ふゆゆん亭

2007/10/27(土)00:48

「喪失」ジュディ・マーサー著 感想

本(203)

●読んだ本● 「喪失」 ジュディ・マーサー著  北沢あかね=訳 講談社文庫 ■あらすじ 目が覚めた時、頭にこぶがあり、顔には傷があり、 血まみれの服と銃がベッドの上にあった。 しかも自分が解らない! その上、鏡で見た自分に違和感を覚え 他人の身体に入り込んだ気持ちだった。 挙句に見覚えのない家の中は 物が散乱していて、 これ以上に無いほどの荒らされようだった。 一体、ここで何があったのだろう? 私は何をしたのだろう? 記憶喪失になっていたエアリアルは、 不安と恐怖感におののきながらも 家の中を片付けながら 自分を知るために色んな物に目を通して行った。 その間もシェパード犬がエアリアルの傍を 片時も離れなかった。 この犬も私の犬? 会社の上司からの電話や近所の人とのやり取りで 自分の生活を少しずつ知り、 これまでのエアリアルを知ると まるで今の自分には想像の付かない女性がいた。 エアリアルが暗闇で手探りしているような状態の中、 また恐ろしい事件が起きて エアリアルは自分が記憶喪失になった原因と それまでの自分の生活を調べ始めた。 新しいエアリアルの人生が始まり、 一つの永遠に失われた出会いと、 それにまつわる素晴らしい出会いと、 事件と自分の謎が解き明かされた。 ■感想 「喪失」なんて言う悲しい題名なので 用心しいしい読み始めたのだが、 エアリアルがとても賢い女性で 人に頼らずに自分で切り開いていく工程で どんどん知らない自分を掘り起こしていく様子が とても面白かった。 勿論、警察や医者に頼るべきではないか? とじりじり思ってしまったのだが、 自分が犯罪者かもしれない恐怖もあって 自分で情況を把握しないうちには 自分をさらけ出さないように行動するあたりが エアリアルにあって私には全く無い 用心深さと芯の強さと強靭さとを感じた。 それまでのエアリアルとは 別人格になったエアリアルは 実は それまでのエアリアルの中でも 息づいていたに違いないと 私は勝手に思った。 人間は表層の人間の真ん中に 本来の芯を持った自分がいるんだろうと思うこの頃。 私の中には もっと賢い私が沈んでいるのかもしれない。 人間として生きるための力を持っている賢さを この愚かで弱い私だって 持っているに違いないと思うのだ。 そして余りにも自分を追い込んだり、 余りにも無理をし過ぎた時に 体調不良や病気や頭痛で これ以上無理をしないようにと教えてくれるのだ。 そう言う点で 私は私の中の賢い自分を信用している。 ジュディ・マーサーはエアリアルの中の そんな賢いエアリアルを引き出したに違いない。 賢く正直でまっさらなエアリアルは 親からの虐待や惨めな生活を 他人事のように客観的に眺めて これまで受けたであろう悪い影響を 全て打ち壊してしまった。 衝撃的な出来事で エアリアルは生まれ変わったのだが、 私は自分の意思でそうなりたいと思っている。 調度そう思っていた時期だったので、 この本はとても興味深いものだった。 人間は変わる事が出来る。 客観的に捉えれば 私だって出来るかもしれない。 そんな風に考えながら読んでいたので とても面白かった。 しかもそんな私の思い入れがなくても この話はとても面白くて 読み始めたら途中で止めて寝るのが とても難しいほどだった。 一度は朝になるまで 何時間も読み続けてしまった。 きっとこの作家が 素適な人なんだろうと思う。 作品は作家を反映しているので、 私の場合は 人間的に魅力を感じない作家の作品を読んでいると 小説にも魅力を感じなかったりする。 先に第2話の「偽装」を読んで面白かったので 第1話の「喪失」を読んだのだが、 予想以上に面白かった。 あっと言う間に読み終わった。 お勧め度は★★★★★です~♪ 甘いかな?

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