ヤザタ

ヤザタ

 アムシャ・スプンタにつづく神的存在のグループがこのヤザタです。
アムシャ・スプンタを大天使とするならば、ヤザタは天使です。
 ヤザタとは、「崇めるに値する者」を意味します。
アフラ・マズダーを最も偉大にして最良なるヤザタと称する様に本来は、特定のグループへの限定されるものではなかったのです。
しかし、一般に神々の組織改装において、アムシャ・スプンタにつづく神霊たちを指していいます。
人間との関係は、ギブ・アンド・テイクであり、祭祀に対して恩恵が与えられます。
ここのヤザタにとり、人間に祭られるかどうかは非常に気にかかる事とされ、他のヤザタと同様に自分も祭られることを望んでいます。
 ヤザタには、男性と女性の別があり、また、特に相互に密接な関係を有するヤザタのグループもあります。
さらに、アムシャ・スプンタのもとに協力関係にあるグループに分類できます。

ウォフ・マナフ――――マーフ、ガウ、ラーマン
アシャ・ワヒシュタ――アータル、スラオシャ、ウルスラグナ
クシャスラ・ワルヤ――フワル・クシャエータ、ミフル、アスマン、アナグラ・ラオチャオ
アールマティ――――アナーヒター、ダエーナー、アシ、マンスラ
ハルワタート――――ティシュトリヤ、(フラワシ)、ワータ
アムルタート――――ラシュヌ、アルシュタート、ザム

以上の分類別に、聖典アヴェスタによる「心霊的(マンヤワ)」ヤザタと、「物質的(ガエースヤ)」ヤザタの二つに分ける法があります。
これはゾロアスター教神学が特徴的なメーノーグとゲーティーグの両概念に対応します。
 ゾロアスター教の神学によれば、現実世界は、霊的なメーノーグ原理に対して、ゲーティーグ原理が展開した結果であると考えられます。
それは。アフラ・マズダーによる創造の事業が、まず霊的なものに始まり、次いで物質界に及んでいくことによります。
 後世の神学では、この二種類を可なるか否かにより決定されます。


心霊的ヤザタ
 ダエーナー(教法)、スラオシャ(忠直)、ミスラ(契約)、ラシャヌ(公正)、アルシュタート(富を作り増大)、ウルスラグナ(勝利)、ラーマン(安寧)、ラーター(寛大)、マンスラ(真言)、ダーモーイシュ・ウパマナ(創造主の呪力)、アルヤマン(款待)、ハオマ(聖酒)、アシ(貞節)、ドォルワースパー(馬の神)、ガウ(牛の神)等

物質的ヤザタ
 フワル・クシャエータ(日)、マーフ(月)、アナグラ・ラオチャオ(無限光明)、アスマン(空)、ティシュトリヤ(星)、ワナント(東天の正座の長)、ワータ(風)、アータル(火)、ナルヨー・サンハ(仲介)、アナーヒター(水)、アパム・ナパート(水)、ザム(地)等


(1)ダエーナー(教法)
 彼女はゾロアスター教の守護者とされ、アシと姉妹です。
この「教法」の女神に関してはアヴェスタにおける擬人的描写が稀薄な事もあり、具体的性格が殆ど不明です。

(2)スラオシャ(忠直)
 「忠直」の神たる彼は、ミスラと同様に真言の具現者と称され、アフナ・ワルヤ等の聖呪を自らの武器とします。
彼は最初にガーサーを唱えた者です。
一日中彼は、アンラ・マンユや宿敵アエーシュマをはじめとする悪魔族と戦うのです。
日没後も、彼は眠ることなく、武器を手にして世界を悪魔の攻撃から護るとされています。

(3)ミスラ(契約)
 この神は、三種の機能があります。
第一は司法神、第二は牧畜の神、第三は戦神です。
元来は光明神であって、語義は「契約」に通じ、人倫の守護者です。
ミトラ=ヴェルナの双神として、起源的にはアフラ・マズダーと同等の資格を有する最高神でしたが、ザラスシュトラ(ゾロアスター)が、アフラ・マズダーだけを最高神としてミスラをしりぞけました。
しかし、イランの一般民衆の間でこの神への信仰は根強く、ミスラが最高神的性格を維持してました。
中世ペルシャの文献では、ミフル(ミスラ)は特に死語の裁判における重要な半官となります。
聖典アヴェスタでも、ミスラは人間の善・悪業の監視者でした。
彼は千の耳、万の眼を持ち、眠らざる者と称され、彼の八人の従者は高台に座して監視すると言われています。
「広き土地の主」とされた牧畜神的性格や、「最も強き者」と称されています。
 光明神としてのミスラの性格が強調されると共に、太陽そのものと同一視される様になっていき、太陽崇拝の信仰を取り込んでいったのです。

(4)ラシュヌ(公正)
 最も正直なものとされる「公正」の神です。
ラシュヌの住居は、七大州に代表されるこの土地、水中、ハラ山などの高地、ワナント星や北斗七星などの星座、月、太陽、最高天である天国とあらゆる世界に存在する。
ミスラと密接な関係を有し、住居を作る者とされます。
死語の裁判での役割は重視され、彼は黄金の秤を手にして人間の善・悪業を量るとされています。

*七州…アルザヒー(西方州)、サワヒー(東方州)、フラダザフシュー(南東州)、ウィーダザフシュー(南西州)、ウォルバルシュティー(北西州)、ウォルジャルシュティー(北東州)、クワニラサ(中央州)が七州です。
最後の七州(中央州)が、我々人間の住むところです。

(5)アシュルタート(富を作り増大さす)
 「富を作り増大さす」とする彼女は、本来「公正」の女神で、死後の判官であるミスラ、スラオシャ、ラシャヌの三神と密接です。

(6)ウルスラグナ(戦勝)
 「戦勝」の神で、特に「アフラ・マズダーの作り給いしウルスラグナ」として崇拝されます。
彼は、戦争における勝利を司るとされた事から、ササン朝でのこの神への信仰は絶大なものでした。
現在のパールシーたちの間で最も神聖視される「帝王火」(バフラーム火)は、歴代の帝王が詣でた聖火を継承しています。
ササン朝期のペルシャ美術で猪のレリーフは、この神の十変身の一つで、戦場で野猪の姿をして、ミスラを先導するのです。

(7)ラーマン(安寧)
彼は「平安」の神です。
この「平安」は、「良き牧地を与える平安」、「平安なる住居」といった物質的な快適さに直結するものです。

(8)ラーター(賦与)
 彼女は「賦与」の女神とされ、アムシャ・スプンタの一員であるアールマティと共に讃歌を献じられています。
「賦与する心、施心」を意味したものです。
施与の徳は重視され、現代のパールシーの間でもこの伝統があり、慈善事業をしています。

(9)マンスラ(真言)
 ゾロアスター教では、呪(真言)を非常に重視し、各種の祈祷の前後には必ず幾つかの呪を唱えます。
この呪の威力は絶大で、各種の病もこの呪により治療されると説くのです。
それはゾロアスター教が、悪魔やその被造物を駆逐すると信じられていたからです。
この中で最勝のものとされるのが、アフナ・ワルヤ呪です。
 アフラ・マズダーやアムシャ・スプンタの名称自体も神聖この上ない真言であるとされています。
それゆえ、呪は神秘の知識に属しており、その知識を伝えるに当たっては、非常に厳しい制約が課せられていた。
このような呪が神格化したのが、ヤザタとしてのマンスラで、スプンタ(神聖なる)の語を付してマンスラ・スプンタと言います。
また、マンスラは「アフラ・マズダーの魂」として崇められています。

(10)ダーモーイシュ・ウパマナ(造物主の呪力)
 邪悪な存在に対する呪詛は神格化され、特に戦闘の際にミスラやフラワシに随伴すると考えられています。
猛々しい猪の姿をしてミスラに随伴します。
またこの神は神聖裁判の場に、風(ワータ)、光輪(クワルナフ)、繁栄(サオカ)と共に、アフラ・マズダーの従者として来臨するとされています。

(11)アルヤマン(款待)
 「款待(かんたい)」とされる性格は、元来人間相互の親密な関係を表示するものでした。
彼のその特性は病気を治療する神格が考えられています。
アンラ・マンユが世界に創りだした九万九千九百九十九の病の治療を行います。
その治療法で最も優れたものは呪文であるとされました。
アルマヤーマー・イシュヨーと称される呪文は、全ての病を治療し、死をも駆逐する聖呪として、教徒が重んじています。

(12)ハオマ(聖酒)
 彼はアフラ・マズダーにより教徒の象徴であるクスティー(聖紐)を最初に与えられた者であり、金色の体は光り輝き、高き山の頂上に住んでいます。
「死を遠ざける者(ドゥーラシャ)」という称号もあります。
エフェドラという植物からハオマ酒は出来ます。

(13)アシ(貞節)
 彼女はアフラ・マズダーを父とし、スプンタ・アールマティを母としています。
そしてミスラ、ラシュヌ、スラオシャは彼女の兄弟であり、ダエーナーとは姉妹関係にあります。
財宝を授けるものと言われ、また恵み深き「福徳」の女神であり、「貞節」な女性の守護神とされています。

(14)ドゥルワースパー(馬の神)
 家畜の守護神のひとりで、「馬に健康を賦与する者」です。

(15)ガウ(牛の神)
 牛の神です。
「牛の造成者(グーシュ・タシャン)」と「牛の魂(グーシュ・ルワン)」とも言われます。

(16)フワル・クシャエータ(日)
 その名称は「輝ける太陽」の意味です。
彼は、「不死なる者」、「富める者」、「駿馬持てる者」等と称されています。
彼は、アフラ・マズダーの眼と称され、彼が自らの姿を現すや、一切のものを浄化するとされます。
これに対して、もし太陽が昇らざる時は、悪魔が七大州を破壊し、神々はそれに対抗できないといわれます。

(17)マーフ(月)
 月神で、マーフ・ヤシュトによれば、光り輝き富める者にして、堅固なる住居を所有し、自らの中に牛の種子を保持する者です。
月はワフマン(ウォフ・マナフ)より生じ、その月から牛が生じたとされています。

(18)アナグラ・ラオチャオ(無限光明)
 元来は、アフラ・マズダーの座す天上界を形容した「無限光明」が独立の神格として崇拝されたものです。
地上の光とは、明確に区別されます。
この「無限光明」は、義者の赴く天国であるガロードマンとほとんど同義に用います。

(19)アスマン(空)
 石を意味するアスマンが天空神を意味するのは、古代アーリア人が天空を石で出来ていると考えていたことによります。
後世の神学では、天空が第一に創造されたものであり、その際、戦場たるこの世界より悪が逃げられるように、堅固な石で作られたとされるのです。

(20)ティシュトリヤ(星)
 シリウス星が雨神とされるのは、この星が見え始める時期が雨季の開始と重なっていたためです。
彼は干ばつの悪魔アバオシャを駆逐し、イランの人々に収穫をもたらす神として、多くの星の中でも第一に崇拝された。
アフラ・マズダーは、彼の全ての星の長として創造したといわれています。
人々が彼を祭り、彼を称賛すれば、水の種子を持つ彼は雨をもたらし全ての被造物を育成する。
さらに、彼は善き住居を与える物であり、千の恩恵を意のままにする者であり、臣従する人間には乞おうと乞うまいと恩恵を与える者であるとされます。
彼は最初の十夜は十五歳の男子に、次の十夜は牡牛に、最後の十夜は白馬に変身すると説かれ、この白馬の姿は、宿敵アバオシャとの戦闘に際してとる姿だと言われています。
アバオシャは、黒馬の姿であると言われています。

(21)ワナント(東天の星座の長)
 彼は東天の星座の長で、伝説によれば世界の中心にそびえ、太陽がそこを通過するとされるエルブルズ山中の門を護る神とされます。

(22)ワータ(風)
 ゾロアスター教では、風(ワユ)は二種類に分かち、一つは善なるもの、他は悪しき性質を有すると言われています。
彼はアフラ・マズダーに創られ、雄強にして美しく、勝利的なるものであるとします。

(23)アータル(火)
 火を神と人の仲介者として考え、特にアフラ・マズダーの息子と称して重視しました。
それゆえ、火は絶やしてはならず汚してはならないものとされます。
火に息を吹きかけたり、火葬することは大罪に値するとされ、火の浄化に関しては細やかな規定があります。
アータルは、多くの恩典を人間に与えるヤザタですが、物質的なものと共に、知識、聖性、雄弁、理解力、といった精神的価値の賦与者であることを特徴とします。

(24)ナルヨ・サンハ(仲介)
 彼はアータルと密接な関係があり、アフラ・マズダーの使者と言われます。
ヴェーダのナラーシャンサがアグニ(火神)の別称とその天界と人界の仲介者です。

(25)アナーヒター(水)
 彼女はササン朝で格別の尊敬を受け、アルドウィー・スーラー・アナーヒターと称され、「湿潤にして強力かつ汚れ無き者」という意味です。
彼女は魅力的な美しい乙女の姿をしており、黄金の衣服を身にまとい、黄金の靴をはき、黄金の装身具を身につけて、四島の白馬の引く車に乗ります。
彼女の本質が水神で、台地を流れる一切の水にたとえられ、七大州に流れ下ります。
彼女の全てを善き者の守護者とし、この世界において祭られるべきものであり、讃えられるのです。
恩典は偉大で、灌漑を増大し、耕地を増大し、富を増大し、領土を増大させます。
また女たちに安産を与え、男には戦闘の勝利を恵みます。
さらに難問を解く知恵さえも、彼女が与えるとされます。

(26)アパム・ナパート(水)
 彼は水神です。
アナーヒターによって影が薄いが水中のヤザタとし、駿馬持てる者とします。
彼は水を世界の各地に配分し、人間を創造し形成したとも説かれています。

(27)ザム(地)
 彼女は大地の守護神であるべきであるが、アールマティがこの機能を代表し、ザム自身は生彩を欠きます。
もっぱら光輪(クワルナフ)の偉功を讃えています。

その他のヤザタ
 心霊的ヤザタでは、富を司る女神パールンディは、アンと共に行動します。
チスターは白衣をまとい知を司る女神、ウォフ・マナフに随伴するアークシュティは平和の女神です。
 物質的ヤザタでは、暁の女神ウシャハ、牡牛座のアルデバランに比せられるサタワエーサ、北斗七星ハプトー・リンガ、アフラの水を意味するアフラーニー等がある。


フラワシ
 フラワシは、善の王国を形成する神的存在の一つです。
本来祖先の死後の霊魂を意味していたと考えられ、古代イラン人の祖先崇拝を物語るものです。
ゾロアスター教では、単に人間に止まらず、全ての善き存在がフラワシを有すると考えられています。
アフラ・マズダーをはじめとして神々も、天空も、大地も、水も、植物も、動物も自らのフラワシを有しています。
このフラワシは、それを讃える者が悪の力と戦うに際し助力し、家や村や国家を保護し繁栄に導くとされるのです。


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