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適当な日常

適当な日常

92、いつかどこかで

字書きさんに100のお題 92、いつかどこかで
「Somewhere, someday」

暖かい風が吹く、緑の丘。佇むのは一人の少女。白いワンピース、赤いリボンの麦藁帽子、片手には小さめのトランク。彼女はそこでただ海を見ていた。緑の匂いの中に入り混じる、微かな潮の匂いが鼻をつく。

「もうこの景色も見ることができなくなるのかぁ……。なんだか嘘みたいだけど」

溜息と共に吐き出したその呟きは風に浚われた。


私がこの村を去ることになった理由は一つ。ただ単に高校を卒業したから。この村は辺鄙なところ、要はド田舎。
こんなところに大学があるわけなくて、進学を進路として選んだ私は上京することになった。何で良い大学は都会付近にしかないんだろう?そこんとこどうなのよ、都会から離れたところにある大学の人達?
まぁ、そんなこと愚痴ってもこんなところに大学ができるわけもなく、私は上京する羽目に。正直この村を離れたくないし、都会で暮らすことも不安がいっぱいだ。都会には怖い人がいっぱいいるって言うしなぁ……、誘拐とかされたらどうしよう。
あぁぁぁぁ、悩めば悩むほど不安で押しつぶされそうだっ! できれば家から通いたいよぉぉぉぉ!

「汐音、頭抱えて何やってんの?」
「ほぇ?」

 急な呼びかけで間抜けな声が出てしまった。こんなところで誰かに声をかけられるなんて思いもよらなかったし。

「は、春奈……。何でこんなところに?」
「汐音を探してたのよ。そしたら案の定頭を抱えながら身悶えてる汐音を見つけたってわけよ」

 無意識のうちにどうやら頭を抱えて身悶えていたようだ。って冷静に言ってる場合じゃないっ!

「どうしたの? 今度は急に失意体前屈になって?」
「……なんでそんな言葉を知ってるかは聞かないことにする……。見た目とその名前の通り落胆してるの……」
「? よくわからないけど汐音そのオーバーなリアクションとか直したほうがいいよ?」

 「で、なんで私を探してたの?」
「なんで、ってお別れ言うためじゃない?」
「お別れねぇ……」

 私はお別れという言葉が好きじゃない。二人ともまだ会う機会はいくらでもあるのにまるで一生涯の別れのような響きがする。

「ほら、なんかドタバタしてて学校とかじゃ言えなかったじゃん? なんか今頃だけど、どうしても言いたくてさ」
「ぁー、そういえばそうだね。わざわざ全員にお別れ言いに行ってるの?」
「まぁ……うん」
「それにしても良くここがわかったね……。ぁ、そっか。そういえばここは……」
「うん、忘れない。ここは……」

 この丘は私のお気に入りの場所。子供の頃から何故か知っていて、気がつけば一人そこにいた。
 いつの日か、丘へ行ってみると先客がいて、それが春奈だった。まぁ、詳しく何話したかとかは全然覚えてないんだけどね。ここで初めて出会って友達になったのだけははっきりと覚えてる。
 実は同じ年で同じ学校に行って家も近所って知ったのはすぐ後のこと。それ以来二人でいつも遊びまわっていた。黒板に「乳酸菌とってるぅ?」とか謎な文章書いたりとか日常茶飯事。子供の頃はそういう電波な言葉が良く思い浮かぶもんだ。

「大きくなってからはここ、あんまりこなくなったよね」
「まぁ、流石に大きくなったらこの辺で遊ぶことなんてなくなっちゃうし、仕方ないんじゃないかな」
「やっぱり人は変わっちゃうのか……」

 なんとなく意味深な言葉に思えたのは気のせいか? 私が何か変わったのかな? いやいや、別にいつもどおりの私だと思うけどどうだろ。外見の話? いや、春奈普通に私より胸大きいしスタイルもいいからそんなことないし……。
「汐音? なんかまた悩んでるけど大丈夫?」
「ハッ! なんでもない、大丈夫大丈夫」

 思考が変な方向に飛んでいってしまった。変わったといえば、春奈は凄くスタイルが良くなった。都会のほうに行って街中歩いてたらスカウトされるんじゃないかな? って思うぐらい。もうあれだ、天然記念物?

「……お別れも何処から切り出していいかわからないね」
「私も今までずっとここに住んでたからお別れなんてしたことないしなぁ。どんなこといえばいいかすらわからないよ」

 沈黙を破り、そしてまた沈黙。春奈の表情にはいまだに翳りがあり、その心の奥は伺えない。続く沈黙。再びそれを破るのは春奈だった。

「……ボクね」
「ん?」
「アメリカに、行くことになったの……」

春名の口から発された言葉。アメリカ? 米の国ですか? いや、米の国は日本か。あ、けど米国っていうから米の国で合ってるのかな。って。

「えぇぇぇぇ!? アメリカ!?」
「うぁ、何か考えてると思ったら急に叫びだしたっ!?」

だってアメリカですよ? あんなビッグでバイオレントな場所に行くとはこれ如何に。いやもう混乱してちゃんと考えられないんだけど何で春奈はそんなところに行くことになったのか教えてください。

「な、なななんだってそんな遠くに……?」

混乱する頭を落ち着けて漸くはじき出した言葉はそれだけだった。多分春奈から見て私は酷く狼狽してただろうけど、実際そうだったから仕方ない。

「これは誰にも話してなかったんだけど……、ボクはたまに原因不明の発作を起こすのよ……。発作で倒れて病院に連れて行かれても、異常はない、って。けど前に東京の大きな病院にいったら新しい病気かもしれないって言われて……」
「夏休みに東京に行ってたのは、旅行じゃなくて、そのため?」
「そう、それで研究のためと、ボクの安全のためにアメリカの病院に入院することになったの。お金はかからないけど、長い間日本を離れることになるわ……。帰ってこれるかも……」
「……研究って、まるで春奈がモルモットみたいじゃないっ!」
「でも、ボクガが行けば同じ病状の人が治るかもしれない。それに、アメリカにいれば日本よりは安全よ」
「……っ」

何でこんなときになってそんなことを言うのか……。いや、何で私は春なの苦しみにもっと早く気づいてやれなかったのか。私はいつも春奈の近くに居て、春なのことを一番想っていた。それなのにっ!

「今まで黙っていて、ごめん。もっと早く話をするべきだったね」
「……」

ただ首を横に振ることしかできない。こんな春奈に、私がしてあげられることはないのだろうか。

「それと、後一つだけ」

その言葉に反応し、春奈のことを見たその瞬間だった。柔らかな香りが鼻腔を刺激したと同時、唇にやわらかな何かが触れ、そして離れた。

「…………え?」

何が起こったか理解できなかった。ここにいるのは私と春奈だけ。となると今のは春奈で、さっきのはもしかしなくてもあれですか。接吻いわゆるキス?

「普通じゃないかもしれないけどね……、ボク汐音のことが好きなんだ。友達としてじゃなくて、それ以上の意味で」
「……ぁ」

そうか、変わってしまったのは春奈。こんな感情を抱いて、どうすればいいかわからなくなっていたに違いない。彼女は私といるうちに、変わっていった。

「ア……アハハ、やっぱり引くよね、ごめん。……ボクはもうこれで行くね。汐音、東京に行ってもがんばって」

さよなら。最後に放たれたその言葉。それは今までの私の迷いを全て吹き飛ばした。

「春奈!」

すでに走って行った春奈はもう数十メートル先の地点にいた。風の音しかないのが幸いしたか、彼女は立ち止まり、だがこちらを振り向かなかった。

「さよならじゃない! またね、だよ! 私たちはまた、いつかどこかで会える! だからさよならなんて言わないんだよ!」

全てを出し切った。言いたいこと、それは全てさっきの言葉の中に込められていた。それが伝わったかどうかはわからないが、春奈はしばらく立ち止まった後、また走り去って行った……。

私は丘に、また一人になってしまった。
残酷なことをしてしまったかもしれない。会える希望なんてあるか判りはしないのに、あんなことを言って。
だけど信じたい。これが生涯の別れではないことを。
またいつか、どこかで会えることを。

 「とまぁ、そんな感じのことがあってですね」
「それはまた青春なひと時を送ってたんですね」

あれから5年、すっかり大学は終わって今ではこの村に戻ってきている。そしてこの丘で立っていると一人の綺麗な女性が訪れて、昔話をしていたわけです。

「春奈大丈夫かなー。連絡先ぐらい聞いておけばよかったよ」
「大丈夫だと思いますよ、きっと」

「だって、いつかどこかでって、約束したじゃない」

何か今の発言に違和感があったんだけどなんだろうなぁ……。気のせいかな。というかこの人なんか見覚えがあるんだけど……。

「どこかじゃなくて、また此処になってるけどね」

微笑んだ彼女の表情は記憶を呼び覚ます。間違いない、

「春奈!?」
「気づくのが遅すぎだよ、私は最初から気づいてた」

少し悪戯っぽい笑みを浮かべたその人は紛れもなく春奈だった。いや、でもなんでここにいるの?

「リアクションが大きいところも変わってないね。ホントわかりやすい」
「もう大丈夫なの? 病気は?」
「1年ぐらいですぐ原因がわかって抗体作って後はもう何事もなかったように」

あっさりと。実はもう会えないかもしれないと思っていた私の気持ちは何処へやればいいの……。

「……まぁ、そんな細かいことはおいておくとして」
「ん?」

「おかえり春奈。約束どおり、また会えたね」
「ええ、今日、ここで」

変わらぬ風が、丘を駆け抜けた。



あとがき:
はいはい百合百合ー。といってもなんか微妙ですね。なんでしょう、ソフト百合? 百合にソフトとかハードとかあるかは知らないけどw まぁ1周年+100日の記念ですん。こういうときぐらいはハジケてこんなものかいてみるのも一興。最初ハッピーエンドにするかどうか悩んだ末やっぱりハッピーです。何故か? 当然その方がきっといいからです(ぇ なんか古典の授業でやってたやつで、自分の思い通りに行かないもののほうが風流だとかいってたけどやっぱりハッピーエンドが一番だと思うよ(*´ェ`*) こんな駄文ですがご意見ご感想いただけると嬉しいですー(´ω`)
実は最後の再会の部分は隠しページにしようと思ったんだけど楽天じゃしょぼくてできなす(´・ω・`) フリーページ作るとリンクが勝手に出てくるからねぇー。しかし今更引っ越すのも面倒なのでこのまま(*´ェ`*)


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