂だったわ」 … 和世は10数年前、ちょっとした人気歌手だった。 絶頂は、1年と続かず、デビューから3年もすると、 温泉町の歌謡ショーがスケジュールの大半を占めるように なった。 そんな時だった。 シゲルと知り合ったのは。 シゲルは、チンピラ上がりの板前で 短気なところもあったが、 和世にはやさしかった。 が、たった一つ、和世が歌うことには反対だった。 きっと、男前のタレントに寝取られるとも思っていたのだろう。 シゲルだって、十分、男前のくせに。 そんなシゲルとの最期は、 和世に巡ってきたチャンスがキッカケだった。 当時の売れっ子作曲家Tが、和世に曲を作って くれるという話が飛び込んできたのだった。 小躍りして喜ぶ和世に、 シゲルは 「俺を捨てるのか」 と血走った目で言った。 「違うよ、シゲ」 「信じられねえ」 シゲルは包丁を持って、 和世に近寄ってきた。 組んずほぐれつ、もみ合った末、 死んだのはシゲルの方だった。 きっと、シゲルは和世を殺せなかったのだろう… 「あれから10年、 ああ…こんなことなら、 子供でも産んでおくんだったなあ… かあちゃんのバカ野郎なんて言って、 なんだかんだ言いながら迎えに来てくれる… ボロアパートで子供と二人… 貧しいけど温かい… そんなことも夢のまた夢…」 和世は住み込みで働くことに決まっている ラブホテルへ向かう。 気が付くと、あたりはスナック街だった。 あっちこっちから、カラオケの歌声が聞こえる。 「ああ…」 と和世は天を仰いで呻いた。 そう、和世を迎えてくれたのは、 かつて和世が歌ってヒットしたメロディーだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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と罵るのは容易い。
しかし 男と女、人と人。 紡ぎ合うドラマはいつも真剣。 傲慢に陥ったら、何かが終止符を打つ。 少しでも染みのない人生を。 そう願う。 感謝が見えたら、きっとまだまだ大丈夫。 (2007.08.17 14:32:51) |
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