040816 ランダム
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適当な日常

適当な日常

第一話:天仕 Part4

はずだった。
しかし俺と男の間に、白くて長い布のようなものが割って入った。
瞬間、俺は止まり、男との距離をとった。
布を辿り、行き着くその先にあったのは頭を何個もくっつけ合わせたような奇妙な玉だった。
そこから白い布が何本も生えている。

「ちっ、少し五月蠅くしすぎたか」
「うわっ、気持ち悪」

その奇妙な物体は、この墓地に埋まる人々の怨念の塊だった。
普段はおとなしいんだが、何かがあるとその拍子に出てくることがある。
それが一般的な霊騒動の原理なのだが。
今回のこの霊の塊、俗に「塊魂」と呼ばれる。

「この男のせいで少し膨らみすぎたかな」
「うん、100体分はあるかも」

そんなことを悠長に話していると、塊魂の布が事態を理解できずに硬直していた男を絡めとった。

「犠牲者を出す前にとっとと片付けよう。結界頼んだ」
「はいはい、非戦闘員は雑用に回っておきます。よいしょっと」

ペタン、と時雨が手を地面につけると、風が時雨のいる場所から八方に吹きぬけた。
時雨の天仕の力は、簡単に言うと「結界を操る力」が基本である。
結界を作り人を守り、閉じ込め、果てには結界の張られた部分を隔離し、人が寄り付かないようにする。
使い勝手のいい能力だ。
対して俺の力は戦闘にしか使えないものばかり。
そうすると俺と時雨の役割分担は至って簡単。
時雨が守り、俺が攻める。

「さて、その男は確かに悪いんだが、殺すほどではないんだ。」

とりあえず面倒を避けるため説得を試みる。
結果は決まっているのだが、それでも例外に期待してしまうのだ。

「あなたたちの墓を二度と荒らさせないと約束する。だからその男を離して、俺たちを見逃してくれると・・・」

俺の説得は飛来する白い布によって打ち切られた。
飛んでかわしたが、布は地面に突き刺さった。
プロボクサーのストレートぐらいの威力はあるだろう、食らったら無事ではすまない。

「交渉決裂、実力行使っと」

俺は地面に突き刺さった布の上に乗り、それを駆け上がる。

「悪いな、成仏してもらうぞ」

一気に塊魂本体まで接近し、跳ぶ。
空中にいる無防備な俺めがけて数本の布が襲い掛かってきた。
しかし俺はそれを全て殴り飛ばす。
俺の拳が当たった場所から紫色の火が発火する。

「ギギィィィィーーーーーーー!!!」

まるで昆虫のような奇怪な声を発する塊魂。

俺の両手両足に装備された「絶」は精霊水に浸けて作られた布を使用している手袋と靴だ。
これで霊に触れれば、霊はたちまち紫色の炎に包まれる。
さらにその炎は人には無害である。

「安らかに眠ってくれ」

そして俺は落下の勢いをそのまま使い、全力で塊魂を殴り伏せた。
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