第一話:天仕 Part1学校で一番の落ち着く場所、俺にとっては屋上。学校の中で一番高いこの場所は美崎町全体が見渡せる。と、言っても実際に全体が見渡せるのは俺だけの特権なのだが。 ――― 千里眼。天仕として俺が授かった能力の一つである。その名のとおり、千里先まで見渡せる魔眼の一種である。 「今日も天気がいいなぁ……。授業も屋外でやればいいのに」 まぁ、屋外でやられても授業を聞く気などサラサラ無いのだが。 俺の弁当はまだ来ない。とりあえず町全体を見回す。 「覗きは感心しないね」 下方から声がする。弁当が届いたようだ。 「とっとと食おうぜ、腹へってしょうがない」 「焦らないでよ、ちょっと待ってて……」 弁当の包みを片手に梯子を上ってくる。しかしそれではバランスがうまく取れない。 案の定、足を滑らせ落ちる。やれやれ、と思いながらも落ちる直前に時雨の手を取る。 「まったく、気をつけろよ。弁当が台無しになっちまうだろ」 「弁当より先に僕の心配をして欲しいね……」 「よっ、っと」 時雨の体を片手で引き上げる。が、なかなか引き上げられない。 「時雨、また体重ふえがっ!」 鉄拳が飛んできた。 「で、この前の異変はどうだったんだ?」 「問題なく解消されたよ。原因となった人も逮捕されて今は刑務所の中かな」 食べながら喋るのは行儀が悪いが気にしない。もふもふとから揚げを食べながら喋る。毎日の弁当は時雨が作り、それを屋上で食べるのは既に俺たちの日課となっている。 続けて卵焼きを口に運ぼうとしたとき、何者かが箸の先から卵焼きを盗った。 「あ゛~!! 俺の卵焼き!」 「ふむ、俺は卵焼きの味付けは砂糖より塩の方がいいんだがな」 「何よ、文句言うなら食べなきゃいいじゃない。急に現れて弁当のおかず盗るのも感心しないよ」 急に俺の卵焼きを盗っていった何者か。その正体は虎模様の猫だった。 「雷牙、頼むから俺の食料を盗らないでくれ……」 雷牙、俺たちの情報伝達係だ。仕事を持ってきたり、情報を集めてきたりと重要な役割を果たす……のだが。 このようにたまに意味も無く現れて食料を強奪したり俺達の邪魔をしたりと迷惑と面倒を持ってくる疫病神のような存在でもある。 「今日はちゃんと用事があってきたんだぜ。ほれ仕事だ」 パッ、とどこかから一枚の紙が現れた。忌むべき指令書である。 「最近西部の墓地で幽霊が出たとかそういう騒動があって墓参りに行きたい人もいけないそうだ。しかし住職は頑固でそんなもんはいないと言い切るばかり。放っておいたら後々面倒なことになりかねないからとっとと成仏でもさせてやれ、とさ」 「除霊か、これまた面倒な仕事が回されてきたな」 「そう?人間を相手にしてるよりずっと気楽だと僕は思うけどなぁ」 俺たちに回ってくる仕事は様々だ。誘拐や銀行強盗に始まり、除霊や悪魔の退治など。言ってしまえば何でも屋とそう変わりは無い。 「霊、となるとやっぱり夜だね。深夜辺りがベストか」 「夜はぐっすり寝てたいんだがなぁ」 「夜じゃなくてもお前は寝てるだろうが。仕事ぐらいちゃんとしとけ」 「はいはい、どうせ俺は三年寝太郎ですよー。っと、時雨、その漬物とってくれ」 昼食へと戻る。弁当が遅れてきた分昼休みの時間は残り少ない。とっとと食べてしまわないと食べ終わる前に午後の授業が始まってしまう。 |